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第2066話
無銘仁 ◆uXEheIeILY
投稿日: 04/12/03 10:15:48 ID:CEoQQKb2
「果てしなき闘争 外伝」
最近の五年地球組はすっごく平和。なんにもなさすぎてつまんないってくらい。
アメリーくんが大怪我したって聞いたときはこの世の終わりみたいな気がしたけど、
もうすっかり治っちゃったみたいだし。
今年も一年中、もめごとばかりだった。特に夏休みの事件と、この前の事件。
あたしはずうっとカヤの外。だから無傷だったけど、そのことが辛くもある。
ま、いいわ。こんなに平和なら、たまにはニホンちゃんちに遊びに行こうっと。
そう、普段はニホンちゃんちに気軽に行くこともできないんだ。
大人の事情っていうのがじゃまするから。
放課後、教室の隅に隠れてニホンちゃんと帰りの相談をしていると、
カンコが背後霊のように忍び寄ってきた。
「ニホン、ちょっと。これを見るニダ」
「ひゃうっ。……もう、びっくりさせないでよう」
手にしているのは何かの写真みたいね。雪原が写ってるけど……。
カンコはニホンちゃんの話を少しも聞かず、胸を張って説明する。
「聞いて驚くニダ。これはウリが例の山に建てる新しいテントなのスミダ。
寒さにも強く、より奥地の探検も可能になるニダ」
「へぇ。そう」
「このテントの名前はセジョン。ウリの偉大なご先祖の名前からとったニダ」
「知ってるよ。だってカンコくんは何でもかんでもセジョンだもん。
おこづかい帳にもセジョンさんの絵を貼ってるでしょ」
偉大なのはほんとだけど、バカの一つ覚えってのはこのことね。
「こっちも見るハセヨ。これは例の岩山に打ち上げるウリのロケットニダ。
打ち上げは五日後ニダ」
「テポどんとは違うんだね」
またいつものが始まったよ……という顔で、すでに諦めムードのニホンちゃん。
対照的にどんどん調子に乗って声が高くなるカンコ。
「テポどんは兄さんのニダ。ウリはこれから作るニダ」
「は? バカンコ、あんた今なんて言ったのよ」
「この想像図にそって作るニダ。半万年のウリナラ技術であっという間に完成ニダ。
ウリナラマンセー!」
両手を腰に当てて倒れそうなほどふんぞり返ってる。あのねえ、アメリーくんでさえ
あんなに苦労したのに、あんたがたった五日で作れるわけないじゃないの。
それならテポどんのほうがまだましだわ。
あんまり勝手な自慢ばかりするもんだから足引っ掛けてぶっ倒したろかと思った。
ウヨくんがニホンちゃんを呼びに来たのでやめることにしたけど。
「姉さん、いつまでこんなのにかまってるの。早く帰ろうよ」
「ウリをこんなのとはどういうつもりニダ。チョッパリの差別意識の表れニダ。謝(ry」
するとウヨくんはきっとカンコのほうを向き直り、
「この前のこと、もう忘れたんですか」
言葉は冷静だけど、目がこわいよウヨくん。ニホンちゃんも引いてるじゃない。
でも、この前のこと、っていったい何だろう。
「う、うるしゃいニダ。ウリがちょっとばかり例の島で滑って転んで池に落ちて凍えて
みんなに助けられたのは絶対秘密ニダ」
バレバレじゃないのよ。あいかわらずバカンコねえ。
「そう、高学年にもなったらみんなで助け合うのが常識。それをあなたときたら
いつまでもウリナラウリナラウリナラウリナラ見苦しいですよ」
確かにね。その手の自慢なら、頭の中でウリナラがぐるぐる回るほど聞かされたわ。
ウヨくんもかなり自己中だけど、まあ今は黙っとくか。
「こ、これはウリナ……う、う、とにかく心からの謝罪と賠(ry。アイゴー!」
こうしてカンコは結局逃走したってわけ。まあいつものことなんだけど。
ニホンちゃんはアメリーくんと個人的な約束があるとかで(うらやましい!)、
アメリーくんちに寄るといって別れた。またきな臭い話でもするのかなあ。
帰る途中、あたしとウヨくんはとりとめもない話をしてた。
「あのバカンコに『仲良くみんなで使いましょう』なんて通じるわけないのよ。
校長先生も甘いと思わない?」
「え、ああ、はい。みんなのものはウリナラのもの、ですもんね」
