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第8話
三毛 ◆wPntKTsQ
投稿日: 2002/11/16(土) 01:41 ID:71vnKGXQ
晩秋の風が梢を揺らす。吹き散らされた枯れ葉が、足元で乾いた音をたてる。
夕暮れ迫る、公園の遊歩道。人の姿は既になく、ただ、一組の少年と少女が、並んで歩いているだけだっ
た。恋人同士であろうか、睦まじく手をつないでいる。だが、少年の方は、緊張でもしているのだろうか。いさ
さか動きがぎこちない。初々しく、微笑ましい二人であった。
「ね、今日は……楽しかった?」
少女――美嶋由紀子は、下からのぞき込むような姿勢で問いかけた。少年――日ノ本武士に向かって。
「ああ………楽しかったよ。――――二人で、いるからかな」
言ってから、武士は赤面した。柄にもないことを言ったと思っているのかもしれない。その表情を見て、由
紀子がくすくすと笑い出す。
吹き渡る風が、二人の髪を優しく撫でてゆく。なんとなく沈黙した二人は、お互いの瞳の中に、自らの姿を
見いだしていた。
「ね、ずっと………ワタシのそばに、いてくれる………?」
少しばかり唐突な問いかけ。しかし、武士は、穏やかな態度でそれを受け止める。
「ああ……ずっと一緒だ。ずっと…………」
「…………ありがとう………」
固く繋がれていた手を、そっとほどいて、由紀子は、武士に向き直った。彼の胸に、ちいさな手を添える。
武士は、華奢な彼女の肩に、自らの手を置いた。
ゆっくりと、まぶたが閉じられてゆく。磁石が引かれあうように、顔と顔が近づいてゆく。
ふたつの影が、一つに溶け合った。
三毛 Presents 「ニホンちゃん」外伝
「Still,I Love You」
第四話 月の光に抱かれて
つづき
〜Side Laska〜
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
自分自身の声で、目が覚めた。
息が荒い。心臓が、どきどきしてる。カーテンをとおして差し込んでくる月の光が、部屋を薄ぼんやりと照ら
していた。
「夢………………?」
重い頭を振って、時計を見る。……午前一時。
由紀子ちゃんの話を聞いたからだろう、ひどくリアルな夢だった。苦手な映画を、無理矢理見せられている
ような苦痛が、私のこころを支配していた。
やめて、お願いやめて!
………何度も夢の中で叫んだのに、二人にはその声は届かなかった………。
ため息をついて、顔を手で覆う。………酷い寝汗で、顔が濡れていた。いや……涙すら流していた。
夢を見て泣くなんて……。二人のキスシーンに、こんなに動揺するなんて……。
シーツを握りしめる。悔しいけど……お似合いの二人だった。すごく絵になってた。でも…でも…私だって!
私だって……彼の隣にいたい!彼と一緒に笑っていたい!
自分の気持ちに気づくのが、遅すぎたのかもしれない。私のそばから、ウヨ君が離れてゆこうとしている、
そのときになって初めて、私のこころに、彼が棲みついていることに気づかされた……。
バカだ。私は大バカだ。
しばらくの間、私は、唇を噛んで嗚咽をこらえていた。ウヨ君への想いに気づき、由紀子ちゃんとライバル
宣言を交わしあったとはいえ……私は、非常に不利な立場にあった。
多分私は、ウヨ君に、単なる幼なじみとして…あるいは、妹分としてしか認識されていないだろうから。
仲が良くて、たまに一緒に遊んだり、喫茶店で奢らされる友達……おそらく、彼にとっての私は、そんな位
置づけにあるのだろう。面と向かって言われたことはもちろんないけど、なんとなくわかる…。
