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第1888話 マンセー名無しさん 投稿日: 04/06/06 10:36 ID:9Dw9nf2O
すいか(1/2)

ある日のこと。朝から眠くてぼうっとしているニホンちゃんに擦り寄ってくる人影がありました。
「ニホン、ちょっとうちで作物が取れすぎたニダ。売りつけるので買うニダ。」
カンコ君です。手にはちょっと小振りですがおいしそうなスイカ。
「え?持ち合わせないんだけど・・・ま、いいか。」
眠くて物事を深く考えられないニホンちゃん、食欲の命ずるがままに受け取ってしまいました。
釣りから戻ってからというもの、キムチに加えて発酵したお小水のような臭いを発散させていたカンコ君も、
9日を経た今では流石に普通のキムチ臭です。いや、それでも十分臭いんですけどね。
彼のスイカもキムチが・・・と思ったら、意外とおいしそうです。
思わぬ朝ご飯にほくほくしながらニホンちゃんは学校への道をゆっくり歩いていきました。

さて、教室に入り、いつものメンバーといつもの挨拶を交わすニホンちゃんでしたが、
今日に限って約一名、挙動不審な人がいました。
誰あろうその人とはタイワンちゃん、彼女も小さなスイカを抱えていたのですが、
不審なことにニホンちゃんの手にあるスイカを見てもじもじしています。
年が年なら色っぽいのでしょうが、クラスメートにとってスイカにアンニュイなため息をつく彼女の姿は
十分不気味なものでした。いつもは何かと口を出そうとするチューゴ君でさえ視線を逸らせています。
「あの・・・ニホンちゃん、おはよう・・・」
「あ、おはよう・・・」 タイワンちゃんの「・・・」はともかく、ニホンちゃんはとても眠いのです。
自然と声も伸びるのですが、そんなこととは露とも知らないタイワンちゃん、熱っぽい目でニホンちゃんを見ています。
「あの・・・そのスイカ・・・」
どきどきどき。彼女にしか分からない理由で、彼女の胸は高鳴ります。
しかし次の言葉を聞いた瞬間、彼女の胸の高鳴りは一気に冷めました。
「ああ、これ? カンコ君にもらったんだよ」
「!!??」
すいか 2
相変わらず彼女にしか分からない理由で、愕然とするタイワンちゃん。
ニホンちゃんはお隣ということでそれなりに多くの物をカンコ君とやり取りしていますから、それほどおかしな話ではないのですが。
「そうなんだ・・・あはは、ちょっとびっくりしちゃった。」
「?」
首をかしげるニホンちゃん。当たり前です。なんでスイカをもらうくらいで死にそうな顔をされてしまうのか、まったく訳がわかりません。
「それで、どうしたの?なにか用事があるんじゃないの?」
「あ・・・うん。あのさ、スイカ取れたんだけど、もらってほしいかなー、なんて・・・」
「もうカンコ君にもらったのがあるから、いいよー。また今度ね。」
しゃくしゃくスイカをかじりながら答えるニホンちゃん。親友の普段ならざる顔に疑問を覚えるものの、
基本的に食欲と睡眠欲の狭間で戦っている今の彼女にそんな深い洞察など出来ません。
タイワンちゃんは、呆然と愕然が混交したなんとも奇妙な表情で席に帰っていきました。
「まさか、カンコの奴が・・・いやいや、多分ニホンちゃんは知らないんだろうけど・・・でも、まさか・・・・・・」
体を小刻みに揺らしてぶつぶつと呟きつづけるタイワンちゃんに、午前中を通して話し掛ける人はいませんでした。
そんな昼休み、遅刻して説教を食らったカンコ君に、ニホンちゃんが珍しく自分から話し掛けていました。
「あ、ありがとうねカンコ君。スイカおいしかったよ。」
「うむ。そうニダか。あれはいいものニダ。ウリナラ半万年の技術の結晶ニダからな。そうそう、そんなニホンに、これも売ってやるニダ。感謝するがいいニダ。」
そう言って取り出したのは、これまた大きくおいしそうなニガウリ。
ニホンちゃんの家でもよく食べられる食材です。彼女はにこにこ笑って受け取りました。
彼も彼女も、少し後ろで灰になっている少女のことなど気づきもせず。
さらに時間は進んで放課後。午後になってさらに狂気の増した観のあるタイワンちゃんには、さしもの豪傑フラメンコ先生も声をかけるのを躊躇っていました。
すいか 3
帰り支度をはじめるニホンちゃんを呼び止めたカンコ君、珍しくファビョることも謝罪と賠償を求めることもなく、
のんびりニホンちゃんと談笑しています。
『ああ、だめよニホンちゃん、いい男なんてほかにもいるでしょうによりによってバカンコとなんてだめだめだめだめ絶対にだめ』
タイワンちゃんは、なにが根拠か脳内でいろいろ考えているようです。鼻血が少し出ていますね。
「あ、そうニダ。忘れてたニダよ。ウリナラの誇る農業技術が生み出したこのキュウリ、試食してみろニダ。
うまかったらチューゴ君のところやアメリー君のところにも売り出そうと思うニダ。」
「あ、おいしそう。ありがとう!」
頬を(食欲で)染めてうつむくニホンちゃん、そこはかとなく(キュウリも売れて)嬉しそうなカンコ君。
そんな光景を見たタイワンちゃんの脳神経は瞬間的にスパークしました。
「だめ!! だめよニホンちゃん!こんな年で人生を棒に振るなんてだめだよ! おちついてよく考えて!!」
いきなり絶叫しながら現れたタイワンちゃんに二人ともあっけに取られていましたが、
タイワンちゃんの脳内フィルターを通すとそれは、さながら大事なデートを邪魔された新婚夫婦。
ますますエキサイトした彼女、呆然とする二人に大熱弁を開始しました。
曰く、10歳でそこまでするのは早すぎる。お互いしか見えてない状態だからまず落ち着かないと、
そもそもカンコはそういう相手としてははなはだ不適切、カンコと親しくなった家は必ず没落する云々。
「な・・・なにを言ってるニカ?」
「さあ・・・」
ファビョることも忘れて唖然とするカンコ君に、ニホンちゃんもそう答えるしかありませんでした。
すいか 4

