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第17話 tenpura ◆UMAIu01k 投稿日: 2002/12/23(月) 05:13 ID:I9Gmf3U.
花蓮(ファーレン)のクリスマス ◆Section.1

「いっしょうの、おねがいっ!」タイワンちゃんが、ニホンちゃんに手を合わせています。「24日、ほっかいどうのお部屋に泊まらせてっ」

「う、うん。たぶん大丈夫だと思うけど…?」
タイワンちゃんは、ニホン家のほっかいどうの部屋が大好きで、よく泊まりに来ていました。ですから、そんなにお願いされるほどのことでもないのになぁと思いました。
「どうしたの?」タイワンちゃんが珍しく口ごもっているのに気がついたニホンちゃんは尋ねました。
「そ、そのさぁ。妹連れてきたら、駄目?」
「妹さん?」
「あ、花蓮(ファーレン)っていうんだけど…」
タイワンちゃんは話し始めました。

「美麗ねえちゃん、いる?」
ぱたぱたぱたっと軽い足音がすると、タイワンちゃんの部屋のドアが勢いよく開き、小柄な女の子が飛び込んできました。
「こら、部屋にはいるときはノックしなさいっていってるでしょ、花蓮。」
タイワンちゃんは軽く花蓮ちゃんの頭をこづきました。
「もう、美麗ねえちゃんは乱暴なんだから、そんなじゃお嫁さんのもらい手がありませんよーだ」べーっと花蓮ちゃんが舌を出します。
「なぁにぃー、もう一度言ってみなさいーっ。」
「それだから、お嫁にいけないって…きゃーっ」

「で、どうしたの?」しばらくして落ち着いてからタイワンちゃんが尋ねます。「何か頼み事があったんじゃないの?」
「うん、あのね…」花蓮ちゃんはちょっと下を向いて、それから顔を上げて言いました。
「うちに、サンタさん来る?」
「え?」
「だって、うち、雪降らないから…ソリは来れないって…」花蓮ちゃんの瞳にみるみる涙がたまっていきます「ソリが来ないから、サンタさんも来ないって…」
花蓮(ファーレン)のクリスマス ◆Section.2

「…ということなの、おねがいっ」タイワンちゃんはニホンちゃんにもう一度手を合わせました。「花蓮は、まだ雪みたことないの」
「うん、うちはいいんだけど…」ニホンちゃんは困った顔をしました。「きて」
ニホンちゃんは、タイワンちゃんの手をひいて、ほっかいどうの部屋にいきました。そして、窓をあけてみると、そこには。

雪が、ありませんでした。

「ど、どうしたの、これ?」タイワンちゃんが驚いて尋ねます。
「どうしてって言われても…今年は雪が降ってないんだけど…」
「ど、どうしよう。花蓮に約束しちゃったよぅ。雪見せてあげるって」

翌日。
2人で考えてみても、ない雪はありませんので、クラスの皆に相談してみることにしました。授業が終わって、帰る前に二人は皆に相談しました。
しかし。
「ソーリー、クリスマスは教会へミサに行って、それからホームパーティなんだ、悪いけど…」アメリーくんは、天を仰ぐような仕草をしながら言いました。
「あー俺のところもだなぁ」と申し訳なげに言うロシアノビッチ君。
「申しわけないけれど、私の家も同じね」エリザベスちゃんがためいきをつきます。
「クリスマスはねぇ」フランソワーズちゃんも困った顔です。

「やっぱり…」タイワンちゃんはがっくりと肩を落としました。昨日、ニホンちゃんと話をしていたときにも、ユーロ町やアメリ町ではきっと家族で一緒のところが多いから難しいんじゃないという話はしていたのです。でも、雪があるのは、そういった町のほうなのです。
「困ったな。うちも、アーリアといっしょに家族で食事の予定だ…」ゲルマッハ君も眉をしかめます。
と、アーリアちゃんが深々と溜息をつきました。
「兄上。兄上の肩の上に載っているのは帽子掛けなのか?」
いきなりのキツいツッコミに思わずたじろいだゲルマッハ君でしたが、そのあたりはさすがに兄妹です。
「ということは、アーリア。何か良い考えがあるのだな」
アーリアちゃんは、にっこりと自信の笑みを浮かべました。

「つまり問題はニホンちゃんの家のほっかいどーの部屋に雪がない、ということだ。そして、私たちは、クリスマスの日には皆いない、と。そういうことでしょ」
うんうんと皆がうなずきます。
「じゃあ、簡単じゃない。誰かの家、そうねぇロシアノビッチ君の家からニホンちゃんちのほっかいどーの部屋の外に雪を運べばいいだけでしょ?」
おおお、とクラスの皆がどよめきます。
「幸い、ここには頭は帽子掛けばっかりだけど、体力は余ってるのがいっぱいいることだし…マカロニーノ君、どこ行くの?」
「あ、いやぁははは。ちょっと用事を思い出して」こっそりと教室を出ようとしていたマカロニーノ君はひきつった笑いを浮かべました。
「駄目よ、この作戦にはあなたも必要なんだから。あなたの芸術の才能がね。」
すばやく動いたロシアノビッチ君に襟首を捕まえられたマカロニーノ君の顔は、疑問符でいっぱいでした。
花蓮(ファーレン)のクリスマス ◆Section.3

