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第2134話
無銘仁 ◆uXEheIeILY
投稿日: 05/01/29 17:39:07 ID:kgWStsVu
「またまたゆんゆん!サヨックおじさん」
今日は日曜日です。さわやかな朝のひととき、お母さんの声が聞こえます。
「みんな、ご飯よ。早く起きなさい」
「また食パンにスクランブルエッグか。どうにかならんものかな」
食卓に並んだ朝食を見て、お父さんが顔をしかめました。
「あなたが米は高いから買うなっておっしゃるからよ」
「ううむ、そう言ったことは言ったが……」
子供たちは気にせず食事に没頭しています。
「食後はお紅茶でいいわね」
ニホン茶をくれ――という気も失せてアサヒちゃんの書いた新聞を読みはじめ、
「読んでない」と発言したのを思い出してあわてて片付けるお父さんでした。
牛乳を取ろうと席を立ったニホンちゃんは、冷蔵庫の紙に目を留めました。
「ねえお父さん、この『町内大清掃会のお知らせ』ってなあに」
「ああ、実は来週、町内会でごみ拾いをすることになってな」
お父さんはニホンちゃんから紙を受け取り、ごみ拾いの日時と場所を
もう一度確認しました。そして思い出したように言いました。
「そうだ、まだ旗持ちを決めてなかったぞ」
「旗持ちって、ごみ拾いに旗が要るの」
「何しろ地球町は広いだろう。世帯ごとにルートを決めてごみを拾うにしても、
迷ってしまうかもしれないからね。旗持ちは重要な仕事なんだよ」
この町の変な習慣にはついていけないなあと嘆息するニホンちゃん。
お父さんはそんなことには気づかず話を続けます。
「旗持ちはさくらに任せようかな。力仕事が苦手なら武士に変わってもいい」
ニホンちゃんは、自分が持つとカンコくんに焼かれそうだと思いましたが、
ただごみを拾うよりもやりがいがありそうだなとも思いました。
ニホンちゃんはまだ迷っています。ウヨくんはお姉さんに譲る気でいます。
「よし、ではさくらが旗持ちをやることでいいか」
「異議なし!」「異議なし!」「異議ありニダ!」
声の主に視線が集中しました。ザイニーちゃんです。
「重要な仕事はウリがやるニダ」
「何言ってるんだ。ザイニーちゃんはうちの旗が嫌いなんだろ」
ウヨくんが珍しくとげのあることを言います。
「嫌いでも好きでも関係ないニダ。ウリには人権があるニダ」
「でもうちよりカンコ家が好きなんだろう。うちの人間がやるべきだ」
二人はにらみ合い、今にも取っ組み合いになりそうです。
ニホンちゃんは半ばあきれながらも止めに入りました。
「喧嘩してもしかたないし、多数決で決めようよ。ね」
みんなニホンちゃんの笑顔にはかないません。
多数決の結果は……全員がニホンちゃんを支持しました。
結果を見てザイニーちゃんは韓流の血が騒いだようです。
「こんな脳みそが幼稚な奴らに多数決なんて無理ニダ! 不当多数決ニダ!
ウリに対する差別ニダ! こんな情けない家に居候したのが間違いニダ!
町中の人間に日ノ本家に来ないように言ってやるニダ!」
口の端にジャムをつけたまま、猛然とまくし立てる姿は火病そのものです。
日ノ本家の人たちは、か弱い少女の口から機関銃のように吐き出される
暴言に、困り果てるばかりでした。
そこへ間の悪いことにサヨックおじさんがやってきました。
「ちょっと待って、それはおかしいんじゃないかな。
こういうとき他の家の人がやる家もあるそうじゃないか」
「カンコ家はどうなんですか」
すぐにウヨくんの突っ込みが入りましたが久しぶりに出力最大のおじさんは
もはや自分でも止まることができません。
「ザイニーちゃんはもう、ほとんど日ノ本家の人間と見てもいいだろう。
あんなに泣いて、かわいそうだ。やらせてあげたらどうなんだい」
「日ノ本家の人間だと思ってるなら養子縁組すればいいでしょう」
すると、今度はザイニーちゃんが言い返します。
「できるわけないニダ。差別しておいてこういうときだけ家族面するニカ」
「差別の問題じゃなく血縁の問題だろ。旗を持つ人は旗の安全を守る。
その責任を負うからには血縁関係を結ばないと」
もう朝ご飯など誰も気にかけていません。
せっかくのさわやかな朝が台無しになってしまいました。
「グローバルの時代にアジア地区の人間と共同していくのは当然じゃないか」
「逆にだからこそ自分の家には自分で責任を持つべきじゃないんですか」
「どうでもいいニダ。とにかくウリはしゃべちゅされたニダ!」
「一律にだめだと決め付けるのは権利の観点からもどうかと思うよ」
とうとう我慢できなくなったお父さんが、激論する三人に割って入りました。
「ああもうわかったから三人ともやめるんだ。
ザイニーちゃん、口をふきなさい。物を食べながらしゃべらないように。
武士、もういいから自分のご飯を食べなさい。
サヨック、お前の好きな多数決で決まったことだから我慢しろ」
すっかり火病のザイニーちゃん、「脳みそが幼稚」とまで言われたウヨくん、
久しぶりに電波全開のサヨックおじさん、いずれも収まりそうにありません。
しかし今度もニホンちゃんが間に入って、ようやくみな落ち着きました。
物陰で一連の騒動を見ていたアサヒちゃんは、
早くも記事に取りかかっていました。
「書き出しは……っと。『ウヨくんの冷淡な意見を日ノ本家の人たちは支持した。
差別を追認する時代遅れの判断である』。うん、完璧ね」
アサヒちゃんは自信を持って書きましたが、読者の反応はどうでしょうね。
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