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第2232話
ab-pro
投稿日: 2005/05/03(火) 21:26:13 ID:jFp9xSRp
地球町でもっとも栄華を誇ったビクトリア家。
その栄華を子細残さず記録するかのように、地球町中の歴史的遺物を
収集し展示している世界博物館。
その広大な展示室の一角で、巨大な壁画の前にたたずむ青年。
そして、一人の男がその青年に歩み寄るまで、なぜか青年の周には他
の見物客が寄りつかない空白地帯になっていました。
「人は獣から進化を遂げて、今の人間になった。神の教えを冒涜する
ようなものだが、どうやら科学が解き明かした真実のようですな。
そんなにこの人類進化図に魅せられましたか、ニッテイさん」
そうニッテイさんに言葉をかけてきたのは、この場ではニッテイさん
以上に目立つ肌の色の男でした。
「貴方は・・・。エチオさん」
その人は艶やかな黒い肌をした、アフリカ町で唯一、ヨーロッパ町の
家々の乗っ取りを受けていないエチオピア家のご当主でした。
「人は猿から進化した。猿は黒人に進化し、黒人は銅色人に、そして
褐色人、黄色人となり、最終的に白色人に至る。まさに今の地球町の現
実を表していますな」
そう言って自虐的に笑うエチオさん。
「エチオさん。
私は全ての家は平等であると思っていますよ。今でも・・・」
そこで言葉を切るニッテイさんは、ぎゅっと拳を握りしめました。
たとえば今日の町内会もそうでした。町内会で唯一の黄色い肌をした
役員であるニッテイさん。
働いて働き通して、いつの間にか地球町でも有数の大店になった日ノ
本商店ですが、いつになっても他の町内会の人々の、ニッテイさんの肌
の色を見る目は変わろうとしません。
そして気晴らしにと、訪れたビクトリア家の博物館で目にしたものが、
白人を進化の頂点とした壁画だったのです。
「・・理想とは素晴らしいものですな。思わず、ここが人類進化図の
前であることを忘れてしまいそうになってしまう」
そんな言葉を投げかけるエチオさんに、それでもニッテイさんは強い
眼差しを向けました。
その瞳を真っ向から受け止めるエチオさん。やがて本当に愉快そうに
微笑むと、唐突にニッテイさんに手を差し伸べます。
「・・しかし、ニッテイさんを見ていると、その理想も現実になるの
ではと信じてしまいたくなりますな」
自然と、力強く握手を交わす二人。
「ところで一つ、ニッテイさんにお願いがあるのですが」
「何でしょう?」
「実は私の息子にそろそろ嫁をと考えているのですが、良ければ日ノ
本家ゆかりの娘をと考えております。
いかがでしょう?」
その申し出を、ニッテイさんは快諾したのでした。
しかし
「何だって、日ノ本家とエチオピア家が業務提携だって!
そんなことは断じて許せない。エチオピアは我がイタリア家が先に目
を付けていた、いわばウチのものだ!!
