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第1919話
北極星
投稿日: 04/07/04 16:13 ID:ycDqTJZR
『女だらけのシューキュー大会 〜〜女子サッカーやらないか〜〜』
五年地球組の昼休み。
「――やらないか」
ベトナちゃんは無表情に誘いました。
ニホンちゃんを。
椅子の背に手を回し、まるでベンチを占領したような姿勢で。
「やらないか」
それはシューキューを始める際の儀式。
手近な椅子にふんぞり返り、クールに相手を見つめなければなりません。
「……あ」
いきなり誘われたニホンちゃんはようやく我に返りました。
「ベトナちゃん、シューキューしたいの?」
「ええ。ダメ?」
「ダメじゃないけど――」
奥歯に物がはさまったようにニホンちゃんは口ごもりました。
はっきりいって、シューキューの実力ではベトナちゃんはまったくダメダメなの
です。
それでも負けん気の強い彼女は何回負けようと再挑戦しつづけ、ニホンちゃんは
手を焼かされるのです。
ベトナちゃんのシューキューは典型的な『下手の横好き』なのでした。
(ベトナちゃん、負けると頭に血がのぼるしなー)
弱って天井をみあげる黒髪の少女。
校庭から男子のはしゃぎ声が聞こえ、ふと妙案を思いつきました。
「ねえ、ベトナちゃん。たまにはさ」
「?」
「変わったルールでやらない? 女子縛りで。女の子カードしか使わないの」
「……女子縛り」
「そう。どうかな」
実力差の比較的少ない女子デッキなら、ベトナちゃんもいい勝負ができるかもし
れません。
相手をコテンパンに熨してしまうことを避けるニホン風の気遣いでした。
「いいわ。ならもう一度――」
ベトナちゃんはベンチを仮想して足を組みました。
「やらないか?」
妙に凛々しい表情。
(う〜〜……)
この儀式にはいつも異和感をおぼえるニホンちゃんです。
いったいだれがこんなバカげたことを始めたのでしょうか?
でも仕方ないので、
「ウホッ! いいデッキ……」
と返しました。
この時、なるべく物欲しそうな顔をするのがマナーなのでした。
で、その日越親善・女子シューキュー戦ですが……。
開始3分いきなりニホンちゃんがゴールを叩きこみ、ベトナちゃんの肩が、ピクッ、
と震えました。
さらに前半7分、前半終了間際とつづけざまにゴールネットを揺らし、ベトナちゃ
んはわなわな震えだして、なんか怖いオーラがどろどろ発散されました。
(やっばー)
心中泣きたくなったニホンちゃん。
ベトナちゃんは女子縛りでもダメダメだったのです。
ハーフタイム後もニホンちゃんの勢いはとまらず、追加点のたびに、
後半13分―――ベトナちゃんの息がはずみ、
後半15分―――シューキュー盤に前のめり、
後半40分―――火を噴きそうな眼光で得点盤をにらみつけ、
ロスタイム――なにやらぶつぶつつぶやきだし、
と、えらくイヤな空気のなか7-0とニホンデッキの圧勝でシューキュー試合は幕を
閉じたのです。
がくっ。
アオザイの少女はシューキュー盤に突っ伏しました。
「……ベトナちゃん?」
ニホンちゃんが、おずおず声をかけました。
「ねえ、ベトナちゃんてば」
「――ん? ああ」
とろんとした目つきで、少女は顔をあげました。
「だいじょうぶ?」
「うん? ああ、だいじょうぶ」
「――もう一回、やろうか?」
気まずげに切りだすニホンちゃん。
「いい。もう昼休みもおわるし」
アオザイの少女はゆらりと立ち上がりました。
「? どこにいくの?」
「お手洗い」
幽鬼のような足取りでベトナちゃんは廊下にでました。
トイレに向かいながら脳裏をよぎるのはさきほどのシューキューの試合なのです。
攻めこまれるとがたがたになるフォーメーション、ボールに集まってしまう選手
カード、意味のないパス回し……。
どばごうっ!!
壁を渾身の力でぶん殴り、クラスメイトをぎょっとさせるベトナちゃんなのでした。
解説
北極星
投稿日: 04/07/04 16:18 ID:ycDqTJZR
ソースは4月17日(日)の日本対ベトナムの女子サッカー五輪予選です。
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(*^ー゜)b Good Job!!
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