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第2398話 初めて書いてみました 投稿日: 2005/11/25(金) 02:17:45 ID:jUaE6hRc
ヒノモト家の犬

「っと、コホン」
 ピンポーン。
 ちょっとおすましアメリー君、今日はニホンちゃんのおうちでお茶にお呼ばれです。
「あ、アメリーくんいらっしゃーい。待ってたんだよ」
 もともとお客様をお迎えするのが大好きなニホンちゃん、今日は仲良しのアメリー君が
お客様とあって、満面の笑顔でお出迎えです。
「今日はお招きいただいてありがとう。うちのパパとママからもご両親によろしくって」
 最近、学校やおうちの中でも色々とトラブルがあって気の休まる暇がなかったアメリー君、
出迎えてくれたニホンちゃんの心から嬉しそうな様子にほっとしながら、玄関で靴を脱いで
上がりこみます。
 でも、靴下の裏からひんやりと伝わる廊下の感触に、
(うーん、ニホンちゃんのうちには何度も来てるけど、毎度これだけは慣れないな……) 
 とか思ってるあたりがやっぱり番長クォリティ。
「あれ? アメリーくん、それ何?」
 ニホンちゃんはアメリー君が提げているバスケットを目ざとく見つけて、その中身に興味
津々です。
「ふふふ……。まだ内緒だよ」
「えー。教えてよー」
「だーめ。いいモノだから期待しといて」
「ぶー」
 二人はわいのわいのと騒ぎながらお茶室へ。
 日本ちゃんのおうちの庭の紅葉を眺めながら、ゆっくりお茶を楽しみました。
「は〜、寿命が三年延びた……」
「アメリーくん、なんだか最近じじむさいよ?」

 * * * * *
「さて、と。お待ちかねニホンちゃん」
 日之本家のリビングに場所を移して、アメリー君はもったいをつけながら、持ってきた
バスケットのふたを開きます。
「どれどれ?」
 それをのぞきこんだニホンちゃん、目をまんまるくして、思わず「わあっ」と歓声を
あげてしまいました。
 そこには、灰色っぽい毛色の子犬がちょこんとすわって、ぱたぱたと尾をふりながら、
つぶらな瞳でニホンちゃんを見上げていたからです。
 愛犬家ぞろいの日之本家の例に漏れず、ニホンちゃんもかわいいワンちゃんには目があり
ません。
「かわいー! ね、アメリーくん、抱っこしてもいい?」
「どうぞどうぞ。そのつもりで持って来たんだよ」
 子犬はニホンちゃんの手に抱き上げられて、まんざらでもなさそうに鼻をならして甘え声を
出しています。
「ね、ね、この子名前は?」
「ラプターって言うんだよ」
「そっか、いい子だねーラプター」
 ニホンちゃんが名前を呼んで頭をなでると、ラプターは「あんっ!」と返事をしました。
小さな尻尾を千切れんばかりにぱたぱたと振って、その可愛らしいことと言ったら。
 と、ラプターはニホンちゃんの膝から飛び降りて、ぱっと走り出します。
「あっ! ラプター?!」
 ニホンちゃんはあわてて手を伸ばしますが、ラプターはまるでかき消すようにどこかへ潜り
込んでいしまいました。
「ど、どこに行ったのラプター?!」
 リビングを見渡しても子犬の姿どころか、かさりと何かが動く気配さえ見えません。
ソファの下でしょうか、それとも……?
 その時、背後からいきなり、ぱっ!とニホンちゃんの肩に飛びつく灰色の影。
「どげげーっ!?」
 こらこらニホンちゃん、何ですかその女の子らしくない悲鳴は。
「あんっ?」
「ラ、ラプター?」
 肩に飛び乗った子犬にぺろぺろと頬を舐められて、ほっと胸を撫で下ろすニホンちゃん。
「びっくりしたぁ。飛びつかれるまでどこにいたのか全然わからなかったよ」
「そいつはかくれんぼが大の得意なんだ。気付かれないように獲物に近づいて捕まえるのさ」
 びっくりしているニホンちゃんを見て、アメリー君は得意そうです。
「うちのパパが育てた中でも最高の猟犬になるってさ。こいつだけは絶対ほかのうちには
売らないって言うくらい気に入ってるんだ」
 アメリー君のパパは副業でブリーダーをしています。
 今まで町内のドッグコンテストで何度もチャンピオンになっている腕前のパパがそう言うの
ですから、さぞかしラプターは優秀なのでしょう。
「そっかー。すごいねラプター」
「あんっ!」
 思わず、ニホンちゃんは時間を忘れて、ラプターと遊んでしまいました。