クリスマスの前々日、大作戦は開始されました。

「では、先日の手配の通りに。ロシアノビッチとカナディアンは自宅から雪の切り出しと搬出。アメリーとカンコはロシアノ家からニホン家への搬送。ゲルマッハ兄はニホン家内での搬入。マカロニーノと女子は、私の指示に従って…おっとこれは内諸だ。」
アーリアちゃんはてきぱきと指示を下します。

2人のパワーはラッセル車のような勢いでロシアノ家から雪を運び出します。
それをアメリー君とカンコ君がニホン家に運びます。
「寒いニダー。な、なじぇウリがこんなことをしなければならないニ…」カンコ君は抗議の声をあげます。が、言い終わるより早く飛んできたアメリー君の雪玉が顔面に命中しました。
「ゴチャゴチャ言ってないで、手を動かせ。動いてないから寒いんだ!」
「ウリはヤンバンニダから……」言い終わる前に、もう一発雪玉をくらったのは言うまでもありません。
家に届いた雪は、ゲルマッハ君がまるでマシンのように正確かつすばやく運び込んでいきます。
みるみるうちにほっかいどうの部屋の前に雪が運び込まれていきました。
「さぁて、ここにいる人達にお願いすることは…最後の仕上げになるんですけど。」
アーリアちゃんはいったん言葉を切りました。
「ここのメンバーは、雪の像でアートをお願いします。そうねぇ、トナカイやサンタさんとかも含めて」そういってスコップをマカロニーノ君に渡します。「いやなら、ディレクションはフランソワーズちゃんに頼むけど。」
言い終わったときには、すでにマカロニーノ君は猛然と雪の像にとりかかっていました。フランソワーズちゃんがまけじと飛び出しかかったところを、アーリアちゃんが止めました。
「何をするの、芸術ならばこのわたくしこそがふさわしいのよ。」ふりほどこうとして暴れるフランソワーズちゃん。しかし、アーリアちゃんはがっちりとつかんだ手を離しません。
「あら、芸術には違いないことなんですけど。そして、あなたにしかできないこと…」
アーリアちゃんがそうささやくと、フランソワーズちゃんは、目をぱちくりさせました。
花蓮(ファーレン)のクリスマス ◆Section.4 (1)

クリスマス・イブ。

あいにく、朝からどんよりと曇った天気底冷えのする日でしたが、タイワンちゃん姉妹は楽しそうにニホンちゃんの家にやってきました。

「わあっ」花蓮ちゃんは、ほっかいどうの部屋に入るなり、窓の外に広がる白銀の世界に喜びの声をあげました。
そこには、真っ白な雪で作られたアニメのキャラクターや、故宮博物館、怪獣などが幻想的な光の中で輝いていました。
「…す、すごっ」タイワンちゃんもおもわず絶句してしまいます。
「ねぇねぇニホンちゃん。」タイワンちゃんは小さな声でささやきます。「なんかあれ、マカロニーノの作ったのよりずいぶん多いみたいなんだけど……」
「あ、あのね」ニホンちゃんはちょっと困ったような笑い顔でささやき返します。「リクジおじさんがね、マカロニーノくんの作った像見て燃えちゃって、仕事仲間といっしょに気合い入れて…」
ふたりのひそひそ話の間に、花蓮ちゃんはガラス戸に駆け寄りました。
「えいっ」
…しかし、ガラス戸は開きませんでした
「どうしたの?」
タイワンちゃんが手伝おうとしたところに、ニホンちゃんが後ろからささやきます。「あの、ちょっと待って…」
実は、外の雪を運んだまではよかったのですが、一晩たったら、コチコチに凍り付いてしまい、氷のオブジェのようになってしまっていたのです。見かけこそ雪なのですが、とても雪とは思えません。
「だから……なんとか」ニホンちゃんも必死です。

「ねぇ、美麗ねぇ。上の鍵あけてー」
花蓮ちゃんは高いところにある鍵に気がつきました。でも、残念ながらぴょんぴょん跳びはねてみても、やっぱり手が届きません。
「あ、あのさ。」タイワンちゃんも、なんとか興味をそらそうとやってみます。「そのまえに、ニホンちゃんのママがお茶にしない?って、えー、エリザベスちゃん特製のブッシュ・ド・ノエルもあるんだって」