日ノ本家なんぞに横から奪い取られてたまるか!!」
秘書からエチオピア家の嫁取りの話を聞いた男は、イタリア商店の社
長室で大荒れに荒れました。
その男とは、荒くれの子分どもを引き連れ、強引にイタリア商店の社
長の座に収まったムッソリーニ親分です。
前の地球町大喧嘩の時に勝ち組いたものの、ほとんど勝者の分け前を
貰えなかったイタリア家は、もはやアフリカ町で唯一、他のヨーロッパ
町の乗っ取りにあっていない、お隣のエチオピア家の乗っ取りを虎視眈
々と狙っていたのです。
そんな彼等にとって、地球町でも有数の警備会社を持つに至った黄色
い肌の日ノ本家がエチオピア家のバックに付くのは、邪魔以外の何者で
もありませんでした。
「いいか、使える手段は全部使ってこの縁談を邪魔しろ。
エチオピア家との境界に、ウチの警備員を押しかけさせれば、非力な
エチオの野郎も考え直すだろうよ!」
こうして、お隣のムッソリーニ親分の圧力を跳ね返すほどの力のない
エチオさんは、どうすることも出来ずに、日ノ本家との縁談をご破算に
するしかありませんでした。
「申し訳ない、ニッテイさん」
「いえ、エチオさんのせいではないでしょう。
確かに縁談は潰れましたが、私はエチオピア家のことをおろそかには
しませんよ」
「・・ありがとう、ございます」
しかし、遠慮も何もないムッソリーニ親分はこれ幸いとばかりに、間
をおくこともなくエチオピア家の乗っ取りに動き出したのでした。
町内会臨時会議
「どういう事だ、ムッソリーニさん。いきなりエチオさんの家の敷地
に警備員を殴り込ませるとは。
乗っ取りを意図しているのなら、日ノ本家は厳重に抗議しますよ!」
イタリア家とエチオピア家の間で始まった突然の喧嘩を仲裁しようと
開かれた町内会。
出席者の非難を一身に浴びるムッソリーニ親分ですが、一向に悪びれ
る様子はありません。
「ウチの庭先を警備していた警備員を、エチオのところのゴロツキが
袋叩きにしてくれたのだ。これはその懲罰だ。悪いのはエチオだ」
「そのエチオさんからは、イタリア家の警備員が不法にエチオピア家
の敷地に入り込んだと訴えています」
「言いがかりだ!」
全く話し合いになりません。ここで会議が行われている間も、ムッソ
リーニ親分の子分達はエチオピア家で大暴れしているのです。
しかし、ムッソリーニ親分の非を積極的に避難するのはニッテイさん
だけ。ビクトリアさんを筆頭に、その他の出席者達は形ばかりの非難表
明を出すだけで及び腰になっています。
ここでムッソリーニ親分を追い詰めて、もう一人のヨーロッパ町の問
題児、ナッチ会と手を結ばれては、ヨーロッパ町の薄氷の上の平和がた
ちまち危うくなると危惧しているのです。
『・・それに、黒人の家がどうなろうとどうでも良いと言うことか!』
内心、他の出席者の本心を見透かして憤るニッテイさん。
『・・・もう少し持ちこたえてくれ、エチオさん。もし、このままこ
の非道が許されるというのなら、その時は・・・』
虚しい論戦を戦わせながら、ニッテイさんは『覚悟』を決めようとし
ていました。
そのころ。
社長室から家の防衛を指揮していたエチオさんの元には、苦しい戦況
が伝えられていました。
「ムッソリーニの子分ども、車まで我が家の敷地に乗り入れて暴れ放
題です。我が家の警備員は勇敢に抵抗し、また敷地のほとんどが砂地と
言うこともあって何とか持ちこたえていますが、このままでは、いつこ
の家の中まで押し寄せてくるか・・・」
「なんとしても我が家を守り抜くのだ。直ちに増援を送れ」
「・・・すでに警備員は全員、庭先に差し向けました。今家に残って
いるのは事務員だけです」
もともと、警備員達の使う装備が違いすぎたのです。それでも、裸足
のエチオピアの警備員達は信じられないほどのねばり強さで、イタリア
家の警備員達を押しとどめていました。
しかし、それもそろそろ限界を迎えようとしています。
「・・・では、今家に残っている事務員を全員集めろ。私自らが率い
て敵を追い返す!」
「しゃ、社長!!」
覚悟を決めたエチオさんの元、事務員達は手に手に棒きれなどを持っ
て、庭先に打って出ました。
「一体何をしているのだ!あんな裸足のごろつきどもにいつまで手こ
ずっている!!」
町内会の休憩の間、ムッソリーニ親分は電話でエチオピア家に殴り込
ませた子分を怒鳴りつけていました。
これでもかと言うほど、エチオピア家が持っていない車を大量に投入
して、あっさり喧嘩を終わらせるはずだったのに、逆にエチオさんの逆
襲を受けて、彼の子分達は苦戦しているのです。
「まさか荒事の真っ最中でも、美味いパスタが食べられないと喧嘩も
やる気が起きないとか、ふざけたことを言っているのではあるまいな?」
更に子分を怒鳴りながらも、ムッソリーニ親分の額を、一筋の冷や汗
が流れ落ちます。
不抜けた町内会の出席者の中、ただ一人、彼を容赦なく非難していた
ニッテイさん。そのニッテイさんが、休憩時間が近づくにつれて静かに、
しかし不気味に黙り込んだまま、射抜くようにムッソリーニ親分を睨み
付けるようになっていたのです。
まるで何かの踏ん切りを付けようとしているかのようなニッテイさん
の態度を思い出して、今度こそムッソリーニ親分は震え上がりました。
日ノ本家が介入してくる!!