しばらくして息をついたタイワンちゃんに、おずおずとニホンちゃんは話し掛けました。
「ねえ。朝から変だったけど、何を言ってるの?」
「そうニダ。さっきからウリへむちゃくちゃ言ってるが、脳みそでも煮えたニカ?」
「へ?」
彼女らがなにも知らないことを、いまさらながらに思い出したタイワンちゃん。
そんな時、通りがかったアメリー君。タイワンちゃんが朝から手に持っていたスイカを見て、
「お、うまそうなウォーターメロンじゃないか。もらっていくよ」
さくっととっていきました。本来は(彼女的には)喜ばしいことなのに、タイワンちゃんは無反応です。
自分の壮大な勘違いにひたすら呆然としていました。
見かねたチューゴ君が割って入らなければ、3人は日が暮れるまでそうしていたことでしょう。
「ちょっと待つアル。タイワンのたわ言は理由があることアル。タイワン、おまえもしっかりするアル。」
これはタイワンのところだけの文化なので朕もよく知らないのアルが、と前置きして彼は話しました。
今日に限って、相手にある野菜を送るのは求愛のポーズであると。
スイカは愛嬢、ニガウリは熱愛、キュウリにいたっては求婚の意味がある、という。
とうとうと彼が述べ立て終わると、ニホンちゃんもカンコ君も先程とは別の意味で真っ赤になっていましたとさ。
まあ元からカンコ君の顔色は赤に近いものですが・・・・。
タイワンちゃんは結局、チューゴ君に頭をはたかれるまでは茫然自失のままでした。
すいか おまけ

なんとなく気まずい思いで道を歩くニホンちゃんとカンコ君、彼らの会話を少し聞いてみましょう。
「ウ・・・ウリの渡した物に他意はないニダ。そこのところ誤解されると困るニダ。その・・・でも・・・
ニホンのほうからキュウリを渡すのはそれはそれでケンチャナヨ・・・いやいや、そんなことになると
アボジの鉄拳が降ってくるニダ。やっぱりだめニダ!! 謝罪と賠償しる!」
「はあ・・・?」
色気もなにもありませんね。ニホンちゃんももう、隣のキムチ臭い物体よりも晩御飯が気になっているようです。

なお、次の日、タイワンちゃんは欠席しましたが、ニホンちゃんとカンコ君の机には、見事な大ぶりの南瓜が1つずつ、「謝」という一文字を彫り込まれて鎮座していたそうです。
さらにその次の日、アメリー君はスイカのジュースをお返しにタイワンちゃんに送ったそうです。

解説 すいかを書いた香具師 投稿日: 04/06/06 11:43 ID:9Dw9nf2O
長くなった上に分かりにくくてごめんなさい。
最初はオーソドックスにスイカをもらうニホンちゃんとあげるタイワンちゃんを
考えていたのですが・・・。
それに、毎度毎度「謝罪と(ry」でも芸がないですし、カンコ君には今回第三者を演じてもらいました。
タイワンちゃんの風習を知っててもいいのかもしれませんが、それだと結局カンコ君は小悪党ですしね。
それに知ったら知ったでやらなさそうでもありますし。
ただ、特に自分は韓国中国が好きなわけでもありませんし、台湾が嫌いなわけでもありませんけど・・・。
ソースは>>576氏のとおりです。ありがとうございました。
だが私は謝らな(PAM

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