「…美麗ねえちゃん、さくらおねえちゃん」
花蓮ちゃんは、タイワンちゃんと、ニホンちゃんをまっすぐみつめました。
「花蓮、知ってるよ。…ここの雪、みんなで運んでたの。」
ニホンちゃんは、はっと息を飲みました。横でタイワンちゃんも一文字に口を結んでいます。
「だから、この雪がここに降ったものじゃないってことは、あたし知ってるの」
ニホンちゃんは声が出ませんでした。ほんとうは花蓮ちゃんをだますつもりなんかじゃなかったのに。
「だって、あんなにみんなで大騒ぎしながら運んでるんだもん。なにかと思って見ちゃったの。」
「バッカだよねー、カンコ君なんか運んだのよりぶつけられた雪の方が多かったんじゃないかと思うし。みんなでほっかいどーの部屋に運ぶぞとか言ってるんだもん。」
花蓮(ファーレン)のクリスマス ◆Section.4 (2)

「花蓮ちゃん」ニホンちゃんはなにか言おうとして、胸がいっぱいで言えませんでした。そして、花蓮ちゃんは言いました。

「だから。それって、みんなから花蓮へのプレゼントだよね。」
花蓮ちゃんは、にっこり笑いました。
「ほんっと、サイコーの」
ニホンちゃんは、思わず花蓮ちゃんを抱きしめました。花蓮ちゃんの身体は小さいけれど、うれしくて元気なエネルギーで一杯です。
「ごめんね」ニホンちゃんは小さな声で言いました。
(心配することなんか、なかったんだ)
「さくらおねえちゃん、くるしい」花蓮ちゃんが抗議します。ニホンちゃんは思わず力を込めてしまったみたいです。
と、ひゅうっと冷たい風が足下を走りました。タイワンちゃんが鍵を外して、ガラス戸を開けたのです。
「花蓮、遅いぞー」タイワンちゃんはもう外に出ています。
「美麗ねえちゃん、ずるいー」花蓮ちゃんは急いでガラス戸に走りました。
準備してあった靴をはいて、外に出ます。
踏む雪は、ちょっとじゃりじゃり音がしましたけど、それよりも初めて雪にふれることが楽しくて、花蓮ちゃんは全然気になりませんでした。

そのとき。
ふうわりと、冷たいものが頬にあたりました。
「あ…」
花蓮ちゃんは空を見上げました。
そして、それは後から後から…つきることなく空から降ってきます。
「雪…だぁ」
「ホントだ…降るかも、とは聞いてたけど。」
「ホワイト・クリスマスね…」遅れて庭に出てきたニホンちゃんも空を見上げます。
「やっぱり、サンタさんは、ほんっとーにいるのかも…」タイワンちゃんがつぶやくように言います。
「サンタさん、かぁ」ニホンちゃんも小さくつぶやきました。
黙って二人が空を見上げていると、なにかがつんつんと小さく袖を引きます。
目をおろすと、そこには花蓮ちゃんの笑顔がありました。そう、名前の通り、花の咲くような。
「おねえちゃんたち、何言ってるの? サンタさんなら、もういるじゃない。」
びっくりしたニホンちゃんとタイワンちゃんに、花蓮ちゃんはいっぺんに飛びつきました。
「ほら、ここに。みんなが頑張ってくれたから、サンタさんが雪を降らしてくれたんだよっ。」

そしてそのとき。
たしかにニホンちゃんの耳にはシャンシャンシャンシャンというかすかな鈴の音が聞こえたのです。雪空のかなたのほうから、ほんのちいさくでしたけれども。

うん、そうかもしれないな。だって今日は聖なる夜なんだから。
ニホンちゃんは、そう思いました。

メリー・クリスマス!

解説 100話作者 ◆UMAIu01k 投稿日: 2002/12/23(月) 05:16 ID:I9Gmf3U.
おまけ◇◆◇

「あ、あの。ところでさっきの話の中で『美麗ねえちゃん』て言ってたけど?」ニホンちゃんがたずねます。
タイワンちゃんは一瞬きょとんとした顔をしました。
「あたしの名前だけど? もしかして忘れてた?」
「あ、いえ、そうじゃないけど……」ニホンちゃんは笑って誤魔化しました。
「そうよねー、こんなにつきあいが長いのに知らないなんて」
「ねぇ」
あははははーと2人は明るく笑いました。
『でも、そういえばクラスにも知らない名前の人、何人もいたような気が…』とニホンちゃんが思ったのは内諸です。

余計な注:美麗島=フォルモサ=台湾です。
Section1でHN間違えたニダ! 謝罪と賠償を要求しるニダ!
ちなみに。
「番外編」(クリスマススペシャル)ですので、他との整合性はある程度ご容赦を。

なお、花蓮タソはタイワンちゃんの妹。
キャラ制作はおさんニダ。 
 →参考にすますた http://www005.upp.so-net.ne.jp/oyakata/nhn015.html
 キャラのイメージが違っていたら謝罪はしますが、賠償はしません。

長々と、蛇足つけてスマソ。

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