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第2125話 どぜう ◆3F8jIdnlW2 投稿日: 05/01/24 03:54:06 ID:K9ERub21
「雲尽きる果ての青」
1.
「――そうだよ、お前らと一緒にはいられねえ。…金輪際な」
そう、彼は笑って泡立つ液体を飲み干して、ごほ、と咽せた。
「ったく、このバナナ酒ってのは、どうにも合わねえや」
口元を拳で拭い、にやりと笑うと、彼は手元の武器を手繰り寄せた。
「…おまえらは、裏から出な」顎で裏口を指し示す。
「しかし、リクグンさん」
「五月蝿えんだよ。四の五のよ」
立ち上がった彼の右手の袖が、ひらりとそよいだ。
疵は塞がっている、けれど利き腕を失った身体では負けは見えていた。
俺は止めようと思った。一緒に逃げようと思った。
「リクグンさん…」
「裏手の河原に、武器がある。それを掘り返して、お前らは森に隠れろ」
遮るようにそう告げた彼の目は、どこか遠くを見据えていた。

ひどく、懐かしそうな貌だった。
「雲尽きる果ての青」
2.
「お前たちは堂々としてればいい。堂々とここへ戻ってくればいい。
…ここを、堂々と取り戻しに来い、胸を張ってだ」
左手で、俺の胸をこづきながら、
裏口の戸が閉まる直前に、彼はそう、俺たちに告げた。
薄暗い家の中で、ぎらりと眸が光った。

「さて、と」
表口へ向かおうとして、眩暈で視界が歪んだ。
いけねえ。血が足りねえんだ。そう思った。
思わず苦笑した。
『お前は昔から血の気が多くて困るよ』
そう云った義兄の、苦笑いの顔が、脳裏に蘇る。
「これくらいで、ちょうどいいだろ?」
そう云うと、口に鞘を噛み、ぬらりと愛刀を抜いた。
からん、と落ちた鞘がなる。
そして扉を蹴破った。
丘の下、眼下には、夢にまで見た、口付けしきれないくらいの愛しい敵。
俺は駆け出していた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」咆哮と共に破裂音が周囲一面に響き渡る。
耳は塞がなかった。耳を塞ぐのは、臆病者のする事だ。
そう。立ち止まることもだ。
河原は、もう目と鼻の先だった。
武器さえあれば、立ち上がる気概さえこの身体の裡にありさえすれば。
涙で視界が滲んだ。汚れた拳でそれを拭った。

――俺たちは帰るんだ、俺たちは帰るんだ!
――共に、切り開いた未来へ!!
【了】

解説 どぜう ◆3F8jIdnlW2 投稿日: 05/01/24 04:00:38 ID:K9ERub21
…えー。
総督府で、自分の責任問題に関して申し開きをした際に、
最悪の事態(苦笑)を想定して、気を紛らわすために作っていたものです。
元ネタ、およびソースはこちら。
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Ocean/9614/indonesia.htm
深読み、裏読み、上等ですw

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