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第2275話 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/06/20(月) 00:34:35 ID:jFYdgVZ5
「空想特撮シリーズ ウルトラニホン 第5話 扉の守り手」

「砲身内電荷計画値通りに上昇中。
 但し、エネルギーゲイン推移に0.03%のイレギュラーが有ります。
ロンギヌス砲発射まで後21分24秒、極超短波受信車の調整願います」

 自分のレオパルド3のコクピットでラスカの声を聞きながら、
エリザベスは大きく聞こえるように舌打ちをした。
「何をやって居るんですのネーデルさん!”風車”の制御位
 おできになりません?それともまたお逃げになるのかしら?」
ぎりっ、という微かな歯ぎしりの後怒気を孕んだ声が返ってくる。
「うるせぇよ、今やってる。雲が多いからロスってるだけだ」
「お二人さん!ゲート干渉まで時間がないダス。お仕事、お仕事!」
あまりの雰囲気にオージーが割って入る。
彼の仕事は、防御用の”羊”こと自走無人砲車群をコントロールする事。
だから呑気にしていられるのだ、計画通りならする事など無いのだから。
そう考えてしまう自分を、度し難いと彼女自身も思う。
でも、今だけはどんなに嫌われても不確定要素は排除しておくべきなのだ。

 数日前だった。
イン堂湖沿岸にほど近い湖底に”ゲート”が数年ぶりに発見されたのは。
異世界から時空の歪み”ゲート”を通りやってくる悪意の具象”怪獣”。
今度こそ先手を打てる。その想いが隊員達の士気を高めた。
怪獣の殲滅の為に用意された作戦は極めてシンプルだった。
ひとつ、時空発振装置によるゲートの安定化と開放。
ふたつ、超長距離レールガン”ロンギヌス砲”による怪獣の殲滅。
そして、願わくばゲートそのものを完全に封鎖。
「是であの辺も当分静かになるわね」
作戦会議後、ニホンが決意を込めて語った。
「そう、今度こそ静かにさせなくては成りませんね」
ニホンの言葉を思い出しながらエリザベスは呟いた。
「ロンギヌス砲発射まであと60秒。カウントダウン入ります」
ラスカの声に現実に引き戻され、スコープの位置を調整し、
トリガーに指を慎重にかけ直すエリザベス。
デジタル処理されたスコープに映る怪獣の映像。
うごめく触手の形が徐々に鮮明になるに従い、こみ上げる嫌悪感と憎悪。
「43、42、41、40、49・・」
深呼吸。頭はクールに意識は鏡面のごとく。
「29、28,27,26,25・・」
リラックス。意識を集中しながら。
「15、14,13,12、・・」
栄光は神に、指は天啓のままに。
「9、8、7、6、・・」
今、私は銃とひとつになった。
「3、2,1,発射!」
ただ引き金を引く、そして。

 見守る人々の願いを込めた砲弾は、エリザベスのレオパルド3に
据え付けられた車長に数倍する砲身から甲高い共振音と共に打ち出され、
非現実的なまでの速度で海面に打ち込まれ、そのまま音もなく海に穴を穿ち
海中へ消えた。轟音が轟いたのはその後だった。

「目標の消失を確認。怪獣の身体の約97%を粉砕しました」
オペレーターとしてはやや興奮しすぎのラスカの声に胸をなで下ろす
エリザベス。彼女がシートに身体を預けたその瞬間にニホンの声が響いた。
「み、みんな気を付けて!」
 何事か、と彼女が起きあがろうとしたその瞬間、突然海面から
伸びてきた数本の巨大な触手が彼女の車体を叩いた。
横転する車体。一瞬で遠くなりかける意識。
スクリーンに映る数十本の触手をうねらせた巨大な蛸が、
見る間にその欠けた胴体を再生させているおぞましい姿。
「くっ、絶対生物か!」
もうお仕舞いか、と諦めかけた瞬間だった。

 蒼空の彼方から、青と銀の光の矢が音速に数倍する速度で
飛来し巨大な蛸に突き刺さる。
怪獣を彼方にはじき飛ばすとその反動で宙を舞い、
エリザベスらの車体を護るかのように地に降り立った光の矢は
少女の姿をしていた。青黒い長い髪と金色の眼。
巨人は左の掌から光の槍を引き抜き、
なおも蠢き身体の再生を図る怪物に向けて投擲した。
一瞬で光に浸食され、粒子となって消え去る怪物。
敵の消滅を見届けると、巨人は一瞬巨大な光となり、そして姿を消した。

「お目覚めかい、女王様」
こじ開けられたハッチから助け出されたエリザベスに声を掛けるネーデル。
「あなた、逃げなかったの?」
何事か言い募るネーデルを無視し傍にいたニホンに声を掛けるエリザベス。
「ね、ニホンさん。貴女歌っていた?」
「ま、まさか。作戦中にそんな余裕無いですよぉ」
「でも聞こえたのよ。貴女の歌声が。多分ゲートの向こうからね」
それだけ語ると、再び眠りに落ちるエリザベスだった。
「まったく可愛くねぇ女だ」
憤激するネーデルにニホンが静かに反論する。
「そんな事無いわ。とっても可愛いひとじゃない」
どうだかね、と呟くネーデルだった。
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「ふいーっ、いい気分だねぇ」
湯船の中で思わずこんな台詞が出てしまうニホンちゃんです。
手足を伸して入る檜の湯船。
高めの天井にいい具合に音も響きます。
あまりの気分の良さに、ついに歌い出します。
最初は遠慮がちに、だんだんに大きく。
そしてこれからが良いところ、
と言うところで脱衣場の外から声が掛かります。
「姉さん、歌好きだねぇ」
「はいはい、止めれば良いんでしょ、止めれば」
「いやぁ、僕は良いんだけど。また近所のお家から、ほらいろいろ・・」
「判ったって云ってるでしょ」
「で、さぁ。今の歌誰かに聞かせてたの?」
「うーん、多分エリーちゃんかなぁ」
「・・良いけど早く上がってね。次、僕の番だから」
はーい、と変事をしながらも何故此処でエリザベスちゃんの
名前が出てきたのか自分でもよく判らないニホンちゃんでした。


解説 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/06/20(月) 00:44:44 ID:jFYdgVZ5
さて、また後書きと云い訳な訳だが。

まぁ、インドスマトラの地震のネタです。
だいぶ前にも書きましたけど、
その後に地震の巣が見つかったり
新しい島が出来て見たり、
津波の警報システムを地球規模で構築
しようとしたり、なかなか終わりとは行かない
ようですね。
で、もう一つだけ今回の”ニホンの歌”の元ネタ。
リアル日ノ本家の歌手、五輪真弓さんが実は
インドネシアで国民的人気だったり、
その彼女がチャリティCDを出したりしているようです。
結構意外じゃありませんか?
「心の友」って云うらしいですよ。

では、また出来るだけ近いうちにお会いしましょう。

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