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第1556話
ナナッシィ
投稿日: 03/06/08 12:56 ID:BzDepQfT
『Rainy merry―go―round』
空を覆う暗雲、その身から生み出される無数の雫が、大地を穿ちとめどない悲鳴を周囲に響かせます。
その声に包まれ、紫苑ちゃんは鉛色の空と、
目の前に下ろされた水のブラインドを憎憎しげに眺めていました。
にわかに降り出した雨は、当分止みそうにありません。
暫く校舎の玄関先に佇んだ後、視線を鞄に向け、紫苑ちゃんはもう一度その中を探ります。
朝、天気予報を確認して用意したはずの代物は、しかし見つかりません。
「・・・・どこにいったのかしら・・・・」
紫苑ちゃんが口元に手をあて、先ほどから何度も繰り返した思考に再び陥りかけた時、
蜃気楼の向こうから、小さな影が近づいてくるのに気がつきました。
影は少しずつ大きくなり、雨音に混じりバシャバシャという足音を紫苑ちゃんの耳に届かせ始めます。
やがてそれは輪郭を伴って雨の中から飛び出し、紫苑ちゃんの隣にその正体を現しました。
「ちくしょー! いきなり降ってきやがって・・・・・あ〜、びしょびしょだぁ〜」
体中に纏わりつく水滴を濡れた手で軽く拭い、顔にへばり付く短い黒髪を両手でかき上げた所で、
影は漸く紫苑ちゃんの存在に気付き、そのまま目を丸くします。紫苑ちゃんも同時に口を開きました。
『あ』
影の正体は、パレス=シナ君でした。
その体から幾筋かの水滴が、音も無く滴り落ちました。
数秒間か、互いに見つめ合った後、不意に紫苑ちゃんは「プ」と口元を押さえて吹き出しました。
その表情の変化にパレス=シナ君は敏感に反応し、顔全体に苛立ちを映して噛み付きます。
「なんだよ、何笑ってんだよ・・・・・」
「フフ、別に。こんな雨の日にも傘を持ってこないオ・バ・カ・サ・ンなんて思ってないわよ」
「お、お前こそこんな所で立ち往生してるじゃないか! 傘持って来なかったんだろ!」
「フフン、私は傘をなくしただけ。少なくとも傘も買えない貧乏人とは違うわ」
「・・・・むっか〜〜〜! マジ切れた! 略してマジギレ! 喰らえ自爆テロ!!」
パレス=シナ君は突然宙に身を躍らせ、再び空からの銃弾を全身に浴びながら
紫苑の目の前に広がる水溜りに思い切り飛び込みました。
虚を突かれた形の紫苑ちゃんは一瞬飛び退くのが遅れ、膝元まで泥水をしたたか浴びさせられました。
軽く舌打ちをする紫苑ちゃん。
「わはははははは! どーだ恐れ入ったか!! ざまあみろだ!!」
高笑いするパレス=シナ君を死ぬ程睨みつけましたが、殴りかかった所で自分も濡れるだけなので、
とりあえずこれ以上水を掛けられない様に、後ろに下がって水溜りから距離をおく事にします。
それからゆっくりと振り返って、思いっきり侮蔑と憐憫の情を帯びた視線を喰らわせてやりました。
「・・・・・・・・・ムキ―!」
パレス=シナ君は大層悔しそうな顔をしましたが、それ以上雨の中にいても仕方ない事を悟ったのか、
下唇を突き出しながら、再び玄関先の屋根の下に入ってきます。そして互いにそっぽを向きました。
結局、またも全身を濡らしてしまったパレス=シナ君は、濡れた手で体のそこかしこを拭っています。
横目でそれを盗み見た紫苑ちゃんは、それでも、完全に拭いきるのは無理だと思いました。
自分は既にハンカチで拭き終わっていましたが、靴下に染みた泥汚れまでは取れそうにありません。
やがて、パレス=シナ君も諦め、軽く膝を抱えた姿勢のまま、校舎の壁に背中を触れさせました。
いまだに水分を保つ衣服がパレス=シナ君の体に貼りつき、その貧相なラインを浮き立たせます。
紫苑ちゃんもまた少々距離をおき、立ったまま校舎の壁にもたれかかりました。
―――― ざぁざぁざぁ・・・・・・・・・
「・・・・・・・雨・・・・・・・・止まないわね・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ん・・・・・・・」
「いつまで・・・・・・・・・・・・降ってるのかしら・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ボクが知るか・・・・・・・・」
「・・・・・・・そうね・・・・・・アナタが知るわけないわね・・・・・」
紫苑ちゃんは少しパレス=シナ君がむっとした空気を横顔に感じましたが、
相手もそれ以上特に何をするとでもないので、そのまま黙殺します。
