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第2164話
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 05/02/21 00:56:23 ID:9RLM9RVW
「記者探偵アサヒちゃんの事件簿」
さて、是は少し昔のオハナシです。
華の都はトーキョーに巻き起こりましたる数々の怪事件。
謎を解くのは腕利き婦人新聞記者としてその名も高きアサヒ。
そしてその助手の名キャメラマンのニホン、その弟の事件記者見習ウヨによ
ります波瀾万丈、快刀乱麻の大活躍の物語で御座います。
此処は、と或るお屋敷街。お大尽様のお屋敷が軒を連ねて居ります。
その中に、錦糸螺鈿でごてごてと飾り立てた趣味の悪さで一際目立つ洋館が
ありました。この屋敷、先頃のドンパチのどさくさ紛れにあぶく銭を稼いで
成り上がった当主の名にちなんで「カンコ屋敷」と呼ばれておりました。
そしてと或る昼下がり、事件は突然起こります。
「きゃああああ、旦那様が、旦那様がぁ!」
絹を裂く様な女中の叫びと共に集まった家中の者の眼前には、無惨な躯と化
した当主のカンコ氏が横たわっておりました。己の血の海で溺れ力つきたか
のような姿でうつぶせに倒れ臥したその背中には、これでもか、と言わんば
かりの数の刃物が剣山のごとく突き刺さっておりました。
えっほえっほ、とかけ声と共に人力車がカンコ邸の門前に到着します。
人力車から優雅に降り立つこの洋風外套と鳥打ち帽、男物の三揃えに身を固
めた男装の麗人こそ、今トーキョーで一番の腕利き刑事と呼ばれるエリザベ
ス警部その人であります。その警部が門番をしております警官に軽く返礼を
し屋敷の門を潜ろうとしたその矢先、やあと声をかける者がありました。
「やれやれ、もう事件の臭いを嗅ぎ付けたかね、婦人記者のアサヒさん」
ため息をつきながら見返る警部の目に映ったのは、ベレー帽から伸びる2本
の長いお下げ髪、丸渕眼鏡に男物の洋服を着たアサヒと、その後ろに控える
助手2人。袴姿のカメラマン、ニホンと書生姿に夏羽織を羽織った記者見習
のウヨであります。
「ご挨拶ですねぇ、警部殿。色々と協力しあえる事もあるでしょうに」
15分後、4人は屋敷の近所のカフェに居りました。
警部は紅茶、他の3人は珈琲を女給に頼むと早速本題に入ります。
「さて、敏腕記者さん。取引きの材料は持っているのだろうねぇ」
ニヤリと笑い懐中から手帳を取り出し、片手でぽん叩いて見せるアサヒ。
「警部さん、私は別件で惨劇の被害者、カンコを追ってたのよ。
この男、先のドンパチ以来あのアメリー商会と組んで汚い商売のやり放題
だったのはご存じの通り。しかし、」と、此処で言葉を句切り、ぱらぱら
と手帳を捲りながら言葉を続けるアサヒであります。
「最近アメリー商会とカンコとの同盟が決裂した事はご存じ?」
「ふむぅ、興味深い話だが。実業家同士が仲違いするたびに殺し合っては
世の中に事業家という者が居なくなってしまう道理だろうに」
「いやいや、警部。是が只の仲違いじゃないのよ。カンコはアメリー商会の
後ろ盾のお陰で商売が出来ていたの。其れが些細な事を口実に、アメリー
商会の出張所をこの屋敷から追い出してしまったのよ、唐突にね。
一人で商売が出来るはずの無い男が不自然でしょ?」
「つまり、別の相手と手を組んだ、と?」
「そう。で、その相手を助手弐号に探らせたんだけどね」
「ウヨ、と名前を呼んで下さいって!まぁいいや、いつもの事だし。
で、調査の結果、得体の知れない相手と最近取引きを始めた事迄は判明。
偉いお大尽様らしくて商いも大きけりゃ払いも良し。で、新しい商売に
味をしめてアメリーに掌を返して見せた矢先の事件だったんです。
そうだ、カンコに双子の兄が居たことが判かりましたよ。カンコはこの兄
と昔、遺産相続で刃傷沙汰の大喧嘩。結局南北に長い親の地所を真ん中か
ら分けていがみ合いながらずっと暮らしてきたみたいですよ」
「どういう意味なの?」とニホンが聞きます。
「つまりですねぇ、この双子の兄はあの屋敷の裏手に背中合わせの地所に
住んでるんですよ。偉く落ちぶれたあばら屋ですけどね。」
ふむ、と言いながら形のいいあごに手を当てて警部が言葉を発します。
「面白い。犯人に付いて極めて示唆に富んでいるねぇ。
ただ今回はもう一つ問題があってね。現場は完全な密室だったのだよ。」
そう、警部の説明に拠りますと、惨劇の直前に当主のカンコは
「用事があるから決して人を近づけるな」
と言い残して書斎へ閉じこもり、中から鍵をかけていたそうなのです。
そして小一時間、突然の悲鳴に慌てて家中の者がドアを叩くも返事が無く、
合い鍵で中に入った処、既に惨劇の後だった、と言うのです。
ふふん、と鼻で軽く笑うとアサヒはこう言いました。
「是非とも現場の写真が必要ですわねぇ。助手壱号、警部と一緒に現場を
見てらっしゃい。きちんと使える写真を撮っていらっしゃいね」
「ちょっと、ニホンと名前を呼んでよう!それに自分はどうするの?」
「私はアメリー商会を調べるわ。今の所一番怪しそうだからね。そうだ、
念の為、助手弐号はその貧乏な双子の兄と謎の取引相手を調べといてね」
また全部自分の手柄にしようとしているな、
そう思いながら見つめ合う、アサヒ以外の三人でした。
