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第1921話
更科うどん ◆bc/WMtRnlQ
投稿日: 04/07/07 00:52 ID:uEj0T0P3
『木漏れ日の下で』
夏を迎え、いよいよ強くなりはじめた日差しも、緑の蔽いの下では幾分落ち着いてくる。
立ち並ぶ樹木をぬって涼気がさざめき、まだらになった日ざしがちらちらと揺れる。
学校の片隅にあるささやかな緑の木立。その中を、やわらかな芝生を踏みしめ、
作業服姿の男がゆっくりと歩いていた。
やがて男は、樹林の中でひときわ目立つケヤキの大樹の前に来ると、
立ち止まってその樹をしげしげと眺めた。
「―――やっぱりか。まずいなあ……」
思わず声に出してつぶやく。男がこの学校に勤めてもう長くなるが、こんな事態は初めてだ。
「おじさん、何してるんですか?」
声をかけられて振り向くと、そこに黒い髪の少女が静かに立っていた。
本を一冊胸に抱えて、楽しそうににこにこと微笑んでいる。
でもなんだかぼんやりした顔だ。木陰で本を読んで、そのうち居眠りでもしていたのだろうか。
起こしてすまなかった、と言いかけて、かえって少女に悪いかもしれないと思い直し、
男は出かかった言葉を飲み込んだ。
「いや、ちょっと樹がね…」
「この樹がどうかしたんですか?」
男の気を知ってか知らずか、少女は相変わらず寝ぼけた口調だ。
まだほんの子供だ。それに、ここが好きらしい。
そんな少女にこれから自分が言う事に胸が痛むが、でも嘘はつけない。
「この樹は病気なんだ」
「………えっ………」
「少々厄介な病気が流行っていてね。これだけじゃない、この辺の樹はみんな元気がない」
「………………。」
「もうこの辺の樹も年寄りだし、ここには小さな子供もたくさんいるし、いろいろ難しいんだ……」
「……………………。」
悲しそうにうつむく少女に、男は笑いかける。
「せっかくの学校の緑だし、みんなで考えてくれたらいいんだけどねえ」
「………そうですか。みんなに知って欲しいですか考えて欲しいですかそうですか」
うつむいた少女の眼鏡が光る。彼女は既に完璧に覚醒していた。いろんな意味で。
さっきまで胸に抱えていた分厚い本が、いつの間にか手帳とペンにすり変わっている。
彼女の愛読書であるところのO江健3郎の単行本は地面にずり落ち
ぺっちゃんこになっているが、少女はそれに目もくれない。
少女は昂然と胸を張り、高らかに宣言する。
「わたしが報道してあげます」
真実、ああ真実! ただそれこそは彼女が求めるもの。
「……え? いや、だって君は」
「わたしが報道してあげます」
誰も彼女を止められない。
彼女は決して止まらない。
「だから、君はね……」
「わたしが報道してあげます」
「………………。」
ただ、自分の望む真実に向かって。
決意に満ちた表情で足早に立ち去っていく少女。
男はその背中を複雑な表情で見送ると、傍らの大樹に目をやる。
そこにはまだ新しい、彫刻刀で刻まれた痛々しい傷跡がくっきりと…。
解説
更科うどん ◆bc/WMtRnlQ
投稿日: 04/07/07 00:57 ID:uEj0T0P3
朝日新聞(6月30日付)より
web版はこちら
ttp://www.asahi.com/science/update/0629/002.html
<琉球列島のサンゴ礁、感染症が急拡大 寄生虫も急増>
琉球列島のサンゴ礁に感染症などの病気が急速に広がっていることが、
名桜大学の山城秀之助教授(生物学)らのグループによる研究で分かった。
サンゴの病気は、沖縄県で開かれている国際サンゴ礁シンポジウムの
主要なテーマにもなっており、山城助教授らは7月1日、国内の例について発表する。
(中略)
環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター(沖縄県石垣市)が
調査したところ、石垣島と西表島の間にひろがるサンゴ礁
「石西礁湖(せきせいしょうこ)」と周辺では、黒帯病が4地点、
腫瘍が9点で確認された。またテーブルサンゴの先端が溶けて白くなり、
死んでいく病気は、調査地点の2割近い22地点で見られた。
90年代以降のサンゴの病気の急激な拡大には、環境の悪化とサンゴの
免疫力の低下が影響していると見られる。
山城助教授は「オニヒトデや白化現象を免れたサンゴが被害を受け、
新たな脅威になっている。海外では壊滅的な被害を受けた地域もある。
協力して対策を探るべきだ」と話している。
いやまあ、別に普通の記事なんですけどね、ええ。
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