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第2263話 ab-pro 投稿日: 2005/06/05(日) 23:45:53 ID:Y5cyKy/Y
 雨は嫌い。
 部屋の窓から、気怠くなる雨の庭を見ながら、アーリアはそっとため息をつく。
 窓の外では、春雨の中、小さな女の子が雨ガッパ姿で、もくもくと庭の草むし
りをやっていた。
 そこは私のお家のお庭。
 雨が降っている。
 その子は黙々と、草むしり。
 きっと母親は、もう少ししたら温かいミルクを振る舞うために、女の子を家に
招き入れるだろう。
 そしてこう言うのだ。
 「本当に、ポーラちゃんは偉いね。はい、今回のお駄賃ね。
 まったく、家の子供達にも見習って欲しいものね」
 そう言って渡されるのは、本当に微々たるお小遣い。
 それでも、ポーラちゃんは心の底からの笑顔でお礼を言うのだろう。
 それは私のお家の話。 
 私は、雨は嫌い。
 「兄上、一緒に帰ろう!」
 EU制作の私達兄妹のパートが一段落した後の放課後。
 そう言って倶楽部の部室に駆け込んだ私の瞳には、最近お馴染みのあの光景が
飛び込んできた。
 「アーリアか。
 すまない。今、手が離せない・・・・」
 「ゲルマッハ、やっぱりこのクラスがエラーの原因みたい」
 「やっぱりか、フラン。早速ソースを見直してみよう。
 ・・・・アーリア?」
 「・・・いいえ。いいんです、兄上」
 ほんの数瞬前までいとおしかった私の兄上の顔が、急に憎たらしく思えてしまう。
 私は回れ右をした。 
 意識を背中に集中して。ひょっとしたら、と言う期待を込めて。
 でも・・・
 「ゲルマッハ、急いで手直しないと・・・」
 「・・・・ああ。そうだね。
 アーリアは聞き分けがいい妹で助かる」
 私は駆けだした。
 数日後の、倶楽部の定例会議。
 EUが目を覚まさない。
 原因はフランソワーズのせい。
 兄上をあれだけ引っ張り回しておいて、結局フランソワーズが組み上げたプロ
グラムは、それを実装したEUをフリーズさせてしまった。
 陶磁器の人形とかしてしまったEUの周りで、皆が騒ぎ出す。
 「私達、入部希望なんですけど・・・・」
 「それどころじゃない!
 今はEUの機能回復が最優先だ!すまないが、部外者は暫く出て行ってくれ」
 「そんな。この倶楽部は開かれた倶楽部だって・・・」
 「すまないが、今は駄目だ」
 そんな喧噪のただ中で、兄上はあの女と肩を寄せ合っていた。
 「そんな・・・
 ネットワークのユーロ町東方への拡張設定に間違いがあったのかしら」
 「ひとまず、プログラムを印刷してみよう。一つ一つ検証だ」
 そんな二人の目の前に、私は歩み寄った。
 一瞬、フランソワーズを睨み付けそうになって、慌てて兄上に向き直る。
 兄上の目の前で、「嫌な女」をさらけだすのは嫌だった。
 「・・・兄上。一緒に帰ろう。
 兄上は良くやった。今は根を詰めてもはじまらない。少し休息が必要だ」
 なんとか、道理を心得た台詞を紡ぐことが出来た。
 「・・・いいや、駄目だ。今ここで僕が休んだら、倶楽部は暫く機能出来なくな
る。EUの完成が不可能になるかも!」
 そう言って、責任感の強い兄上は辺りを見回す。
 倶楽部の舵取り役となって、EU開発を引っ張ってきた兄上とフランソワーズ。
 でも、EUの性格付けで、エリザベスを筆頭に別の意見を持っている人も多いこ
とは、私も知っている。
 しかし、頑なになった私は・・・
 「兄上、帰ろう!!」
 兄上の腕にすがりつこうとした私を、兄上は咄嗟に振り払った。
 