つづき
部屋の片隅に冥い視線を向けて、私は、なんともしょぼくれた思考を弄んでいた。自分自身に対する罵倒
を、繰り返し脳内に響かせていた。
………が。
「…っくしゅん!」
身体が、ひどく冷えていた。寝汗をたっぷりと吸い込んだパジャマが、身体にぴったりと張り付いて気持ち
悪い。
「シャワー…浴びなきゃ……」
口に出して、自分を叱咤する。このまま放っておくと、一晩中うずくまって、陰々滅々としているに違いな
かった。重い心と身体を無理矢理動かし、ベッドから這い出る。
クローゼットから取り出した替えのパジャマと下着を抱え、私は、そっと部屋から抜け出した。
私の部屋は、母屋から伸びた廊下の先にある。離れのような構造だ。廊下を渡って母屋に入ると、人の気
配。ドアの細い隙間から、光が漏れて、中から音楽がかすかに聞こえてくる。
うちは、パパもママも兄さんも、そしてベガスも、みんな夜ふかしな一家だ。多分みんなまだ起きていて、
何やらやっているのだろう。
みんなの邪魔をしないように、足音を殺して、そっとバスルームへ向かう。
バスルームで服を脱ぎ、洗濯機に放り込む。その重さに、私はびっくりした。冗談抜きで、絞れば汗がした
たり落ちそうだ。こんなに寝汗をかいたのは、風邪をひいて寝込んでしまった時と、得体の知れない怪物に
追いかけられる夢を見たときくらいだろう。
つまり……あのキスシーンの夢は、私にとっては悪夢そのものなんだ……。
こんな形で、ウヨ君に対する想いを確認する事になるなんて思わなかった。
つづき
コックをひねる。適温に調整されたお湯が、私の身体をたたき、全身にまとわりついた汗と倦怠感を洗い流
してゆく。
汗と夜気に冷やされた身体を暖めながら、私は壁に作り付けられた鏡に視線を走らせた。
鏡の中の自分と目が合う。視線を下にずらすと………凹凸に乏しいボディライン。
「………はあ…………」
情けない気分で、深くため息をつく。ハッキリ言って、私は幼児体型だ。人から指摘されたら、さぞかし腹
が立つだろうけど……十五年もつき合ってきた身体だもの、自分が一番よくわかる。
ぺたし、と、胸に手をおいてみる。哀しくなるほどボリュームが足りない…。視線が、途中の障害物に遮ら
れることなく足元に届くところなど、哀しいのを通り越して笑えてくる。
ウヨ君も、胸が大きい子の方がいいのかな……?
由紀子ちゃんの姿を思い浮かべる。身長は、私と大して変わりなかったけど…プロポーションは、私よりも
ずっと良さそうだった。
さらに深く深くため息をつき、顔を上げる。再び鏡を覗き込んで……私は、殴られたような衝撃を覚えた。
酷い顔だった。眉間にハッキリとしわを寄せて、口はふてくされたようにひん曲がっている。一言で言え
ば、「醜い」顔だった。
こんな顔してたら……彼に嫌われちゃうよ……。
つくづく情けなかった。今の私………コンプレックスの固まりだ……。
「うっ……ふぇっ………!」
今まで我慢していたものが、一気に噴き出してくる。
私は泣いた。シャワーの音に声をかき消して貰いながら…激しく打ち付ける滴に、涙を洗い流して貰いな
がら……。
つづき
ひとしきり泣いた私は、ぐしぐしと目元をこすりながらシャワールームから出た。手早く身体を拭き、パジャ
マを身にまとう。
…………泣いてたって、どうにもならないよね。せめて…ウヨ君が振り返ってくれるだけの女にならなくちゃ。
洗面台の鏡に映った私の顔。泣きはらした、腫れぼったい目。
今日は、不景気な顔でも…明日は、とびきりの笑顔を。彼のこころに刻みつけられるような、輝く笑顔を。
ぱん!と、両手で頬をひっぱたく。凹んでばかりじゃだめだめ!いつも笑っている、それが私でしょ!?