「さて、もう夕方だし、そろそろ帰らないと」
 時計を見て立ち上がるアメリー君。
「どうもお邪魔しました。今日は楽しかったよ、ニホンちゃん」
「あ、もうこんな時間? 送っていくよアメリーくん。ファントムも散歩させないといけないし」
「そう? じゃ途中まで一緒に行こうか」
 ニホンちゃんは、おうちで飼っているワンちゃんのうち一匹、ファントムにリードをつけて、
アメリー君の横に並びます。
 いつもの散歩コースの土手ぞいの道を、ファントムを連れて歩いているうちに、アメリー君が
言いました。
「なあ、ニホンちゃん。ラプター、ニホンちゃんのうちでも飼ってもらえないかな?」
「え? だってラプターは絶対売らないって……」
「ニホンちゃんの家だけは特別だよ。パパも日之本さんちになら子犬を分けてあげてもいい
って言ってるんだけど?」
 ワンちゃんが大好きなニホンちゃん、アメリー君のセールストークに早くもグラっと来て
います。
 頭の中で、さっき見たラプターのつぶらな瞳がぐるぐるぐる……。
「実はうちのパパ、ラプターの繁殖にお金を使いすぎちゃってね。よそに売らないならどう
してそんな大金かけたんだってママが怒ってるんだ」
「でも、いざ売るとなってもうっかりした相手には売れないし、値段も高いからあまり買って
くれる家もないんだよ。その点、ニホンちゃんの家なら安心だ」
「でも、うちのお父さんは猟とかしないから、猟犬じゃいらないって言うかもしれないよ」
「ああ、言い忘れてたね。ラプターは番犬としても超一流なんだ。鼻と耳がすごくよくてさ、
足も早いから、ドロボウがや変質者が入ってきてもあっというまに捕まえちゃうんだよ」
「それに、かくれんぼがうまいからドロボウは番犬がどこにいるかわからなくて、びくびく
しながら侵入しなきゃいけないんでしょ?」
「……よくボクの言いたい事がわかったね、ニホンちゃん」
 そりゃ、ニホンちゃんだって今まで何度もアメリー君から番犬の売り込みをされてますから
ね。その手は先刻御承知です。
「どうしようかなぁ……」
 ニホンちゃん、もちろんラプターは欲しいけど、って顔つきで、ちょっと黙り込んでしまい
ました。
 最近になってようやく持ち直しましたが、ニホンちゃんのうちでもしばらく前までお父さんの
仕事がうまくいかなくて、おうちのローンや保険料の支払いで家計が苦しいのを、子供心にも
よくわかっていたからです。
 ただ、ちょっと気がかりな事もあります。それは……
「こいつもさ、ずいぶん年をとったよな……」
 と、ニホンちゃんと同じことを考えていたらしいアメリー君。
 二人の視線の先には、ファントムがハッハッハ、と舌を出しながら歩いています。
 ファントムはもうずっと前にアメリー君のおうちから来て、長い間ニホンちゃんのおうちを
守ってくれた、大事な家族の一員です。
 でも、さすがにそろそろ老犬になって、だいぶ鼻や耳が遠くなって来ているようです。
ニホンちゃんの家の世話がいいのか、年のわりには元気でまだまだ足も早いのですが。
「そろそろさ、こいつも番犬から引退させて、楽させてやらないと」
「そうなんだよね……」
 アメリー君の言葉に、ちょっと寂しそうに愛犬の背中を見やるニホンちゃん。
「ニホンちゃんちは、家が小さいわりに庭が広いからなあ。こいつが引退した後、庭にいるのが
イーグルだけじゃちょっと不安じゃない?」
 そうなんです。
 ニホンちゃんのお家はよく言えばこじんまり、悪く言うとご町内でもかなり小さい部類に
入ります。
 でも、そのわりにはお庭が広くて、1匹だけの番犬ではなかなかカバーしきれないのです。
(そういえばママもこの間、ファントムが年をとったわね、って言ってたなぁ……)
 こうして大切に世話をしていても、いつかはファントムともお別れしなくてはいけません。
 その予感がひしひしと胸に迫って、ニホンちゃんの目にはじんわりと涙がにじんできました。
 アメリー君はそんなニホンちゃんの気持ちを察してか、何も言わずにニホンちゃんの横を
歩いています。
 と、その時。
「ニダー!!」
「きゃっ!?」
 ニホンちゃんの背中に、どんっとぶつかってきたのが、
「カンコ!」
「カンコくん?!」
 振り返った二人の前で、ぜえぜえと息を切らせているカンコ君です。