どれ位の時間そうしていたでしょうか。
厚い雲に遮られて空に太陽の姿は無く、その傾きから時刻を判断するのは不可能でした。
そして、長いような、短いような、そんな曖昧な二人の沈黙は唐突に破られます。
「おう、どうしたこんな所で・・・・二人で仲良く雨宿りか?」
能天気な声の主――アメリー君を二人で仲良く睨みつけました。
「・・・・・・なんだ、そんな怖い顔すんなよ。ほれ」
何処から持ち出したか、アメリー君は派手なタオルをパレス=シナ君の肩にかぶせました。
一瞬当惑の表情を浮かべたパレス=シナ君は、タオルを手で確認し無言で少しだけ頭を下げました。
それを見て幽かに口元を歪めたアメリー君は、更に鞄をごそごそとし始めます。
「さて、ここで問題だ・・・・・・ここに取り出したるは一見何の変哲もない折り畳み式の傘。
しかし意味深な3段式の憎い奴。で、俺は別にもう一本持っていたりする。さて如何に?」
「・・・・・・まさか、私達に相合傘でもしろって云うつもり?」
「ご名答、傘ゲッツ!」
それを聞き、体を拭いていたパレス=シナ君が金切り声をあげました。
「な、な、何云いやがる! それより、お前の傘をボクに貸せ! 残りのでお前と紫苑が・・・」
「だって、お前ら近所じゃーん。俺ん家逆方向な上に遠いし〜」
「で、でも・・・・・・ボ、ボクはヤだからな! それに紫苑だって・・・・・・」
「私は構わないわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「・・・・・・・・だ、そうだが?」
アメリー君は今度ははっきりと分かる表情で、笑みを浮かべていました。
「なかよくかえれよ〜〜〜〜」
「うるせーばかやろー!!」
本気なのか冷やかしなのか分からないアメリー君の声に、パレス=シナ君が首を捻って返しました。
結局、背に腹は変えられず、紫苑ちゃんとパレス=シナ君は一つの傘で帰ることになったのです。
その二人の後ろ姿を、アメリー君が先程とは打って変わった真摯な表情で見つめていると、
「アメリー! ワタクシが議長の会議を途中で抜け出すなんて、一体どういうおつもり!?」
甲高いヒステリーな声にやや閉口しながら、アメリー君は顔だけフランソワーズちゃんに向けて、
雨の中に消えてゆく二人の背中をちょいちょいと指差しました。
その二人の姿を視線の先に捉えると、怒り心頭だったフランソワーズちゃんも急に醒めて、
それならしょうがないという諦めた表情でため息をつきます。
「・・・・・で、どうですの? あのお二人は上手く行きそうなのかしら?」
「うむ! 間違いない、二人の関係は(俺様のおかげで)前進した!」
「でもヘタしたら、またメリーゴーランドのように一回回って元の位置、なんて事にはならなくて?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・それ、嫌味かよ」
「勿論嫌味でしてよ。それと、みんなの問題でもあるのだから、あまり一人で勝手しないで下さる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふん(ちっ、相変わらずヤナ女だな)」
「おい、そんなにボクに近づくな、ボクに触るな! っつーか押し出すな! 不当占拠だ!!」
「何よ、そしたら私が雨に濡れちゃうじゃない、体の小さいアナタこそそっち・・・・って暴れないで!」
「うるさいうるさい、ここは――――――」
―――― 二人、蜃気楼のようにゆれながら歩む道は暗く、強い雨が降り続いていました。
(おまけ)
パレス「ところで、お前、アメリーのこと好きなのか?」
紫苑 「・・・・・・まあ、嫌いじゃないわね・・・・(私の事を絶対に裏切ら(れ)ないという点ではね)」
パレス「かー!だっせ〜、あんな青臭えガキのどこがいいんだよ〜」
紫苑 「(ムッ)じゃあアナタはどうなのよ?」
パレス「ボクか? ボクの憧れは断然ビン○ディン叔父様さ!
あの不健康そうな顔色、窪んだ目元、鬱陶しい髭、もうサイコー!!」
紫苑 「・・・・そう・・・・って話が違うじゃない(いずれにせよアメリーには教えられないけど・・・・)」
おしまい。
得炉認定を受けたナナッシィでふ(涙) 汚名返上にと取り繕った作品つくりますた(←無駄ニダ)
.。oO(にしても、『傘とガザ』なんて幼稚園レベルのシャレ、恥ずかしくて言えっこないよぉ・・・・)
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