部屋に戻ってきた私は、髪にドライヤーをかけつつ、カーテンを開けた。雲一つない夜空に、満月がぽっか
りと浮かんで、私に蒼ざめた光を投げかけてくる。
私たちは、月を見上げるだけ。どれだけ手を伸ばしても、月に触れることなどできない。それを思えば、私
とウヨ君の間の距離など、目と鼻の先も同然。今は届かなくても……いつか、きっと。
再びベッドの中に潜り込んだ私は、枕元のポーラを抱き寄せた。
ちいさな頃から、常に私と共にあった相棒。古びて、あちこちに繕ったあとのある、大切な親友。
………いつか私も、今のポーラのように、彼に抱きしめられる時がくるのだろうか。
「ねぇ、ポーラ……私、負けないからね。…応援、しててね」
ゆっくりと、睡魔が忍び寄ってくる。月光の蒼い腕に抱かれて、私は、ゆっくりと眠りに落ちていった。
……今度は、幸せな夢を。そう願いながら。
「ウヨ君………………」
窓の外に広がる太平湖。その向こうにいるはずの彼に、私はそっとささやきかける。
「おやすみなさい」
つづき
〜Side Yukiko〜
頭が大きく揺れて、目が覚めた。電気スタンドの光が目を灼く。そこは、ベッドではなく、机の前だった。開
かれた教科書とノートが、居眠りをしていたワタシを責めるかのように鎮座している。
「あ………寝ちゃったんだ……?」
せわしなく目をしばたたせながら、ワタシは呟いた。机の上の時計は、午前一時を指している。
「もう少し見ていたかったのに………」
思わず、不満が漏れてしまう。ほんの数瞬前まで見ていた夢。それは、ワタシが今まで思い描いていた未
来図の具現だった。
幸せなデート。甘い会話。優しげな笑み。そして………。
十年。それは、あまりにも永い時間だった。でも……ワタシにとって、それは一瞬のことのようにも思える。
いままで、ずっと、オグナの姿だけを心に刻んで生きてきた。彼と再会する日を夢見ていた。それが現実と
なったいま……次の夢は、彼の隣で、彼と一緒に人生を歩いてゆくこと。
ついさっきのあの夢は……それが実現した世界。ワタシが望んでやまない世界。
ワタシはそっと目を閉じた。吐息が熱い。オグナの姿を思い浮かべると、胸の奥が燃え立ち、浮き立つよう
な感情が波のように押し寄せてくる……。
オグナは、オグナでありつづけてくれた。「強くなれ」と励ましてくれたあの日から、すこしも変わっていな
かった。生真面目で、不器用で、多分、今も勇敢。
つづき
正直、ワタシは怖かった。引っ込み思案のワタシが変わっていったように、オグナも変わってしまったので
はないか、あのころの面影を喪ってしまったのではないか、と………。
そして――――既に彼女がいるのではないか、と……。
そう。オグナに彼女がいる。その想像は、ワタシが一番恐れるものだった。もしそうだったなら、ワタシは単
なる妨害者、お邪魔虫でしかない。その「彼女」からオグナを奪い取るなんて真似ができるかどうかも、自信
がなかった。
結果として、彼女はいなかった。ただし、強力すぎるライバルがいたけど…。
ラスカちゃん。
信じられないくらい可愛い女の子。ちょっと子供っぽくて、はかなげで、「守ってあげたい」と思わせるような
女の子。…………どう考えても、オグナの好みのタイプだろうな。
ワタシがオグナと過ごした時間とは比べものにならないほど、彼女はオグナのそばにいる。その間に積み
重ねてきた思い出も、ワタシより遙かに多いだろう。
…………ずるい、な……。
ずーっと彼のことを想ってきた。それなのに、彼のそばにはいられなかったワタシ。
ずーっと彼のそばにいた。それなのに、彼への想いに気づかなかった彼女。
二人の立場が逆だったら、どれほど良かったことか………。
つづき
でも。
ワタシは、オグナのそばにやってきた。彼の隣で、思い出を積み重ねるチャンスを手に入れた。
スタートラインはちがっても……条件は、そう変わらない。―――そう、信じたい。
机の上のフォトスタンドを手に取る。そこに収められた数枚の写真の被写体は、幼いワタシとオグナの姿。
やんちゃな笑みを浮かべているオグナ。べそをかいて、彼のシャツのすそを掴んでいるワタシ。
大きな犬におびえるワタシを背中にかばっているオグナ。
スイカ割りに失敗してきょとんとしているオグナと、それを見て大笑いしているワタシ。
そして、仲良く手を繋いで眠っている二人。
どれもこれも大切な思い出。短かったけど、この上なく充実していた夏の日々。
そう。この夏こそが、それからのワタシの人生を変えたのだ。
もしも、オグナと出会わなかったら―――時々、そう思うことがある。彼と出会い、彼に恋しなかったら、ワ
タシはどうなっていただろう?と。
多分、ずっと気弱で、引っ込み思案のまま育っていただろう。いじめられ続けているかも知れない。その結
果、人間不信になっていたかも。
何をどう考えても、楽しい結論は出てこない。オグナは、ワタシを救い……ワタシの心に棲みついていった
のだ。
つづき
さて……明日も早いし、そろそろ寝なくちゃ。
ワタシは、フォトスタンドを伏せると、タンスからパジャマを引っぱり出した。ブラウスのボタンをはずしなが
ら、ぼんやりと考える。
もうすぐ…フォトスタンドの写真を取り替えることになるな……と。
今までは、写真を眺めながら、オグナがどんな少年になっているか想像するしかできなかった。
でも、これからは違う。彼のそばで、彼がどんな大人になってゆくかを、この目で見つめることができる。
そしてそれは、写真となってアルバムを埋めてゆき、思い出となって心にのこってゆくのだ。
それは、なんと幸せなことなんだろう。
着替えを終え、部屋の電気を消す。暗くなった室内に、カーテン越しの月光が充満する。
ワタシは、そっと窓を開けた。夜空には、銀色の満月。まぶしいくらいに輝いて、ほかの星の光を圧倒して
いる。
ワタシにとって、オグナはあの満月のような存在だ。星々のなかに埋もれてしまうことなく、確固として存
在を誇示する光のかたまり。その光の前には、他の星などかき消され、存在を失ってしまう。
きっとワタシは断言できる。たとえ何万人もの人々のなかに埋もれていようと、ワタシは一瞬でオグナを見
つけだすことができる、と。月と星を見間違えることがないように、オグナと他の人を見間違えることなどな
い、と。
つづき
五月の、柔らかな夜風が、ワタシのほほを撫でてゆく。
蒼白い月の光に抱かれながら、ワタシは思った。
オグナも、この月を見上げているのだろうか……と。
遠くの空の下で、彼のことを考える日々はもうおしまい。これからは、彼と言葉を交わし、彼に触れ、彼と
同じものを感じることのできる日々が待っている。
「幸せだわ………今のワタシは」
そう、きっと幸せ。
この幸せを考えれば………どんな障害だろうと、たとえライバルだろうと、怖くはない。
ワタシは、そっと窓を閉めた。カーテンは開けたまま。今夜は、月光のなかで眠りたかった。
布団に入る前に、ワタシはそっとささやく。彼への甘やかな想いをこめて。
「おやすみなさい」
つづき
〜Side Uyo〜
ふと、目が覚めた。
布団の上に寝転がったまま、考え事をしているうちに寝てしまったらしい。オレは、ゆっくりと身を起こすと、
ため息をつきながら頭を振った。
「なんて夢見るんだ、オレは………」
オレは、夢の中で、女の子とデートしていた。普段のオレが言ったなら、照れくささのあまり身もだえしてし
まいそうな台詞。固く繋がれた手。そして………。
一つ不思議だったのは……相手の女の子だった。相手が誰なのか、分からないのだ。
夢の中では、しっかりと顔も見ているし名前も呼んでいるはずなのに……それが誰だったのか、さっぱり
思い出せない。
こういう夢に出てきそうな女の子を思い浮かべてみる。
タイワンさん………もう彼女のことは吹っ切れている……と、思う。なにをいまさら。
姉さん………バカな。いくらオレがシスコン気味だとはいえ、そんな夢見るわけがない。というか、見たら
即座に舌かみ切ってる。
ラスカちゃん………彼女は妹みたいなもんだ。恋愛対象じゃない……よな?
ユキ………やっぱり………あいつなのか………?
あいつの話を聞いたから、こんな夢を見ちまったのかもしれない。
しかし……相手がユキだった、と、断定するのも何故か躊躇われる……何故だろう……。
つづき
確かに、ユキは大切な幼なじみだ。キスの件も、うっすらとだが記憶に残っている。あのときから、ずっとオ
レを慕ってくれていたなんて……嬉しくない、といえば嘘になるだろう。
でも……素直に彼女の好意に応えるか、と言われると……多分、今のオレは返事が出来ないだろう。
オレの思い出のなかにいるユキと、オレの前に現れて、散々振り回してくれたユキ………それが一致しな
いのだ。
昔の彼女は、いつもオドオドと人の顔色を伺っていた。泣き虫で、小心で、恐がりだった。
今日のように……面と向かって、人に「好き」などと言ってのけるような度胸など、なかったはずだ。幼い頃
のオレが言ったあの台詞………あれがきっかけだったのだろうか?それとも……。
「恋する女の子は強い」
よく聞くフレーズが、オレの脳裏をよぎった。
堂々と、あいつは宣言した。あの夏の日以来、ずっとオレのことが好きだったと。
いずれにしても、あいつを変えたのはこのオレ……ということになるのだろう。
「まいったなぁ………」
正直、オレは困り果てていた。ユキにどう対応していいのか、皆目見当がつかないのだ。いままでオレ
は、恋愛沙汰とはほぼ無縁の生活を送ってきた。六年前のあの日以来、ずっと。
タイワンさんに協力して、暗躍することはあったが、せいぜい出来ることといえばメッセンジャーもどきと
デートのお膳立てくらい。それだって、姉さんやアーリアさんをだしにして、というのが関の山だった。
いわば、黒子や観客の立場だったのに、いきなりステージに引っ張り上げられて主役を押しつけられたよ
うなものだ。それも、脚本の無い舞台の。
…………果たしてオレは、上手く演じきることができるだろうか………?