さっきから生返事ばかりしてる。考え込んでるのかな。
「ああああのですねえ」
「ん? どうかしたの」
「じじじつは、あの、チューゴさんをかるぅくあしらってるタイワンさんに、
恋愛について聞きたいことが……」
なになに。面白いことになってきたわね。よぉし、ここはあたしに任せなさい。
「うん。何でも聞いていいのよ」
「えっと、この前カンコさんが池に落ちて助けられたって、さっき話しましたよね」
「うんうん」
あたしはウヨくんの目をじっと見つめた。
「そのときオレは、『あんなのほっとけばいい、自業自得だ』と言ったんです。
つい、そう口走ってしまったんです。そしたら姉さんがオレを叱るんですよ。
『カンコくんは大切なお友達だから、そんなこと言っちゃだめ。
カンコくんは幼いころ辛い思いをしたから、ちょっと性格が曲がってるけど、
本当はきっといい子だから、いつか仲良くできるから』って。
泣きながらオレに怒るんです。あんな悲しげな顔は初めて見ました」
「……それで?」
「オレはもしかしたら、ああ、その、万に一つもないとは思うんですが……」
肝心の部分を前に、ウヨくんは言いよどんだ。これはやっぱりそうなんだわ。
「そっか。難しい問題よね。血のきずなっていうのは、ひとりっ子のあたしには
わかんないことだけど」
「え? 何の話をしてるんですか」
「もちろん、君とニホンちゃんをどうやって結びつけるかって話よ」
ウヨくんは立ち止まり、口を半開きにして絶句してしまった。
あ、ひょっとしてはずした? ……やばっ!
「いやっそのあの、まあちょいと勘違いなすってるようでござんすが、
あっしの言いてえのはそこじゃねえんで」
「ウヨくん、慌てすぎて口調変わってるよ」
あたしは必死で笑いをこらえた。悪いなあと思ってもやっぱり笑っちゃう。
「そんなわけないじゃないですか。オレが聞きたいのは、姉さんがもしかして
カンコさんを好きなんじゃないかと……」
なぁんだ。まわりくどい言いかただけど、結局おなじことじゃない。
でも言われてみれば、ニホンちゃんは異常なくらいカンコに優しい。
あたしなら、いや、他の誰でも張り倒したくなるような状況でさえ、
我慢して仲良くしてあげている。どうしてなんだろう。
「まさかあのバカンコが……でもそういうのに弱い女の子もいるしね。
手がかかるけど、母性本能をくすぐられるってヤツ?」
「ええっ! タイワンさんもそう思うんですか?」
ウヨくんはこの世の終わりというような顔になり、そう叫んだ。
この子、結構あたしに似てるかも。
あたしはふと、あることを思い出した。
「そういえば、アサヒちゃんはカンコにも色目を使ってたわよね」
「ええ。節操のない人ですから」
「それに比べたら、ニホンちゃんはただ人がいいってだけじゃない?
何より君が他人の不幸を喜ぶような人間になるのが悲しかったんだと思う。
だからちょっと、大げさになっちゃったのよ、きっと」
ウヨくんは合点が行かないという顔をしている。
「そうならいいんですけど」
「あれれ、ニホンちゃんとカンコがくっつくと嫌なのかなあ」
あたしはわざとらしく聞いてみた。
「そ、それはやっぱり弟として、心配というか何というか」
「まあ大丈夫よ。あたしがニホンちゃんならウヨくんを選ぶから。
じゃあね、さよなら」
無言のままうつむきかげんに突っ立っているウヨくんの肩をぽんと叩いて、
あたしは家へダッシュした。
だけど、ニホンちゃんはカンコに腹が立つことはないのかなあ。
あたしもあのくらい我慢強ければ、チューゴとケンカせずにすむのかな?
今年起きた二つの事件だって、あれほど我を張る人ばかりでなければ、
大事にはならなかったのかもしれない。
ニホンちゃんの底抜けの優しさをみんな見習わなくちゃいけないわ。
とくにチューゴとかチューゴとかチューゴがね。(おしまい)
長文失礼しました。
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(*^ー゜)b Good Job!!
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