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第2372話 処女作? 投稿日: 2005/11/03(木) 09:43:42 ID:PxJ60rE1
〜偉大なる皇帝〜


(プロローグ1)

 今日は、ゲルマッハ君・アーリアちゃんのところでのお茶会です。
 「再生可能エネルギー」などというちょっと難しいお話も終わり、一息ついたときのお話です。
「先日はニホンちゃん宮(845〜849話参照)を見せてくださって、嬉しかったですわ」
「ええ、目の保養になりましたわ」
 エリザベスちゃんに、フランソワーズちゃんが珍しく同意しています。
 いつもはなんだかんだと対立する二人ですが、憧れのカキエモンを見たときの感動は同じようです。
 いまもその感動を反芻しているのか、目を閉じてうっとりとしています。
「いや、ただ歴史があるだけの場所だ」
 とはゲルマッハ君ですが、いつも「猪」「ジャガイモ」と田舎モノ扱いしている二人からの言葉にまんざらでもないようです。
 アーリアちゃんも、鼻が高々という表現がぴったりな表情です。
 それの表情にちょっと「むっ」ときたのは、常に世界の中心であろうとするエリザベスちゃんでした。
「歴史では、我が王家も負けておりませんことよ」
 世界が滅んでも『トランプとイギリス王家は残る』というのがエリザベスちゃんの自負なのです。
「それならば、私のところもそうですわね……もう残ってませんけど」
 フランソワーズちゃんは対抗意識を燃やしたのはいいけれど、語尾はかなり小さくなってしまいました。
 相手のことを『えび』や『かえる』と侮蔑的に言い合う二人ですが、今回はエリザベスちゃんの勝ちのようです。
 しかし「……そちらには、我が家からも親族が行っていたはずだが」とのゲルマッハ君の呟きに、風向きが悪くなってきたのを感じたのか高くなっていた鼻が少し縮みました。
(プロローグ2)

「王様じゃないけど、皇帝ならアメリー君のとこにもいたよね」
「「はぁ?」」
 重くなってきた雰囲気をどうにかしようと発言したのは、ニホンちゃんでした。
 その発言にEU町の人達どころか、当のアメリー君も頭に疑問符を浮かべています。
「ニホン。捏造はカンコーのお家芸だろうが、ニホンが真似をしてどうする」
 何気にひどいです、アーリアちゃん。
「えぇ〜、いたよぅ。ねぇアメリー君」
「いや、僕もいないと思うんだけ……って、もしかして、ジョシュア・エイブラハム・ノートンのこと?」
「うん、その人! 偉大な人だったって聞いたよ」
「偉大といえば偉大だったけど……うーん」
 満面の笑みを浮かべるニホンちゃんとは対照的に、アメリー君は苦笑を浮かべ困った顔でした。
「アメリカに皇帝がいたというのは、初耳ですわ」
「ええ。それほどに偉大な者であるなら、私が知らないわけがありませんわ!」
「アメリー。もし良かったら教えてはくれないか?」
「うむ。私も聞きたいな」
 アーリアちゃんの発言に、皆がウンウンとうなずきました。
「HAHAHA、それほど立派な話じゃないけれど。ま、茶飲み話にはいいか」
 そう言うと、一口茶を含み、こう続けました。


「彼の名はジョシュア・エイブラハム・ノートン」
「またの名を、アメリカ合衆国皇帝(Emperor of the United States)ノートン1世」
「大統領じゃなくて『皇帝』。アメリカの歴史上唯一の王様だよ」
(1/3)

 彼は1819年、貧しい農民の子供としてロンドンに生まれた。
 で、まあ色々あってノートンの不動産業は成功し、彼はサンフランシスコ有数の大富豪になった。
 どうもその頃の彼のあだ名が「皇帝」だったらしいんだよ。

「あだ名だったんだー」
 うん。そしてそれが、後に彼がとんでもない勘違いをする元となったんだよ。

 さて、大富豪となったのも束の間、全財産をつぎ込だ事業は結局失敗。
 破産してサンフランシスコを去ってしまう。こうして彼は人々の記憶から消え去って行ったんだけど……。

「あらあら、可哀相に」
 茶々いれるなよ、フランゾワーズ。
「あら、ごめんなさい」

 次に彼がサンフランシスコに現れたとき、なぜか彼は陸軍大佐の服を着ていた。
 何故かは聞かないでくれ、知らないんだけど、着ていたんだから仕方ない。
 その格好で彼は地元新聞の編集室に行き、編集長に厳かに宣言した。

『朕は、臣民がそう望むので、アメリカ合衆国初代皇帝に就任する』


「皇帝って、そう簡単になれるものなんですの?」
 なれるわけがないだろう。まだ続きがあるんだよ、エリザベス。

 これを冗談だと思った編集長は大爆笑。
 翌朝の新聞には彼の「即位宣言」が一面に掲載され、それを見たサンフランシスコ市民も大爆笑。
 こうして彼はアメリカ合衆国初代皇帝に即位したんだ。
(2/3)

