戻る
<<戻る
|
進む>>
第99話
北極星
投稿日: 2003/08/18(月) 02:53 ID:6ZDioP6g
「3年地球組・茶飲み話(ただし耳に痛い)」
3年地球組の放課後はハプスブルク先生のお茶会でした。机が円陣に組まれ、先生お手製のケーキとコーヒーが配られたのです。
「うぐ……」
苦いコーヒーを一息に飲みほし、ウヨ君は眉をしかめました。
ミルクを淹れればいいものを、「それは邪道」という勝手な思い込みから苦いままムリヤリ飲みこむ損な性分なのです。
「む――」
隣に目をやると、巻毛の少年が陶磁器のお皿にかぶさって、欠食児童まるだしでチョコケーキをがっついていました。澄んだおおきな瞳と天使のような金髪は、光の加減によって今にも消えいりそうにはかなげに見えることがあります。
絶世の美少年といえるのですが、一心不乱にケーキに喰らいつく姿は、本当にまったくどうしようもなく、救いようもなく浅ましいのでした。
「ヨハネ、そんなにこのケーキは美味いのか?」
「はい、美味しゅうございます!」
「うっぷ、食べながらしゃべるな!」
元気のよい返事に、チョコケーキの食べかすがウヨ君の顔にはでに飛び散りました。
「ザッハトルテだっけ。……しかしよく食うな」
あたらしいケーキを切り分けて、一息つくとまた喰らいつきます。すでに4皿目でした。
「こんなに美味しいものをたべるのは生まれてはじめてです。わが教会にはスープと黒パンしかありませぬゆえ」
「よくそれで身体がもつな。栄養は足りてるのか?」
「ご安心を。日曜にはなんとミルクがつきます!」
「それでいつも給食をお替わりしてるか……」
涙なしにかたれない食生活です。ウヨ君は自分のお皿を脇によせました。
「よかったらオレのも食うか?」
「おお、ありがとうございます。ウヨ君に神のご加護がありますように!」
遠慮なくあたらしいケーキにいどむのです。ウヨ君はまた苦いコーヒーを流しこみました。
「ときにだ、ヨハネ」
「はい?」
ヨハネ君は陶磁器の皿から顔をあげました。
口の周りがチョコまみれです。
「とりあえず口拭け」
「はい」
世話女房よろしくウヨ君に口を拭いてもらいました。
「ところで、オペラ座の怪人というssをおぼえているか? 分量としてはぜんぜん短くないが」
「ああ、そんな話もありましたね」
「あれはいったいどうなったんだ? オペラ座が放火された時点で中断しているぞ。オレたちは奈落の下で固まったままだ。たまに思い出したように続編キボンヌする書き込みがあるが」
「うーん、あれですか」
ヨハネ君は気のすすまないようすで向き直りました。
「とりあえず、作者は全編の構想はあるようなのです」
「ふむ」
「要は、オペラ座を駆け上がっていくわけなのです。ほら、いったん地下に落ちたでしょう。それからバトル三昧で上層へ、という構成ですね。剣の天才であるウヨ君はひとりで闘いづめです」
「嫌な展開だな。お前はどうした」
「私はサポートです。白兵戦は不向きなので。……大丈夫、怪人さんは私が斃しますよ。ウヨ君は魔術に歯が立ちませんから。トリは私が締めます」
「ますます嫌だ。でも完成してないんだろう」
「ええまあ。400字詰め原稿用紙で20枚ほど書いたところで『そもそもこれはニホンちゃんなのか』という根本的な疑問にとり憑かれてしまって投げたままです」
「遅すぎだ。最初からまったく趣旨にそぐっていない」
「まったくです。まあ、こんな中途半端なかたちでアップするわけにもいきませんしね。テレビ局のヘリコプターのためにウヨ君の死闘が地球町全土に実況生中継されてしまうとか、ハデな展開はいろいろ浮かぶらしいのですが」
「冗談じゃない。オレはそんなのは嫌いだ!」
「オペラ座の内部構造とか剣術とかアブラメリン魔術とかガトリングガンとかライプニッツの『天球の音楽』論とか勉強したんですけどね。ぜんぶ無駄におわりそうです」
「しょうもないな。はあ〜あ」
「ふうぅ」
顔をみあわせてふかいため息をつきました。なにもかんがえず大風呂敷をひろげては挫折する作者に振りまわされるキャラこそいい迷惑でした。
突然、ウヨ君の視界が暗くなりました。なにかとても柔らかい、羽毛のようにふわふわしたものが頬に押しあてられ、暖かな芳香が鼻に満ちました。それは懐かしくも胸をしめつけられる香りであり、5月のカーネーションのように馥郁たる甘い匂なのでした。
「…………?」
不可解なウヨ君の耳元で、優しい声が囁きました。