此処はカンコ邸。当主カンコが惨殺されたその部屋です。
死体は片づけられておりますが、その他は全て其の儘になっております。
ぱしゃりぱしゃり、と写真機を操作するは助手壱号ことニホンであります。
亡くなった主の趣味でしょうか、部屋の一角には幾つもの西洋鎧が立ち姿で
飾ってあります。見ると腰の鞘には剣が有りません。
「警部さん、この刀がもしかして凶器なんですか?」
屈み込んで天眼鏡で床を調べていた警部が振り返って答えます。
「まぁそう言う事だねぇ。其処に飾ってある鎧の持っていた剣は
全て仏の背中に突き刺さって居たよ。まぁ値打ち物は壱本も無かったが」
ふうん、と或る鎧を見つめるニホンです。
「警部さん、ちょっと其れを」
ニホンが指さす先に警部が何事かを見つけます。
「ふむ、云われてみれば是は奇怪な事だ。何時も乍ら大した慧眼だ」
其の儘ごそごそと、何事か企む様に声を小さく話し合う二人。
暫くして頷き合うと、共に部屋を後に致しました。
その日の夕刻も過ぎ、取り調べの警官も屋敷の使用人達も全て引き下がり
カンテラも消え真っ暗になったカンコ邸は惨劇の部屋です。
ぎぎぃ、と異音がしたかと思うと壁際の一体の西洋甲冑がごとり、と
背にした壁の一部毎くるりと右回りに回転を始めたではありませんか。
壁がひっくり返り終わると丁度甲冑の替りに一人の人影が姿を現し、
手にしたカンテラに火を付けると今は亡きカンコの机へ近づき、
ごそごそと何やら捜し物を始めました。
「何をしているのかね、キッチョムさん」
突然の声に影が振り向くとエリザベス警部とアサヒ、ニホン、ウヨが
揃って立っておりました。がっくり、と肩を落とし観念したかに見えた男、
が、次の瞬間、奇声と共にニホンに向けて飛びかかります。
その刹那、ウヨがニホンとの間に割って入り、抜き手も見せず居合の一閃。
ガキン、という音がしたかと思った次の瞬間、ウヨの刀が男の肩口に食い込
んでおりました。男は苦痛の声を上げ崩れ落ちます。
「峰打ちだ、命だけは助けてやる!」鋭く一括するウヨでした。
「結局、アメリーはどう調べても凶行に結びつかなかったのよねぇ」
駆けつけた警部の部下達が謎の男、キッチョムを縛り上げるのを
眺めながらアサヒがぼやきました。
「そうしたら助手弐号から屋敷の図面を見つけたって連絡が来るじゃない」
「ウヨです!で、その図面なんですけどね。この屋敷と裏のカンコの兄
キッチョムの家。元は一つの板門店ってすき焼屋だったんですよ」
「成程。で、財産分けの時に地所と一緒に屋敷も中も壁で仕切った、かぁ」
警部が呟きます。
「で、キッチョムは密かに出入り口をこの部屋に付くって置いた、と。
あの壁際の甲冑の裏にね」
ニホンが説明を引き継ぎます。
「どうして出入り口が判ったのよ、助手壱号」
「ニホンでしょ!警部さんは全ての甲冑の刀が凶行に使われたって云ってた
けど、あの壁際の甲冑だけ刀が其の儘だったのよ」
「成程、凶行の時に向こう側じゃ使いたくとも使えなかったか。
私の薫陶のお陰で随分と成長したわね、助手壱号」
「ニホンだって!其れでウヨ。動機については判ったのかしら」
「以前話に上っていた謎の取引相手だけれど、あれがどうも
キッチョムからカンコへ取引相手を取り替えたらしい。お陰で商売が
左前になったキッチョムはカンコを恨み、ついでに地所と財産を横取りし
ようと凶行に及んだという案配の様だね」
「で、その取引先ってどんな相手なのよ、助手弐号」
「ウヨですって!結局実体は掴めない儘です。只、四千面相とかっていう
書き付けが有ったけど逸れきりですよ」
「結局、謎の儘か。まぁそれは警察の範疇ではないからな」
警部が言い、片手を挙げて挨拶し警察官達と共に引き上げて行きます。
「嗚呼、やっと是で記事が書けるわ」
俄然元気になるアサヒでありました。
翌日の朝です。ウヨが茶の間で新聞を開くや否や大声で姉を呼びました。
「姉さん、一寸来てください!また遣られましたよ!」
ウヨの怒りに震える目線の先にある記事は、かくの如きものでした。
「少女記者アサヒの鬼神もかくやの活躍によりまたも単独で事件解決。
冴え渡る推理の妙によりカンコ邸怪事件犯人を捕縛。
エリザベス警部も完全に脱帽の働きを見よ!」
完
解説
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 05/02/21 01:16:26 ID:9RLM9RVW
後書き云い訳その他諸々
お久しぶりで御座います。
長文書きの青風で御座います。
今回の元ネタはずばり、あぷろだのNo93様の
だいぶ前の作品「記者探偵アサヒ」で御座います。
もちろん舞台のイメージは絵の通り。
時代として大正辺りを考えておりました。
しかし、我ながら長い。
5レスも消費してしまいました。
そして、書いてて辛いです。(もちろん、楽しくもあるのですが)
なにしろ、ニホン世界で探偵物を遣った訳ですから。
ああ、筋が陳腐だわトリックが荒いは説明が足りないわ・・・
それに、遂に四千面相は名前しか出せませんでした。
落ちももう一つ落し切れていない気がしますしね。
この次はもっと読みやすくしますので見捨てずに読んで遣ってくださいまし。
もちろん皆様の御批評を
カンコ氏の背に刺さった刀剣の数程もお待ち致しております。
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