 「・・・」
 気まずい、どんよりとした風が、私と兄上の間を吹き抜けた。
 窓の外で、ポツリポツリと雨が降り出そうとしていた。
 兄上がゆっくりと私の両肩に手を乗せる。
 「アーリア。我が儘を言うんじゃない。今はEUを直すのが先決だろう」
 兄上に寄り添ったフランソワーズが、そっと兄上の腕を引っ張る。
 「・・・・分かった、兄上」
 それだけ言うのが精一杯だった。
 私は振り向きもせずに部屋を飛び出していた。
 部屋の外から中の様子を窺っていたトル子ちゃと、ドアのところでぶつかったが、
謝ることさえ出来なかった。
 
 暫く、誰とも出会わないように学校の中を彷徨い歩いた。
 外から雨音が聞こえてくる。
 私は雨は嫌い。
 どれくらい時を過ごしただろう。
 そろそろ誰もいないだろうと、私は下駄箱へと歩き出す。

 ・・・最後に兄上と一緒に帰ったのは、一体、何日前だったろう?
 「ーーーアーリア」
 「兄上・・・」
 とっさに、あふれ出しそうになった涙を、私は何とか堪えることが出来た。
 「ここで待っていれば、会えるような気がした」
 兄上は優しく微笑んでいた。
 その表情だけで、今の私には全てが贖われたような気がした。
 ・・・私の兄上。
 しかし・・・
 「ゲルマッハ、お待たせしてしまって・・・」
 そこに現れたのは豪奢な縦ロールの娘だった。
 「・・・・そういうこと、か」
 私は兄上とフランソワーズを交互に眺めた。兄上は私を待っていたのではない。
フランソワーズを待っていたのだ。私はたまたま通りかかっただけ。
 その場にいるのがあまりにも惨めで、私は全力で雨の中に駆けだした。閉じられ
た傘を手に握りしめたまま。
 後ろから聞こえる二人の声に振り向きもせずに。

 雨の中をひたすら駆け抜けるアーリア。
 兄上は兄上。私は妹・・・・
 瞬く間に濡れ鼠になる私。
 私は心底、雨が嫌いになった。
                                 end

解説 ab-pro 投稿日: 2005/06/05(日) 23:49:25 ID:Y5cyKy/Y
 「ごきげんよう」 バコッ、バコッ
 ・・・獄吏がウリをハリセンでどつくニダTT
 今回のソースはEU問題その三。
 一体、EUはどうなってしまうのでしょうか?
 ちなみに、ポーラちゃんは「ポーランドの配管工」ニダ。
 後もう一つリソースが第十巻レイニー・・  バコッ、バコッ
 (・・・・絶対脱獄してみせるニダ)

追記 >>611は初めてのパターンニダ
 ウリが危機ニダ。この続きは明日にでも補完避難所で・・・(一体誰が??)
 おやおや、今回は手厳しい^^;
 解説が必要でしたか。

 第一節
 「ポーランドの配管工」
 EU統合反対で、よく反対派が使った喩えです。
 第二節
 ドイツの国民投票の代わりの議会投票後、ドイツがフランスの批准を支援した。
 第三節
 フランスでの国民投票否決の原因と、否決による新規加盟国問題。
 ならびに、投票後のフランス・ドイツ両首脳の会談。
 なお、域内での自由競争を前面に押し出すイギリスと、福祉・雇用を重視する
フランス・ドイツの路線の違いがあり、新加盟国はイギリスより。
 新加盟国問題では、このままではトルコは加盟交渉自体が難しい情勢。
 第四・五節
 否決後、ドイツ国内でEU反対の声が高まる。
 そもそも東西格差の拡大で、極右政党の躍進が問題の旧東ドイツ地区。
 EU拡大は、トルコ移民問題と、特に東での雇用状況悪化を意味します。
 次の国内選挙では、シュレーダー政権の敗北が濃厚で、東西の軋轢がより深刻
化しそうです。

 今回は練り込みすぎたかな・・

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