戻る
<<戻る
|
進む>>
第1527話
名無しさん
投稿日: 03/05/20 03:27 ID:NUSYkux9
「薔薇の騎士」
「お祖母様お早うございます。ご機嫌如何ですか?」
休日の朝エリザベスちゃんがビクトリアさんに朝の挨拶をしました。
「お早うエリザベス。とてもいい気分だわ」
ベッドから上体を起こし挨拶を返します。淡い黄金色の朝陽に照らされた豊かな金髪
は白いものはひとつとしてなく、その青い瞳はサファイヤの様です。気品と優雅さを兼
ね備えたその顔は老いたりとはいえかなりの美貌を誇っています。エリザベスちゃんは
よくお祖母様似と言われますが確かに彼女が齢を重ねるとこういった貴婦人になるので
しょう。
「今日のハンカチはどれにいたしますか?」
エリザベスちゃんが銀のテーブルを前に差し出します。その上には何枚かの絹のハン
カチが綺麗に折られ置かれていました。
「そうね、どれにしようかしら」
ビクトリアさんはかなりのハンカチ好きで知られています。そのコレクションは何百
枚にも及びデザインも素晴らしいものばかりです。
「あら」
テーブルにその白い手を延ばしたときそのうちの一枚に目を奪われました。
「このハンカチは」
黒地に赤と白の二つの薔薇が刺繍されたハンカチです。重厚な黒の絹地に鮮やかな二
つの薔薇が映えます。
「あの時からもう見ることもないと思っていたのに。まさかまたこのハンカチを手に
取る時が来るなんて」
ビクトリアさんの眼が細くなります。そして過ぎ去りし遠き日々へ想いをはせます。
かってビクトリアさんはニッテイさんと恋仲にありました。このとき彼女はすでに
結婚しており不倫と後ろ指さされても仕方のないことでした。ですがお固いニッテイ
さんが相手ということもありその関係はプラトニックなものでした。
このときビクトリアさんはニッテイさんに一枚のハンカチを送りました。黒地に二
色の薔薇のハンカチでした。
ニッテイさんとビクトリアさんの交際は双方にとって多大な利益をも生み出しニッ
テイさんがロシアノビッチ家との喧嘩に勝利を収められたのもこの交際あればこそで
した。二人の交際は何時までも続くものと考えられました。しかしこの交際を快く思
わない人達もいました。
アメリー家とチューゴ家です。当時アジア丁へのビジネス拡大を狙っていた彼等に
とってこの交際は眼の上のたんこぶでした。また家の当主が替わったばかりのチュー
ゴ家もゴタゴタしており彼等が介入してくるのをおそれていました。両家はことある
ごとにこの交際について騒ぎ立てました。
最初二人は両家の意図を見抜いておりその騒ぎを無視していました。しかし騒ぎが
大きくなり地球町中のゴシップにまで発展しました。町で一番の家の女当主と名家の
御曹司との不倫となれば当然でしょう。両家のなかにもこの交際に異義を唱える人達
が出てきました。
アメリー家の白亜の宮においてこの交際は解消されることとなりました。ニッテイ
さんは奥さんを迎えることとなりアメリー家やフランソワーズ家を交えた四家でのつ
きあいをすることになりました。ここにロマンスは別れを告げたのです。
「これはお返し致します」
ニッテイさんは一枚のハンカチを差し出しました。それはあのときの薔薇のハンカチでした。
「・・・はい」
ビクトリアさんにそれを拒むことは許されませんでした。
「お元気で」
「さようなら」
一礼するとニッテイさんはそのまま部屋をあとにします。扉にはうら若き彼の妻がいました。
絹の様な長く黒い髪、翡翠の如き神秘的な瞳、桜色の肌は桃を彩った日之本家の服『着物』に
包まれています。小柄で少し触っただけで折れてしまいそうなこの少女は何故か彼に相応しい
ように感じられました。
窓から二人が屋敷をあとにするのを見送りました。声はかけませんでした。もう全ては終わ
ってしまったことなのです。
「さようなら、私の愛しい騎士よ。そして過ぎ去りし麗わしき日々よ」
ビクトリアさんも部屋をあとにします。このとき彼女はニッテイさんから返されたハンカチ
を落としてしまいました。ですがそれに気付きませんでした。そのまま部屋を去りました。
しかしそのハンカチは一人の使用人が拾いました。そして彼も部屋をあとにし誰もいなくな
りました。
ハンカチはこの使用人がなおしました。ですがビクトリアさんはこのハンカチを二度と手に
とろうとはしませんでした。やがてこのハンカチは奥に隠れるようになりました。
(そのハンカチを今見るなんて。忘れたいと思っていたのに)
ハンカチを手にとり眺めます。
(不思議ね。今手にするとあの日々が次々と思い浮かぶわ)
そのときチャイムを鳴らす音がしました。
「あ、来たわね」
「どなた?」
「お友達ですわ。今日うちでお茶会する約束でしたの」
「まあ、それでしたら私も参加したいわ」
「え、ですけど・・・」
「たまにはいいのでなくて?それともこのお婆では嫌なの?」
「いえ。大歓迎ですわ」
「ふふふ」
お茶会のメンバーは5年地球組の女の子達でした。そのなかにはあの黒髪の少女もいます。
空色の着物に青い袴を着たその少女を見てビクトリアさんの心は懐かしいノスタルジアに包
まれました。
(似ているわ、あの子に)
あのときの着物の少女、本当なら憎いはずなのに愛しさを感じたあの人に。
(そしてあの人にも)
何処かニッテイさんの面影が感じられます。不意にニホンちゃんを呼びました。
「はい」
澄んだ綺麗な声です。
「貴女にこれを」
前に出したハンカチはあの薔薇のハンカチでした。
「いいんですか?こんな素晴らしいデザインのハンカチを」
「よろしくてよ。本来なら貴女が使うべきものなんですから」
「?」
「ふふふ」
ビクトリアさんは優雅に微笑みました。曲が演奏されます。それはエリザベス家の古い歌、
日之本家では『蛍の光』という題で知られるゆったりとした旋律の曲でした。
解説
名無しさん
投稿日: 03/05/20 03:39 ID:NUSYkux9
今回も歴史ものです。ソースは日英同盟、元ネタはリヒャルト=シュトラウス
の楽劇『バラの騎士』です。ビクトリアさんはこの楽劇のヒロイン元帥夫人を当
たり役としたエリザベート=シュワルツコップをモデルにしました。彼女の歌唱
はカラヤン盤で聴けます。『蛍の光』はスコットランド民謡ですがニホンちゃん
の世界ではエリザベス家の一員なので最後にいれました。
みにふろの補完用スレでここには書いて欲しくない、といわれる方もおられま
すが僕はここに書かせていただきます。あちらは議論する場と思いますし作品は
ここにのせるべきと考えていますから。これについてもご意見お願いいたします。
この作品の評価
結果
その他の結果
選択して下さい
(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
コメント: