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第1895話
マンセー名無しさん
投稿日: 04/06/13 21:02 ID:98ZzQf+F
通り魔 1
「ですから、死ぬかと思いましたわ。いきなり何の脈絡もなく切られそうになったのですもの」
ここは学校からの帰り道。三々五々帰っていく生徒たちの中で、ひときわ声を張り上げているのはフランソワーズちゃん。
どうやら、数日前、帰りがけに通り魔に会ったようです。
周りの子供たちは、自分たちの近くを徘徊している恐怖に、半ばびびりながら聞いています。
「で、どうだったの?切られたの?」
「切られてたら、私は今ごろ集中治療室ですわ。」 アーリアちゃんの問いに首を振るフランソワーズちゃん。
いくら心臓に剛毛が生えている女傑・フランソワーズちゃんとて、所詮は一介の小学生。
大人の男が殺すつもりで向かってきたことは、彼女の心に深い恐怖を齎していました。
寒くもない季節なのに、ぶるぶる震える女性陣とは対照的に、男性陣は随分やる気です。
通り魔 2
「淑女を襲うなんて許せないやつだ!ボクがぶちのめしてやる!」
アメリー君が吼えれば、普段はのほほんとしたオージー君ですら怒りを露にしています。
他の皆も似たり寄ったり。姉さんにくっついて上級生たちに混ざっているウヨ君に至っては、愛刀を抜き放って
先日家の「鹿島の間」で披露した演舞の型をなぞる始末。
そんな中、ふとニホンちゃんが尋ねました。
「それで、その通り魔ってどういう感じの人だったの?」
通り魔 3
気づけば、夕暮れも近く、そろそろ黄昏時。周りの景色も心なしか不気味です。
彼ら彼女らの周りにも、数人の人影が見えるだけ。彼らの少し前を歩く青年も、せかせかと家路を辿っているようです。
「そうですわね・・・身長は175センチ前後、黒髪で眼鏡はなくて、少し太り目で、・・・・・・あ。」
そのとき、前を歩く青年がふと後ろを振り向きます。
その眼差しに、フランソワーズちゃんは見覚えがありました・・・。
「あの・・・あの、前を歩く男ですわ。間違いなく。」
妖怪の話をしていたら妖怪に会ったようなもの。一同は、ギョッとしたように立ちすくみました。
「まさか・・・本当か?」
酔いも一時に吹っ飛んだロシアノビッチ君の問いに、フランソワーズちゃんはゆっくりと頷きました。
襲い掛かってくる狂暴な顔、愉悦に満ちた目、手に光るナイフ・・・見間違えるわけがありません。
そして、そうと分かった後の彼らの行動は迅速なものでした。
仕切り屋のアメリー君に、今日はみんな文句も言わず従います。
「エリザベス、リヨンへ連絡を頼む。ウヨ、カンコ、それにゲルマッハは右翼、ロシアノビッチとオージー、アフガンは左翼へ回ってくれ。
マカロニーノ、カナディアン、チューゴ、ボクと一緒に来てくれ。タイワンちゃん、ニホンちゃん、女の子達を頼む。」
「了解だ」「わかりましたわ」「OK(オーカイ)ダス」「神速を以って尊しアル」「わかった、任せとけ」
ばっ、と左右に別れる小学生たち。
男は、後ろの子供たちの不審な行動に気づいたのか、歩く速度を速めます。
通り魔 4
「おい!そこの通り魔!」
アメリー君が呼びかけました。びくっとして立ち止まる青年。
「おまえが最近、巷を騒がせている通り魔だってわかってるんだ。動くな(フリーズ)!」
恐る恐る振り向く青年ですが、自分を睨み付けているのが年端も行かない子供だとわかり、大げさなほど安堵のため息をつきます。
「なんだ、子供じゃないか。おいガキ、大人を使って遊んでんじゃ・・・」
「私は見ましたわ!」
青年の言葉を抑えるように、後ろから叫んだのはフランソワーズちゃん。
びくつく心をカール大帝以来の誇りで押しとどめ、胸を張って叫びます。
「私を見忘れたとは言わせませんわよ!あなたが、間違いなく、私を襲った通り魔です!」
ぎょっとする通行人、それ以上にあたふたする青年、いや、通り魔。彼は脱兎のごとく駆け出そうとしました。
しかし、それを見逃す一同ではありません。
「OK!ボーイズ!ヤツを逃がすな!ロックンロール!」
アメリー君の叫びに、周囲に散っていた少年たちは一斉に飛び出しました。
「婦女子を斬るなど、男の風上にも置けぬ奴!チェストーーッ!!」
「このっ、謝罪と、賠償、しるっ!!」
襲い掛かるウヨ君の剛刀をかわした先には、カンコ君のつま先がありました。
普段ニホンちゃんを挟んでいがみ合っているとは思えないほどの連携です。
通り魔は、右腕をしたたかに打たれ、左腕でやっとナイフを取り出し応戦します。
しかし、少年たちの動きはそれ以上に素早いものでした。
足を引くカンコ君に合わせ、ロシアノビッチ君のコサックキックがうなり、
オージー君が巨体にものをいわせて突進すれば、慌てて避けた通り魔の腰をつかんでマカロニーノ君が投げ飛ばします。
たかが小学生の集団だと侮った通り魔のほうこそ哀れというべきでしょうか。
しかし、彼もただ黙ってやられているだけではありませんでした。
通り魔 5
「中華4000年の歴史が産んだ拳、よく思い知るアル!把ッ!」
チューゴ君の蹴りで、いっそすがすがしいほどの速度で錐揉みしつつ吹き飛ばされる通り魔。
しかし激痛にうめきながら、彼の唇には嫌らしい笑みが浮かんでいました。
「チューゴッ!そっちはまずい、ニホンたちが!!」
「あっ!?」
そう、吹き飛ばされる先には、ニホンちゃんたち少女の一行が。
ニホンちゃんとタイワンちゃんがすかさず構えて迎撃しようとしますが、
彼自身のジャンプにチューゴ君の拳圧が合わさって、まるでコンコルドのようなスピードで襲いくる通り魔に
さすがに対応しきれそうにもありません。恐慌状態に陥りかける少年少女たちを、しかし土壇場で救うものがいました。
「これで・・・あのガキどもを人質に取ればまだ何とかなるかも・・・・・・え?」
そう、恐ろしい勢いで吹き飛ぶ通り魔の襟を、正確な手さばきでむんずとつかんだのはアフガン君。
少し前、アメリー君にさんざん叩かれた傷跡も痛々しい彼が纏うのは、黒帯も勇ましい柔道の道義。
「え・・・エイヤーッッ!!」
ぐるっと通り魔を遠心力で回し、足を自分の足指でつかんで地面に叩きつける、
彼の技は地球町で柔道を習った者なら誰しも聞いたことのある伝説の技。
「まさか・・・」
しかし、この中の誰一人として、アフガン君が柔道を習っているなんて聞いたことはありません。
風の噂か、航空相撲なんていう奇妙な武術を使うという不気味な話はありましたが。
今度こそ頭を強打し、地面に昏倒する通り魔。
誰もなにも言えないうちに、アフガン君は倒れた彼を手際よく縛り上げ、
「大丈夫か? みんな。そろそろICPOも来るんだろ?怪我はないか?」
一連の騒動を見事に収めてしまったのでした。
「す、すごいじゃない!アフガン君!見なおしたよ!」
「どこで習ったんだ? そんな凄い技!」
びっくりして駆け寄る友達に、彼はふんわりと微笑み、
「ニホンちゃんが教えてくれたんだ。アメリーにやられた後で、平和になったから、僕もこんなことを習えたんだよ。
でも出来れば、将来はニホンちゃんの家に行って、本格的に習いたいんだけどね。」
そう、静かな声で答えたのでした。
解説
マンセー名無しさん
投稿日: 04/06/13 22:37 ID:98ZzQf+F
ごめんなさい、連投してしまいました。しかも重いものを・・・
通り魔 おまけ
この一連の騒動でテレビ取材をうけたフランソワーズちゃんは、後にこう報道陣に言っています。
「あのときほど、それぞれが団結して戦ったことはありません。小さな戦い、小さな勝利ですけれど、
私はあの時いた人々のことを一生忘れないでしょう。
通り魔には、然るべき罰が下されることを期待しますわ。
そしてアフガン君。彼の勇気と男気は賞賛に値します。いまだに生傷の絶えない彼と彼の家が
少しでも平和を取り戻すことを切に祈っております。」
みなへの感謝を込めつつ、自らのためのリップサーヴィスも忘れない、、フランソワーズちゃんの面目躍如というところでしょうね。
ちなみに、その他の子供たちのコメントはこの通り。
「「「初めてアメリー(チューゴ、カンコ、ウヨ、ロシアノビッチ)をムカつき無しで見れた」」」
「「あの時はイルボン(ウヨ)を仲間だと思えたニダ(アル)。まあ一瞬だけだったけど」」
「また台詞がなかった・・・ボクだって頑張ったのに。」
「まあまあ、私は見てたわよ。かっこよかったじゃない。」
「「「「ロシアノビッチが酔ってないところ、久しぶりに見た。」」」」
「「「マカロニーノもやるときゃやるんだなあ。なんで一家挙げての喧嘩だとああなんだろう・・・」」」
「ウリもかっこいいところを見せたかったニダ。」
一人、その場にいなかった人が混ざっているようですね。
通り魔 ソース
たびたび書かせていただいております。いつもいつも長いものですいません。
今回のソースは、ネットではなく、NHKでぼうっとみてた一週間の国際ニュースです。
それに見合ったソースをネットから見つけようとしたのですが、うまく見つかりませんでした。ごめんなさい。
使ったニュースは
「フランスで、テレビ取材中の通り魔事件の被害者が、放映中に容疑者を発見し、即刻タイーホ」
「鹿島神宮で、古武術を演舞」
「アフガニスタンで、真新しい畳を日本からもらって、少年少女が柔道を練習。将来は日本で修行したい、と少年コメント」
の3つです。
どういう展開にしようか迷ったので、少し脚色させてもらいました。
ちなみに、フランソワーズちゃんの最後のコメントはフィクション、マカロニーノ君が強い、というのは
パンクラチオンからの連想です。カンコ君はもちろんテコンドー。由来はともかく、実際強いですからね。
ありがとうございました。
だが私は謝らな(ry
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