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第1611話
無銘仁 ◆uXEheIeILY
投稿日: 03/08/03 20:26 ID:JGwCYvmV
「あんちゃんの思い出」
「あの日もすっごく寒かったっけ……」
ほの暗い冬空を窓ごしに眺めているうち、そんな言葉が口をついて出ました。
ふとカンコ家を見やると、カンコ君が焚き火で芋を焼いています。
あらら、チョゴリちゃんがやってきて喧嘩が始まりました。
焼き芋の取り合いにでもなったのでしょうか。いじきたないですねえ。
「あ、なによあれうちの旗じゃない!」
おやまあ。なんとカンコ君は日の丸で焚き火をしていたのでした。
チョゴリちゃんが怒るのも無理はありません。
楽しいお正月だと言うのにすっかり気が滅入ってしまいました。
「あ〜あ、あんちゃんがあんなの見たらなんて言うのかな……」
あんちゃんはカンコ君の遠い親戚でした。日ノ本家で勉強がしたいというので
ジミンさんに頼んで下宿させてもらっていたのです。
あんちゃんはカンコ家の他の人たちと違って、いつもニホンちゃんやウヨ君に
優しくしてくれました。
「どうしてうちに来たの?どうしてわたしをいじめないの?」
カンコ君にいじめられていた幼いニホンちゃんは、不思議に思って
尋ねたことがあります。
「私は、日ノ本家を知りたかった。近くて遠い家を理解したかった。
両家の交易関係を学んで、ウリナラで貿易の第一人者になりたかった」
ウリナラ語ではなく流暢な日ノ本語を話すあんちゃんの、しかしウリナラ魂に
あふれる答えでした。
日ノ本家で十分に学んだあんちゃんがウリナラへ帰ろうと思い始めたころ、
悲劇は起こりました。
「おねーたぁん、あんちゃんが死んじゃったよーうわーん」
「ええっ?武士、それ誰に聞いたの?」
「おとうさんとおかあさんが話してたんだ。電車にひかれたって。うえっく」
頭の中が真っ白になりました。後で両親から聞いた話だと、あんちゃんは
線路に落ちた男性を助けようとして亡くなったということです。
しかも、ニホンちゃんの親戚もこのとき一緒に亡くなっていました。
同じように咄嗟に線路に飛び込んだその人は、カメラが好きな人の良い
おじちゃんでした。
日ノ本家の人たちは二人の死を悼み、見舞金を出したり報道特集を
組んだりしました。この事故にカンコ家の人たちはたいへん驚きました。
実はあんちゃんのおじいさんは、ニッテイさんが第二次町内大喧嘩に
参加したとき一緒に戦って、ニッテイさんが負けたせいでひどく苦労を
積んだ人だったのです。だから本当なら日ノ本家を大嫌いになっても
おかしくない素性だったのです。
両家とも多くの人が、しがらみを忘れて真の友好を誓い、
あんちゃんと同じように他の家で学ぶ人のための基金まで設立しました。
アサヒパパは新聞にこう書きました。
「人を救う気持ちには日ノ本もウリナラもない、どこの家のものかで
区別しないことこそこの事故から学ばねばならないことである」
あれから数年が経ちました。シューキュー大会を共催したり、
シシローおじさんが靖国へ参拝したり、いろいろなことがありました。
でも……とニホンちゃんは考えます。あんちゃんとおじちゃんが身をもって
示してくれた道標をわたしたちは辿れているんだろうか。
「いつも後悔のない生活が出来る、そんな私になりたい」
あんちゃんが生前語っていたことが思い出されます。
カンコ家の人たちは「過去の不幸な歴史を真摯に見つめるニダ」と
ことあるごとに強弁します。竹島ぱんつはカンコ君に取られたままです。
ザイ君やザイニーちゃんは何かと言えば「差別ニダ」と言い募り、
キッチョム兄の悪事がばれても「ウリたちも被害者ニダ」です。
ウリジナルや朴李による喧嘩はおさまる気配もありません。
これでは以前と何等変わりのない関係ではないですか。
わたしの力が足りないからだ。あんちゃん、ごめんね。
ニホンちゃんは蒲団の上にバタンと突っ伏しました。
ウヨ君がニホンちゃんの部屋に入ってきました。
「姉さん、どうしたんだよ。部屋に閉じこもっちゃってさ。
子供は風の子だって父さんも言ってたし、外へでようよ」
