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第2331話 ab-pro 投稿日: 2005/09/04(日) 13:11:20 ID:6X+QK7Ct
 「何度見ても、本当の街みたい!!」
 そう言って目を輝かせるのはニホンちゃん達、五年生のメンバー全員。
 ここは小学生が「経営者」などになって、街の経済の仕組みを体験学
習する施設。
 教室を改装した幾つかの「店舗」で、今日は何度目かの、ニホンちゃ
ん達が「社長さん」にチャレンジする授業のようです。

 「はい、みんな。
 あらかじめ決めておいた社長さんの席に着いたかな?
 もう慣れていると思うけど、分からない事があったら先生に聞いてね。
では、体験学習スタートよ!」
 フラメンコ先生の開始宣言に、ニホンちゃん達は瞳を輝かしてそれぞ
れの仕事に取りかかるのでした。

 「結局、イラク君、今日も欠席だね」
 「そうだね。困ったなぁ」
 体験授業開始早々から難問に直面したのはアラブ班の面々。街の電力
会社さんを最初の体験授業から担当しているアラブ班ですが、最近イラク
君が家の事情で長期欠席中で、彼の担当箇所が滞ってしまっているのです。
 「・・ともかく、出来る事だけやりましょう」
 サウジちゃんの掛け声に、おのおの自分の仕事を始めるの面々。
 でも、イラク君が抜けた分だけ、電力会社の仕事は滞ってしまうのです。
 「困ったアル。電気料がまた値上がりしたアル」
 電力会社の発電量が最近不足気味で、その分、電気料がどんどんと値上
がりしているのです。
 この体験学習でのチュウゴ君の役は「世界の工場長」です。アジア班の
班員達(ニホンちゃんは除く)を取り仕切って、大量の「工業製品」を格
安で生産しています。その勢いはアメリー君やユーロ班の面々も、一種の
恐怖を抱かせるほどの凄いものです。

 「工場長。電気代がこんなに上がると、今まで通りの値段で「工業製品」
が作れないよ」
 そう言って、チュウゴ君に詰め寄るのはイン堂君。今回は特別にチュウ
ゴ君の工場の下請け役として「工業製品」を作っていますが、「工業製品」
の原料の仕入れを一手に切り盛りしているチュウゴ君に、電気料の値上がり
が気になって苦情を言いに来たようです。
 この授業に関しては、当初、アメリー君やユーロ班の面々、そしてニホ
ンちゃんがその才能を開花させて街の経済を牛耳ってしまいました。
 それに対抗しようと、アジア班の面々はひとまずチュウゴ君を工場長にし
て巻き返しを図っているのですが、この電気料金の度重なる値上がりはゆゆ
しき問題のようです。
 「分かっているアル。うちのウリは低価格アル」
 眉間にしわを寄せながら解決策を思案するチュウゴ君。
 「そうアル!
 電気料の値上がりの影響はアメリーやニホンも同じアル。
 ここは勝負に出て、さらに安売りで市場を完全に席捲するアルね!
 電気はこのチュウゴが大いに仕入れて、イン堂達には今まで以上に格安
で卸すアルね。これで決めるアルよ!」
 「分かったよ!!」
 そして元気よく駆け出すイン堂君を見送るチュウゴ君の瞳は、もう完全に
大企業の社長さんと同じでした。
 「毎度ありがとうございます」
 ぺこりとお辞儀しているのはニホンちゃんです。
 ニホンちゃんのお店は今日も大繁盛。電気代の値上げの後もむしろ売り上
げは伸びているようです。
 「ニホンちゃんの商品は、他の商品と性能が同じでも、使う電気の量が比
較にならないほど少ないからね。こんなに電気料金が高くなると、ニホンち
ゃんの商品じゃなと割に合わないよ」
 そう言って、ユーロ班のコンビニでジュースを買った帰りのアメリー君は、
ニホンちゃんのお店からも何個か商品を買うと、自分の「会社」に戻ってい
きます。
 ニホンちゃんの作る商品はけして安くないのですが、それでも売れるのは
そんな理由があるのです。
 「・・でも、こんなに電気料金が上がると、そろそろうちの売り上げにも
響いてくるのよね。
 次はどこでコストカットしようかしら・・・」
 まさに職人を思わせるニホンちゃんの台詞。この姿勢がある限り、まだまだ
ニホンちゃんのお店は安泰でしょう。

 こんな風にみんなが一生懸命に体験授業に取り組んでいる最中、物凄い悲鳴
がアメリー君のお店から響き渡りました。
 「どうしたの、アメリー君?!」
 慌てて駆けつけたフラメンコ先生に、パソコンの前で慌てふためくアメリー
君がパソコンを指さします。
 「ごめんなさい、先生!
 手を滑らせて、ジュースをパソコンにこぼしてしまって・・・
 ああ!!データが、画面が消える!!」
 再びの絶叫をよそに、水浸しになったアメリー君のパソコンはあえなく息を
引き取ったのでした。
 こうして、この街の最大のお客さんであるアメリー君のパソコンがおシャカ
になって、授業は一時中断となりました。
 が、次に授業が再開された時に、この事故が体験授業にとてつもない影響を
与える事を、この時はまだ誰も予想できませんでした。
                                end

 書籍化委員会より完全撤退して、身も心も軽くなったので、保守。
 ニュースソースは、スチューデント・シティー
http://www.asahi.com/kansai/wakuwaku/class0522-1.html
 とニューズウィーク日本語版9/7「ガソリン高騰」
 
 スチューデント・シティーはなかなか画期的な授業ですね。私も子供の頃に受
けたかった^^;
 で、ガソリン高騰ですが、石油の価格統制を行っているアジア経済にとっては
深刻な問題のようです。
 中国ではインフレ抑制と企業保護のため、国有石油企業の国内価格の値上げ要
請を無視して今年五月にガソリン価格を3.8%引き下げました。
 インドでは、去年六月から石油価格を20%引き上げましたが、その間の国際
市場の石油の値上がり率は60%。
 インドネシアでは価格引き下げの為に政府が支出している金額は、GDPの2.
4%だそうです。
 しかもこの記事、カトリーナ上陸の前に書かれているんですね。
 いやはや、これからどうなるか注目です。

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