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第1526話 名無しさん 投稿日: 03/05/17 00:02 ID:x2svE8Ao
           「たとえ花が散ろうとも」
 「最早我が家に残された武器はこれだけしかない」
 台に置かれた数本の木刀や飛び道具を前にニッテイさんが言いました。その声は力強いもの
でしたが小さく衰弱が見てとれました。
 「2、3人分、それも一回の喧嘩位しか持ちませんね」
 カイグンさんが木刀を手に取り言いました。
 「栄えある我が日之本家がまさか・・・」
 リクグンさんもいつもの強気さは全く見られません。
 「敵は家のすぐ側に集結している。ソレン家の者もいるそうだ」
 「同盟を結んでおきながら・・・」
 「やはり信用できなかったか」
 ニッテイさんはそれまで組んでいた腕を解きました。そして一本の木刀を手に持ち二人に言
いました。
 「わしが行く。連中もわしの首が得られればもう何も言うまい。後は御本家が上手くやって
くれる筈だ」
 日之本家本家の御当主はこの度の喧嘩には反対でした。しかしその願いも空しく喧嘩は始ま
ってしまったのです。
 「あとのことは頼んだぞ」
 ニッテイさんのその言葉にカイグンさんとリクグンさんは微笑みました。清々しい、けれど
も全てを捨てた決意が見られる哀しい微笑みでした。
 「何を言われます。我々が行きます」
 「そうです、この度の喧嘩を起こし指揮してきたのは我々です。我々が行かなくてどうしま
すか」
 「何っ、お前達・・・」
 二人の顔を見てニッテイさんはそれ以上言葉を発せられませんでした。
 
 「負け戦をし日之本家を今の状況に追い込んだのは我々です。今こそその責任
を負います」
 「それに我が家の者にも嘘をつき続けてしまいました。我等の罪は万死に値し
ます」
 「だが死んでどうなる、死んで花実が咲くものか」
 「花、ですか」
 二人はまた微笑みました。
 「花は散るのが定め。散った花は生まれ変わり再び咲き誇りましょう」
 「花が散ろうともその心は残ります。その花びらだけが花ではありますまい」
 「・・・・・・・・・」
 ニッテイさんはもう何も言えませんでした。二人は武器を手に取るとゆっくり
と立ち上がりました。
 「家の再興には兄上の御力が必要です。どうか早まれることのなきよう」
 「御本家と家の者のこと、しかと頼みますぞ」
 「・・・・・・うむ」
 その夜二人は家を出ました。それが日之本家の人達が見た最後の後姿でした。

 「さて、と行こうか」
 家のすぐ側に多くの男達がいました。アメリー家、エリザベス家、チューゴ家
の者を中心とした様々な家の男達です。ソレン家の者もいます。
 「今日で日之本家を潰す。跡形もなくな」
 アメリー家の誰かが言いました。
 「家の跡地は分割だ。ニッテイも家の奴等も皆二度と立ち上がれないようにし
てやる」
 手には花火があります。先程二発お見舞いしたばかりです。
 日之本家へ進む一団、その前に二人の男が現われました。
カイグンさんとリクグンさんでした。二人共手には木刀が握られ軍服の上にマント
を羽織っています。
 「へえ、まさかそっちからわざわざ出向いてくれるとはね。こりゃあ都合がいい」
 「お前等さえ潰せば日之本家は丸裸だ。遠慮はしないぜ」
 二人をぐるりと取り囲みます。彼等が武器を取り出したのを見て二人はマントをば
さり、と脱ぎ捨て木刀を構えました。
 「いい顔をしているな」
 リクグンさんの横顔を見てカイグンさんが言いました。
 「ふ、貴様こそな」
 今までいがみ合ってばかりいた二人の心が結びつきました。白銀色の光を放つ満月
の下で二人は剣を振るいました。激しい剣撃と雄叫びが濃紫に染められた夜の空に木
霊しました。

 ニッテイさんがその場に現われた時喧嘩は終わっていました。戦場には多くの戦士
達が倒れていました。そのなかにはカイグンさんとリクグンさんもいました。二人共
血の海の中です。もう長くないことは闇夜でもはっきりとわかります。
 「・・・馬鹿者共が」
 戦場に倒れている二人も見てニッテイさんは呟きました。
 「あ、兄上・・・来られたのですか。連中に大和魂見せてやりました」
 「闘い抜いてやりました。もう我々を舐めてかかったりして来ぬでしょう」
 「うむ、うむ・・・」
 頷いています。けれどその言葉は次第に出なくなりました。
 「・・・またお会いしましょう」
 「桜の咲くあの場所で」
 「ああ、必ずな」
 そう言い残し二人はこの世を去りました。二人を家へ運ぶなかニッテイさんは泣い
ていました。それまで一度も泣くことのなかったニッテイさんが初めて心の中から泣
いていました。
今カイグンさんとリクグンさんはニッテイさんと一緒にいます。ニッテイさんの
眠る靖国の墓で三人は桜の花吹雪に包まれ静かに眠っています。ニホンちゃんを、
日之本家の人達も見守りながら。
 彼等の過去を捏造し誹謗中傷する愚かな輩共が日之本家にもいます。ですが彼等
は今結託していたキッチョム君共々裁きを下されようとしています。
 「貴方達の名誉、必ず守ってみせる」
 今日もウヨ君はお墓参りに来ています。
 「そしてその志、はばかりながら俺が受け継がさせて頂く」
 お墓参りを終えウヨ君はその場をあとにしました。遠くから姉が自分を呼ぶ声が
します。
 桜の季節は過ぎ五月の花が咲いています。五月雨のなか赤、紫、白と三つの色で
お墓の周りを色彩っています。五月はやがて散り紫陽花が咲くでしょう。四季とと
もに花は移り変わります。ですが花は永遠に咲き続けます。人の心がある限り。

解説 名無しさん 投稿日: 03/05/17 00:10 ID:x2svE8Ao
 今回は歴史ネタです。ソースは神風特攻隊。本当はこんな最終決戦は行われなかった
のですが。
 江田島や鹿屋には特攻隊の資料が多くあります。若くして散華した彼等に思いをはせ
ずにはいられません。彼等のいる靖国神社は我々が護っていかなくてはなりません。

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