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第1650話
有閑工房1
投稿日: 03/09/14 15:52 ID:2syqXhkC
『おそうじ番長』
この度ゲルマッハ君は美化委員になりました。
秩序を重んじ公正な判断をすると、先生をはじめ皆から太鼓判を押されたからです。
とはいえ、委員でもないのにやたらと口を挟むくらいならいっそそのものにしてやれ
と言う気持ちが皆にありましたが。
自分にも適任と思ってか、ゲルマッハ君張り切って仕事をしています。
「と言う訳で、このクラスでは他に先駆けてゴミの分別をもっと徹底して行いたいと
思う。」
誇らしげにゲルマッハ君が提案し、アメリー君やユーロ班は渋々と、他の皆は歓迎し
ながら賛成しました。そう、誰もが彼に任せちゃえば大丈夫と簡単に考えていたので
すが、3日もしないうちに全員が後悔する事になりました。
「アメリー、ゴミはちゃんと分けて捨てるように言っているだろう。」
「えー、めんどくさいじゃんかよ…」
「皆で決めた事だ。ちゃんと守ってもらおう。君は決まりを守ると言う精神に少々不
誠実な面が見受けられる。皆で決めた際君の意見も取り入れたわけであるし、自分か
ら言った事は少なくとも守るべきではないかと常々思っているのだが?」
「わかったよ。うるせえなあもう…次からちゃんとするからそれで良いだろ!」
「その『次』があと何度あるのかを正確に聞きたいところだな。少なくとも今まで12
回は聞いている。」
アメリー君、ウンザリした様子でその場を立ち去ります。内憂を外患で全てごまかし
ているので、こういう事には歯切れが悪いです。
「さて、チュウゴ。君は要らなくなった物は見えない所に捨てれば良いと考えがちの
ようだな。」
「い…いきなり何アルか。朕のことは放っておいて欲しいアル。」
「そうもいかない。こういう事は一人一人の自覚が大切だ。」
「他のやつらがちゃんとすれば、朕もするアル。」
身に覚えがあるのかチュウゴ君不機嫌です。ゲルマッハ君、不思議な顔をしてチュウ
ゴ君に語りかけます。いや、語ると言うより尋問かもしれませんが…
「チュウゴ、君は常々アジア班で班長になりたいと言っているだろう。リーダーと言
うのは他者の模範として行動しなければならない。この場合で言えば決まり事を守り、
行動でそれを示し、誰かが違反すれば厳正に注意する。そのような態度が必要だ。然
るに君は率先して違反を犯し、他者の違反には目を瞑るか殊更批判するかを行い、リ
ーダーと言うよりもフーリガンに近い行動が目に付く。言行不一致は一番他者の信用
を失うと言う事を知っているのか疑問を感じざるを得ない。当然誰かの上に立つとな
ればすべからく全ての人に納得のいく行動や態度を示せない物だ。だからこそ普段の
行動から自らのひととなりを示す事は重要ではないだろうか?アメリーにもその傾向
はあるが、大事に事を成し得るからといって瑣末な事を看過するのは、例え公正・厳
密な対応を取ってもエゴや自己保身の為の行動と取られる事も多い。そのような錯誤、
不利益を被らない為には、繰り返しになるが…ん?どうしたチュウゴ?」
流石のチュウゴ君もいっぱいいっぱいのようです。
「さて、ニホン。君にも一言良いだろうか?」
ゲルマッハ君、自分の責務からか手当たり次第に吹っかけます。
「な、なあにゲルマッハ君。」
ニホンちゃんは少々顔が怯えを含んでいますが、それでも健気に笑顔で応じました。
さりげに隣で談笑していたタイワンちゃんがいなくなります。
「君はアジアでも優等生と言って良いだろう。クラスの決まり事もきちんと守り、他
の友人にも助言や援助を惜しまない。」
「ど、どうも。」
ニホンちゃん内心『しかしだな』とか言われるのを嫌だなと思っていました。
「しかしだ。」
『はうっ…やっぱりこうなるの?』
当たって欲しくも無い予想が当たり、カンコ君のファビョンとは違った意味でニホン
ちゃんは鬱になってきました。
「自分の身の回りの物を片付けるのに何故そんなに道具が必要なのだ?見たところ機
能が重複するものや分別の仕方に多少疑問が残るのだが?」
「ええとお、それはそのお…」
「優秀な道具を揃えても、運用する人間によって結果は大きく変わってくる。君は家
でも努力は重ねているようだが、形作りを重視するあまり中身については無頓着にな
ってはいないだろうか?」
「そうかも…しれ」
「そうニダ!大体ニホンはムダな事ばっかりやってウリたちに迷惑をかけてるニダ!
人の心配する暇があったら自分のやってる事を早く直すニダ!ニホンは反省しる!つ
いでにウリに賠償するニダ!」
「なんでそこでカンコが出てくる?君はニホンの件に無関係と思うが?それに言わせ
てもらえば、ニホンは君に助言をしてやっているのではないのか?」
「いや、なんて言うか…」
「ハッ!ウリはニホンに助言をされるほど落ちぶれていないニダ!ウリナラの技術を
もってすればゴミなんてケンチャナヨーニダッ!」
「ふむ。確かに表向きカンコの言っていることは正しいか。君の家は大きさ故にゴミ
に関しては真剣に取り組まざるを得ないからな。」
「当然ニダ。ほっといたらウリの家はゴミだらけになるニダ。ウリとアポジは毎日家
をきれいに掃除しているニダ。ニホンには尊敬されても侮辱されるいわれはないニダ!!!」
ふんぞり返って堂々とカンコ君が言います。確かに意外なほどカンコ君ちは掃除に精
を出しています。
「ゴミを出させない努力、出したゴミを処理する努力はカンコにも見られる。それは
賞賛に値する。」
「当然ニダ。ゲルマッハはウリを尊敬シル…」
「だが、」
「ニ…ニダ?」
「表面上取り繕っているだけでは真に尊敬に値するとは言い難い。何故なら生活とは
即ちゴミを生み出すことに他ならないからだ。それはあたかも…」
「ちょっと待つニダ!難しい言葉を並べてウリを誤魔化す気ニダな!その手は食わな
いニダ!」
ゲルマッハ君が心外だという風に眉根を寄せます。どうもこれでもレベルを下げたつ
もりのようです。
「そうか。それならわかり易く昔話に例えようか。あるところにおじいさんとおばあ
さんがいました…」
「ウリィィィィーーー!!!パカにするのも程があるニダァァ!ゲルマッハは反省シル!!」
「何なのだ一体。カンコに合わせて話しているだけではないか。大体…」
火病と理論の戦いがこうやって火蓋を落としました。
途中で放置されたニホンちゃん、二人の間で小さくなっています。
「ニホンちゃん、ちょっと…」
「あ…、タイワンちゃん。どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ!早くここから逃げなきゃ」
「あ…そ、そか」
こっそり抜け出して教室の外に退避するニホンちゃん。エキサイトした二人は全然気
が付いていません。
「はぁぁ。こわかったあ。」
「ニホンちゃん大丈夫?」
「なんとか…あ、でもどうしてタイワンちゃんあそこからなくなったの?」
「あ、うん。ちょっと……ね。」
お家のゴミに関しては、昔のこととはいえスネに傷持つタイワンちゃん。『三つ葉マー
クのゴミは絶対隠さず徹底管理』という地球町の鉄の掟を守らずえらい目にあったこと
があるからです。
「ファビョーーーーーーーン!!!!!」
その時教室の中からおなじみな叫び声が上がり、二人同時に溜め息をつくのでした。
おしまい
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