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第9話 書き人知らず 投稿日: 2002/11/27(水) 00:46 ID:rZ92dmL.
〜 Life's Like a Love Song 〜 (その1)

「さあ、いらして。わたくしの用意はできていましてよ。」挑発するように、ビクトリアさんが言います。
「では参る!」
「もっと、もっと強く! 真ん中を攻めて!」ビクトリアさんの艶やかなブロンドは、なおいっそう揺れました。

ニッテイさんとビクトリアさんがお付き合いを始めたというのは、地球町内の大ニュースでした。ニホン家を圧倒し、
アジア町へ支店を拡大しようと考えていたロシアノビッチ家にとっては、面白くない話です。
そのころのロシアノビッチ家は、ロマノフさんという人が主人でした。百戦錬磨の強者です。対するニッテイさんは、
まだ若く、いくらビクトリアさんがついていても、ロマノフさんの相手ではないだろうというのが大方の予想でした。

玉のような汗を流すニッテイさんの額に、よく乾いたハンカチーフが押し当てられ、水分を吸収していきます。
「疲れました?」
「ええ。でも疲れたなんて言ってられません。」
「そうでしたね。」そっとニッテイさんの手に、白く長くしなやかな指が触れます。そして鉱泉水で満たされたグラスが
押し当てられました。
ニッテイさんは、ためらいを見せずに飲み干し、席を立ちました。「ありがとうございました。また来ます。」
「ええ、お待ちしています。」にこやかに、ビクトリアさんは送り出しました。

一進一退を繰り返す、ニッテイさんとロマノフさんの勝負。雌雄を決したのは、ニホン池でのボートレースでした。
絶対の自信をもっていたロマノフさんが惨敗を喫したのです。
「お二人とも、もう頃合ではございませんこと?」ビクトリアさんが提案し、ロマノフさんは受け入れました。
ニッテイさんも、もう余力がありません。調停を受け入れました。こうして、実質的にはニッテイさんの勝利でおわり、
ロマノフさんはアジア町へ支店を拡大することを断念しました。
ニッテイさんは分かっていました。この勝利はビクトリアさんに、たくさん助けてもらったことを。いつか彼女に
恩返しをしたい。ニッテイさんは、固く固く誓いました。
〜 Life's Like a Love Song 〜 (その2)

それから数年。今度はユーロ町で揉め事が発生しました。この揉め事は、町内を巻き込んだ大騒動に発展し、後に
<第一次地球町大喧嘩>と言われる、かつてない大騒動になりました。
そのころ、ビクトリアさんの家はますます発展していましたが、近所で発生した大騒動を放っておくことは
できませんでした。
ニッテイさんは考えました。いまこそ、恩に報いるときだと。ニッテイさんは迅速に行動し、ビクトリアさんを陰で
援助しました。
<第一次地球町大喧嘩>は、やがて終わり、後始末をするというので、ニッテイさんもその会議に出席しました。
そこでニッテイさんは、町内会の理事になることになりました。大きな代償を払って・・・。

「・・・ご無沙汰でした。」
あのころ、足しげく通ったビクトリアさんの家を、ニッテイさんは訪問しました。当時と同じ部屋に、かの人はいました。
艶やかなブロンド、ほっそりとしていながら肉付きのよい体。大喧嘩が終わった後だというのに、彼女の顔に疲労は
認められません。
「そうでしたわね。ふふ、あなたは変わりましたね。」
「そうでしょうか?」あなたは、あの頃と同じだ。 ニッテイさんは、感嘆の思いでビクトリアさんを見つめます。
「ええ、自信に満ち溢れておいでです。立派になられました。で、ご用件は?」
「会議の件です。」
「・・・嫌なのですか?」
二人の間に、重苦しい空気が漂いはじめました。
〜 Life's Like a Love Song 〜 (その3)

沈黙を破ったのは、ニッテイさんでした。「賛成なのですね?」
「・・・ええ。」
ニッテイさんは、とうとう耐え切れなくなりました。「どうして! 我々2人の間になんの問題があると?」
「落ち着きなさい。紳士は取り乱したりしないものです。サムライもそうではなくて?」かるくニッテイさんを
たしなめ、ビクトリアさんは続けます。「あなたは、もう十分に成長しました。赤ん坊が大人になったら、
ゆりかごには戻れない。そういうことなのです。」
「私は赤ん坊だったのか。」ニッテイさんは、いささか自虐的な笑みを浮かべます。
「進むべき方向は、自分で見定めなくてはなりません。それが大人ではありませんこと?」
「あなたのおっしゃる通りですが・・・。」自分は、あなたを必要としている。そんな気持ちを込め、ニッテイさんは
ビクトリアさんを見つめました。その思いを、ビクトリアさんはもちろん見抜いています。
「わたくしは、あなたの青春のなかに生きる。それでよろしいのでは。」

聞き分けのない子供のように、宝物を奪われた幼児のように、ニッテイさんは呆然と立ち尽くしています。
ビクトリアさんは、優雅に立ち、衣擦れの音かすかに、ニッテイさんに近寄りました。長く白くしなやかな指が、
ニッテイさんの頬に触れ、そっと耳元にささやきます。
「さあ、お行きなさい。あなたには大事な仕事があるのではなくて?」

ニッテイさんが去ったあと、ビクトリアさんはイスに腰掛け、回想にふけりました。
初めてこの家にやってきた、お人形さんのようにカチコチのニッテイさん。ボートレースの手ほどきをうけるニッテイさん。
叱咤され、それでなお奮起するニッテイさん。そしてボートレースで勝利し、笑顔のニッテイさん。
「そう、わたくしは、あなたの青春のなかで生きるの。永遠に・・・。」

解説 書き人知らず 投稿日: 2002/11/27(水) 00:48 ID:rZ92dmL.
こちらに書くのは初めてです。よろしくです。

以前、ニッテイさんとエリザベス祖母の話がありましたが、
自分なりに解釈して書いてみました。

文中、あちらこちらに朴りが・・・ケンチャナヨ。

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