「こらニホン、よくもウリの進路を妨害してくれたニダ! 謝罪と賠償を(ry」
「おいカンコ、お前の進路っていうか、どう見てもお前犬に引っ張りまわされてニホンちゃんの
背中にぶつかっただけだろ」
「アメリー、最近ニホンは道の右側ばっかり歩いてるニダ。おかげでアジア町の平和と安定が
損なわれていると思わないニカ?」
「カンコくん、だって道路は右側通行だよ……」
「ニホンがウリの感情を逆撫でするような場所を歩くのが悪いニダ! 反省汁!!」
 と、いつもの調子でカンコ君。
 でも、最近ニホンちゃんはそれくらいの事なら言われ慣れてきて、昔みたいにおろおろ
しなくなっています。 
 柳に風と受け流しつつ、「あら?」と、カンコ君が連れている犬に目をとめました。
「ウリを無視するんじゃないニダ!」
「カンコ君、その子は?」
 カンコ君はニホンちゃんがじっと見ているものに気付いて、今までの怒りもどこへやら。
ホルホルホル……と抑え切れない笑みをこぼしました。
「ふっふっふ、気がついたニカ? やっとアボジに買ってもらったニダ。ウリナラ自慢の猟犬、
ストライク号ニダ。もちろんKっ統書付きニダ」
「わあっ、かわいいね」
「ニホンは触るんじゃないニダ。昨日アメリーのうちから届いたばかりニダ」
「ほんと? ね、アメリーくん、この子うちのイーグルと兄弟なんだよね?」
 たしかに同じ母親から生まれた犬らしく、ニホンちゃんの家のイーグルと顔つきや毛色は
そっくりです。
「全然違うニダ! ウリのストライクはイーグルの中でも最新犬種ニダ。ニホンちのよぼよぼ
イーグルなんかと比べて欲しくないニダ!!」
「よぼよぼ……って、ひどいよカンコくん!」
 ファントムのことが頭にあったからでしょうか、よぼよぼ、という言葉に反応して、
ニホンちゃんもちょっと気色ばんで言い返します。
 いや、ニホンちゃんちのイーグルはまだまだ元気いっぱいなのですが。
「お、おいカンコ!」
 愛犬とのお別れの予感に心を重くしていたニホンちゃんを気遣ってか、アメリー君もなんとか
取りなそうとします。
「ニホンちゃんちのイーグルは母親も父親も番犬で、父親が猟犬のストライクとは育てた目的が
違うんだぞ。それにニホンちゃんは二匹を比べてなんかないだろ」
 釘をさすアメリー君の言葉も耳に入らないらしく、カンコ君はひたすら自分の世界でホルホル
しています。
「ふっふっふ、これでもうニホンに大きな顔させないニダ、せいぜい悔しがるがいいニダ。
さあ、行くニダ、ストライクご……おおぉっ!?」
 カンコ君が最後まで言うか言わないうちに、ストライクはだっと駆け出します。
「こ、こらストライク、ウリの言う事を聞くニダ! 止まれ、止まってくれニダ!! 
アイゴオォォォッ!?」
 カンコ君は必死でリードにしがみつきながら、アジア町最強の猟犬に引きずられるように、
道のかなたへ消えていきました。
「大丈夫かな……また引き渡して早々、ストライクに怪我でもさせなきゃいいけど」
「また、って何かやったの、カンコ君?」
「ロシアノビッチの家から借金のカタに取り上げた新車を、たった数日でぶつけて壊しちゃった
んだ、あいつんち」
「うーん……」
 思わず、首をかしげて考え込むニホンちゃん。
 その肩に手を置いて、アメリー君がささやきます。
「まあ、カンコのうちもああしてストライクを買ってくれたことだし、ラプターのこと考えて
おいてよ、ニホンちゃん」
「うん、あのね……聞きたいことがあるんだけど、アメリーくん」
「なんだい?」
「前に、うちがアメリーくんの家からイーグルを譲ってもらった時、イーグルのしつけが足り
なくて、うちでしつけ直したことがあったんだけど」
「……」
「もしかして、カンコくんちのストライクも?」
 ニホンちゃんの思わぬ逆襲に、アメリー君は足を組んでポケットに手を突っ込むと、明後日の
ほうを向いて口笛を吹きました。
 ニホンちゃん、ジト目。
 二人の様子を、ファントムがヘッヘッヘ、と息をつきながら見上げています。
(ああ、でもどうしよう。やっぱり飼いたいなぁ、ラプター……)
 ファントムのそばにしゃがみこんで背中をなでてやりながら、ニホンちゃんは悩みます。
 日之本家の番犬をめぐる小さな胸の大きな悩みは、まだ当分続きそうです……。