つづき
そして……オレには、もう一つ気になることがあった。
ラスカちゃんの態度だ。
なんというか………ユキに対して敵意めいたものを抱いているというか、意識しまくっているというか……。
人なつっこく、誰とでもすぐ友達になれる彼女らしからぬものがあった。
やきもち、か…………?
「…………まさか、な」
オレは自分に言い聞かせるように呟いた。
多分、彼女は、遊園地での一件に、まだ怒ってるのだろう。自分を放ったらかして遊んでいたオレとその相
手に怒るのは、当たり前だ……多分。
もし、やきもちを焼いてるとしたら……それは多分、兄の彼女(別に彼女というわけじゃないけど)に対する
妹の感情だろうな。それは何となく分かる。もしオレの姉さんに彼氏が出来たとき、その彼氏に嫉妬しないと
いう保証はどこにもないのだから。というか、間違いなく嫉妬しそうだ。
ずっと、オレとラスカちゃんは兄弟みたいな関係だった。だとしたら、そんな感情が動いたとしても不思議
じゃない………。
とはいえ、それはそれで頭痛の種になりそうな予感がした。あの二人、これからも何かと角つき合わせる
ような気がする。二次災害が、間違いなくオレに降りかかってくるだろう。……ああ、気が重い……。
つづき
オレは、服のポケットから懐中時計を取り出した。ニッテイじいさんの形見の品。オレの大切な宝物。
あちこちに傷のある、だが今も正確に時を刻んでいるそれは、午前一時だとオレに教えてくれた。
「…………寝るか」
あまり考え込んでいても、建設的な結論は出そうになかった。
さっさと寝間着に着替える。ふと、窓から差し込む月光に気づき、月を見上げた。
中空に浮かぶ光のかたまり。それは、あくまでも静かに、オレを見下ろしていた。
「なあ、どう思う…………?」
月に向かって問いかける。
「どうしたら………いいのかな…………?」
…………月は、沈黙を守り、オレのつぶやきに答えてはくれなかった。
どのくらい月を眺めていただろうか。
冷えてきた身体に身震いを一つすると、オレは、窓に背を向けた。これから、毎日が大騒ぎになるだろう。
そんな確信を抱きながら、どこかでそれを楽しみにしている自分に気づきながら。
眠りに落ちる前に、オレは誰に対するでもなくささやいた。
「………おやすみ」
つづく
次回予告
「オ・グ・ナ」
ユキの唐突な行動は、オレを存分に振り回していた。
「あーあーあー、羨ましいねこんちくしょーめ」
無下にできない一途さが、オレをのっぴきならない状況に追い込んでゆく。
「ええっと、これを入れて…………あれぇぇ?」
対抗心が少女を突き動かし………。
「わたしは………応援するしかできないけど………」
周囲にも変化をもたらす。
「だぁぁぁぁぁぁっ!畜生っ!なんでおまえばっかり〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
次回 「School Days」
………一体何が起こっているんだ…………。
解説
三毛 ◆wPntKTsQ
投稿日: 2002/11/16(土) 02:04 ID:71vnKGXQ
三毛であります。
かなーり遅くなっちゃいましたが、「Still…」第四話、お届けいたします。
心理描写に無茶苦茶苦労してしまいました。おかげで何度か書き直し(w
今回まで、えらくシリアスでしたが、次回からはもうすこし軽めになるかと思います。……って、前にも同じよ
うなことを言った気が(w
あと……あちこちで「Still…」新作待ってますとメッセージを書いていただいた方々へ。
レスしてなくてごめんなさい。でも、とても励みになっています。どうもありがとうございます!
では!
アンドレ・ギャニオン 「月の光に抱かれて」を聞きながら 三毛 拝
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