「い、いいか、もう容赦するな。時間がないんだ。アレを使え!
すぐに決着を付けるんだ!!」
「やったぞー!!」
エチオさん率いる事務員達が庭先に突入して一時。イタリア家の警備
員達はその勢いを支えかねて後退していきました。
みんなが歓声を上げる中、空に幾つかの黒い点が現れました。
「・・飛行機か!」
エチオピア家では高価すぎて到底買えなかった飛行機が数機、勝利に
喜ぶエチオさん達の頭上を通り過ぎていきます。
「???」
その飛行機が通り過ぎた後の空に靄がかかっていました。その靄は次
第にたれ込め、やがてエチオさん達の元に達したとき!
「こ、胡椒だ!! 目潰しとはなんて卑怯な!!」
目を潰され、くしゃみを連発しだすエチオさん達を目指して、さっき
逃げ散ったはずのイタリア家の警備員達が大挙して押し戻してきました。
その顔には、ご丁寧にも顔全てを覆うマスクがあります。
「逃げろ!!」
休憩時間が終わった町内会。ニッテイさんが立ち上がり発言を求めま
した。その瞳には強い意志が宿っています。
その時です。
町内会の事務員さんが慌てて駆け込んできて、つい先ほど届けられた
電報を読み上げます。
「喧嘩の決着が付きました。エチオピア家は負け、エチオさんはビク
トリア家に逃げ込みました!」
会場が一斉にどよめきます。呆然と立ちつくすニッテイさんを尻目に、
意気揚々とムッソリーニ親分が口を開きました。
「全く、自分の家を放り出すとは。エチオは全く無責任ですな。
私としては、エチオに懲罰を与えればそれで良かったのですが、エチ
オが無責任にも家を捨てて逃げ出したとなれば、仕方ありません。エチ
オピア家の面倒は当分、このムッソリーニが見ましょう!!」
何を馬鹿な!
そうニッテイさんが口を開こうとしたとき。会場からまばらな拍手が
起こりました。
「・・今回のことは遺憾ですが、事ここに至っては確かに誰かがエチ
オピア家の面倒を見なければなりませんね。
今回はムッソリーニさんの意見を認めましょう」
やがて拍手は次第に多くなり、立ちつくしたニッテイさんを取り囲み
ます。
「・・さて、ニッテイさん。どうやら結論は出たようですな。
ここは満場一致と言うのが地球町の平和のためだと思いますが。
・・・もし認めていただければ、私もあの満州家とか言う妖しげなも
のを認めましょう」
いつの間にかニッテイさんに近寄ったムッソリーニ親分が、にやにや
とした笑みを隠しもせずに、そう唆します。
怒りと、その怒りを打ち消すかのような町内会出席者の拍手の音。
ニッテイさんはついに脱力すると、力なく頷くことしかできませんで
した。
『すまない、エチオさん・・・・』
end
前読んだ本をソースに。ネット上では、
人類進化図(一部)
http://ww1.enjoy.ne.jp/~yonagosehara/The_white_races.htm
日本とエチオピア
http://www.root.or.jp/nanta/etiopia/etiopia6.htm
イタリアのエチオピア侵攻
http://www.kaho.biz/ethiopia.html
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