                                おしまい

解説 初めて書いてみました 投稿日: 2005/11/25(金) 03:03:27 ID:jUaE6hRc
こんなに長くなってるとは思わなかった……スマソ orz

ソース類

(アメリー君、ニホンちゃんのおうちでお茶にお呼ばれ)

先の日米首脳会談が元ネタ。
外交交渉というより、今回はほとんど気心の知れた親しい首脳同士のお茶会と言った雰囲気。
ブッシュ大統領の、金閣寺の紅葉を眺めながらのリラックスした表情が印象的でした。
ttp://libweb.dip.jp/~uploader/image/dl/down.php/302.jpg


(ラプターって言うんだよ)

F/A-22ラプター。米国の最新鋭主力制空戦闘機。
軍事機密のカタマリのような戦闘機で米国外への輸出は禁止されているが、
米国は特例として日本だけには供与しても良いという打診をしてきているとされる。

先日、空自が退役予定のF-4ファントムの後継機種選定候補として検討していることを発表し、
俄かに日本への導入が現実味を帯びてきた。

ブッシュ大統領の来日と時を同じくして、F/A-22の開発企業であるロッキードマーチンが、
日本にラプターの操縦シミュレータを持ち込んで報道陣に公開、自衛隊への売込みをはかった。
ttp://www.business-i.jp/news/top-page/topic/200511160003o.nwc
(ウリナラ自慢の猟犬、ストライク号 Kっ統書付き)
F-15K。
韓国空軍が米国から購入した戦闘攻撃機。F-15Eストライクイーグルの韓国輸出版である。
現時点でアジア最強の戦闘攻撃機と言って良いだろう。
ttp://wiki.livedoor.jp/namacha2/d/F-15K

※語弊があるかもしれないが今回は戦闘攻撃機を猟犬、防衛のための制空戦闘機を番犬としました。


(もしかして、カンコくんちのストライクも?)

 【韓国】今年から配備予定の最新鋭F−15K戦闘機、対地ミサイルを使用できないことが判明 [09/22]
 http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1127414663/

 ▽ソース:京郷新聞(韓国語)(2005/11/18 13:33)
 ttp://www.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?artid=200511181333071&code=910302


(借金のカタに取り上げた新車を、たった数日でぶつけて壊しちゃった)

韓国はロシアから借款の返済の代わりに、軍用ホバークラフトを受け取りました。
ところが、配備後わずか数日で事故を起こし、破損。
事前の交渉でロシアの保険会社が損害を補償する契約になっており、
保険を使って直したそうです。

▽ソース(韓国語)
ttp://news.naver.com/photo/read.php?mode=LTD&office_id=079&article_id=0000064500§ion_id=100&view=all&type=1

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