「ほっといて。どうせわたしなんて……どうせうちはカンコ君から見たら
敵なんだから。どれだけ頑張ってもむりなの」
「何をわけのわかんないこと言ってんだい。オレは外で遊ぼうって言った
だけなのに。まさか姉さん、あの事故を思い出してるの?」
「……」
「そりゃああの時は友好がどうのって言ってたけど、カンコのやつ
冷めるのも速いからなあ。気にしなくていいよ、うちはうちなりに……」
「ほっといてよ」
「……なあ、姉さん。この前コルシカがまたラスカに絡んでさ。
揉めてたからオレ、止めようとしたんだよ。
だけどやっぱり止められないんだ、いつも。
そしたらヨハネが助けに来てくれたんだけど、あいつなぜかオレにまで
一緒に説教を聞かせるんだよ。汝の敵を愛せよ、なんてさ。
どういう意味なんだろね。……じゃあオレ、居間で待ってるから」
ニホンちゃんはまた一人きりになりました。
あんちゃんは敵を愛したのかもしれない。でもわたしはカンコ君を敵だと
思っていない。敵だと思っていないのに愛することも出来ない。
どうしたら、いいの?
ピンポーン
呼び鈴が鳴りました。ニホンちゃんはおもむろに起き上がると、のそのそと
力なく玄関へ向かいました。
「どなたですか〜」
「ウリニダ。ニホンさん、さっき兄さんが日の丸で焚き火をしたニダ。でも
兄さんも反省してるし本当は遊んでほしいだけニダ。ごめんなさいニダ
……あれ、ニホンさん、目が赤いニダ」
「あう、気にしないで。大丈夫、怒ってないよ。って、あれ、カンコ君?」
チョゴリちゃんの後ろからカンコ君が駆けてきます。
「ニホン、さっきは悪かったニダ。友好の証として一緒に焼き芋を食べて
正月を祝うニダ!焼き芋はウリナラ起源……」
「ちぇすとぉー!」
ズギャッ!轟音とともにカンコ君は地表に顔をうずめました。
「あれ、タイワンちゃん。どうしたの。え、え、みんな来たの……」
「やあニホンちゃん。みんなで遊びに来たぜ」
「君の家の正月は特徴的らしいから見学に参った次第だ」
「美食家のわたくしは日ノ本家の正月料理に興味がありますのよ」
「あなたには色気より食い気がお似合いですわ。ニホンちゃんは別でしてよ」
「さすが大和撫子には着物が似合ってるね〜。どう、後で二人でお雑煮でも」
「おい、イタ公…… や ら な い か ? 」
「ウェップ。正月は雑煮より酒だよな〜『オミキ』だっけか」
「うちはまだ正月じゃないアルけど、みんなに合わせたアル」
「ワ、ワスも来たダス。うちは暑いのに急に……フェックション」
「へえ〜、これが冬ってやつなんだ、ジャワ寒い!」
「寒い日は辛めのカレーを食べると、体が温まって(・∀・)イイヨイイヨー」
「今回くらいは僕を忘れないでほしいな……」
「アイゴー、ウリを忘れるとは酷いニダ。顔が土まみれニダ。謝(ry」
どうやら五年地球組のほぼ全員が日ノ本家へ来たようです。
「……ありがとう、みんな。さ、あがって!」
どこかであの二人が、手をつないで見守っている。そんな気がしました。
解説
無銘仁 ◆uXEheIeILY
投稿日: 03/08/03 20:29 ID:JGwCYvmV
ttp://www.chaeil.net/HTML/Stories/2001/11/03/10048060493.html
ttp://www.nishinippon.co.jp/media/news/0101/tenraku/tenraku.html
ttp://home.nownuri.net/~gibson71/
(韓国語)
ttp://warutan.cool.ne.jp/hibioriori/ookuboziken/ookuboziken.htm
ttp://www.chaeil.net/HTML/Stories/2003/07/24/10590086442.html
ttp://www.chaeil.net/HTML/Stories/2003/06/07/10549773632.html
季節外れの上、長文スマソ。ではご意見ご批判お待ちしております。
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