「うむ、アメリーという人格が良くわかる逸話だな」
 なんでだよアーリア? いいから聞けって。
「すまん」
 
 当時のサンフランシスコは金と自由を求める若者で溢れかえる、世界史上一番元気な街だったんだ。
 ジーンズが開発されたのも、この時期だったかな?
 そんな雰囲気の街だったから、ノートン1世の即位は皆に祝福された。
 これで終わってたら、ただの笑い話で終わってたんだけど。

「終わらなかったわけだな」
 その通りだ、ゲルマッハ。

 ノートン1世は早速アメリカ議会の解散、陸軍の指揮権譲渡を合衆国に要求。
 当然無視されたけど、くじけない。
 南北戦争では、リンカーン叔父さんとデーヴィス叔父さんを召集したりしたんだ。
 もちろんこれも無視されたけど。

 でも、彼は皇帝だったんだ。
 彼の「宮殿」はベッド一つ置くと、他のものが置けない狭い下宿の一室。
 そこから犬の散歩がてら、「臣民」の生活を視察。
 サンフランシスコ「臣民」が彼に敬礼すると、彼も威厳のある態度で返した。
 街のレストランは彼が来ると無料で接待。
 花屋は毎日彼にカーネーションを一本贈呈し、劇場ではファンファーレが鳴った。
 市民議会では彼の「洋服代」が予算として計上されたし、公共機関も無料で利用できた。
(3/3)

「皆に愛されてたんだね」
 そうだよニホンちゃん。サンフランシスコの人たちに「臣民」に、最高に敬愛されていたんだ。
 そして新聞紙上では毎日、彼の談話が「勅令」として掲載された。

『夜は暗くて危ないので、道には街灯を灯すべし』

『クリスマスには、町の樹木に飾り付けをすべし』

 市民は「勅令」をキチンと守り続けた。
 また貧乏だった彼は、ある日「勅令」で、町の銀行からは月3ドル、商店からは月60セントを払うよう命じた。
 でも、そのささやかな「税金」の支払いを拒む市民は殆どいなかったって言うよ。
 さらにノートン皇帝のために彼の発行した債券を買い、彼が独自発行した紙幣も快く受け取ったんだ。

「愛される皇帝ですか……彼の在位は何年ぐらいですの?」
 ああ、その話はいまからしようと思ってたんだよ。

 彼は、在位してから20年後、1880年冬、彼は「崩御」した。
 市民はその死をとても悲しんだ。
 その葬儀は2日間に及び、1万人から3万人の人々が参列したんだ。
(エピローグ)

「いいお話だよねぇ」
 ちょっと目を潤ませながら、ニホンちゃんが言います。
「ええ。いいお話ですが、何処が『偉大な皇帝』になるんですの?」
 フランソワーズちゃんは、思うところがあるのか、あまり肯定的に受け取れない様子です。
「HAHAHA、それがあったから僕も思い出せなかったんだけど。多分ニホンちゃんが言っているのは、記事のことだよ」
「記事、ですか?」
「ああ。彼の死を報じたニューヨーク・タイムズの記事が、こう締めくくられていたんだよ」

『彼は誰も殺さず、誰からも奪わず、誰をも追放しなかった』
『彼と同じ称号を持つ人間で、その点において彼に並ぶ者は一人もいない』

「「うっ」」
 その言葉に、胸を押さえるエリザベスちゃんとフランソワーズちゃん。
 表情は変えていませんが、ゲルマッハ君とアーリアちゃんの頬には、一筋の汗が流れています。
 それを横目で確認しながら(アメリー君は大雑把に見えて、実は目ざといのです)最後にこう締めくくりました。

「これが、僕の家にいた。ただ一人の偉大な皇帝のお話だよ」



 彼の墓石にはこう刻まれていたそうです。
《アメリカ合衆国皇帝 メキシコの護国卿ノートン1世 ジョシュア・A・ノートン》

解説 処女作? 投稿日: 2005/11/03(木) 09:54:22 ID:PxJ60rE1
以下解説?

ごめんなさい、めっさ長いのですが、これ以上は短く出来なかったです
誰も殺さず、誰からも奪わず、誰をも追放しなかった、偉大な皇帝のお話です
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B31%E4%B8%96

話に出てはいませんが
サミット参加G8各国、途上国及び国際機関の20数カ国の参加が、お茶会に参加しているはずです
ですが、彼の下宿にはナポレオンとビクトリア女王の絵を貼っってあったとの記事があったので
開催国(ドイツ)の二人と、当人であるアメリカ、我らがニホンちゃんと、英仏コンビのみにさせていただきました。


再生可能エネルギー国際会議
 風力発電や燃料電池、太陽発電(ソフトエネルギー)など、次世代エネルギーについての国際会議が、2004年にボンで開催されました

「えび」「かえる」
赤い英国軍服を見て「ロブスター」 蛙を食べるフランス人を「フロッグ」と侮蔑しあっていたときがあったようです
昔の話なので、今は使われていないと思います

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