「ふたりともどうしたの? ため息なんかついちゃって――。悩みがあるなら先生にいってごらんなさい。なにをできるかわからないけど、いっしょに悩んであげます」
「!? ハプスブルク先生!?」
あわてて暴れると優しく頭を押さえただけの手はたやすく外れました。清楚な美貌が目のまえに迫り、ウヨ君の鼓動が跳ね上がりました。
ふたりともうしろから先生の胸に抱き締められていたのです。
「むぐ。いきなりなんだよ先生! 照れるじゃないか」
ウヨ君の顔は真っ赤です。
「ふたりともなにを悩んでいるのですか? かくさずになんでも相談してください。生徒の悩みは私の悩みですから……。先生にできることならなんでもします。ああ、生徒の心痛を察してあげられないなんて! 教師失格ですわ」
深いフォレストグリーン色の双眸から、大粒の涙がぼろぼろこぼれました。
ハプスブルク先生は真剣にかなしんでいたのです。
「あー、う。先生、そんなに大袈裟に気にしなくていいよ。たいしたことじゃないんだ。つまりさ」
長編がいいところで投げだされてこまったものだと愚痴りました。
「まったく、かれこれ3年になる。まともにおわるのかな」
「まあ――。そうだったのですか。先生ってばてっきり、ふたりが思春期の悩みにくるしんでいるものとおもいこんでしまいました。本当にあわて者ですわね。そういえば先生も、メイド服のまま放置されてるSSや、ソマリー君を預かるSSがあったような気がします」
涙をぬぐうと、いつもの先生がもどってきました。清楚で母性的で、だれにも優しく、しかししめるところはきっちり締めるしっかり者の先生なのです。
「ところでさ」
「はい?」
「ヨハネ、お前は何やってる!」
一緒に抱き締められたヨハネ君は、気持ちよさそうに先生の胸に埋もれていたのです。心底しあわせそうに、仔犬のようにぬくぬくしていたところを、ウヨ君に襟首をつかんでひきずりだされました。
「ああっ、何をするのですウヨ君。ひきはなさないでください。ハプスブルク先生の胸はふわふわして気持
ちいいのです」
「だーーっ!! なにをいっている。観ているほうが恥ずかしいんだ。お前には恥というものがないのか!」
「自分を偽ってもはじまりませんよ。ウヨ君ももっと正直になることをおすすめします。先生にあまえたけ
れば遠慮なくでれでれすればいいのです。ねえ先生?」
「そうですね〜。ほらウヨ君もいらっしゃい。抱っこしてあげます」
「先生……」
ウヨ君は脱力して肩を落としました。
この先生には、どうも調子を狂わされるのです。
面白そうに頬をつつかれたり、いきなり抱きつかれたりするたびに、頭に血がのぼって取り乱してしまうの
です。
ペットのように可愛がられるのに不慣れで、しかし嬉しい感情もあり、結局どうすればいいかわからなくな
ってしまうのでした。
(これがヨハネならおもいきりぶん殴ってやるんだがなあ。なにがちがうんだろう?)
服の上からでもはっきりわかる綺麗な釣り鐘型のバストが、砲弾のようにつきだして、ウヨ君の目の前にく
るのです。
抱きしめると折れそうなほど華奢な身体に不釣り合いであり、それがプリンのように柔らかいことを、面白
半分に抱きつかれるウヨ君はよくしっています。
フラメンコ先生の佳麗な美貌とずぼらな性格とはどこまでも対照的に、今日もなごやかにチャームをふりま
きつつ、彼女は生徒の指導に全力投球するのでした。
「ばあ!」
「うわっ」
「ウーヨちゃん♪ なんのおはなししてるの?」
ロングヘアの少女が嬉しそうにとびついてきました。ウヨ君がおもわず姿勢を崩すと、まぶしい金髪
が頬をうちました。初夏の太陽のようにあかるく爽やかな、いつも元気な彼女はウヨ君の幼なじみなのでし
た。
「なんだラスカか。おどろいた。いまヨハネと愚痴ってたところさ」
「グチって? なんの?」
「某バトルものさ。おまえは登場してないから関係ないが。そういえば中断している長編、おまえにもあっ
たよな」
「ああ、あれのことだよね」
ラスカちゃんは胸元からブローチをひきぬくと、指先ですばやく廻しました。
ブローチはみるまに大きくなっていき、凝った紋章の彫りこまれた白亜のバトンになりました。
「そーれ!」
バトンを一閃すると、白銀の粒子がそれにしたがって尾をひきました。
冷涼な空気があたりに充ちました。月光の雫のような銀色の光が、ラスカちゃんの周囲にあつまってその身
体をおおいました。
光は色調を変化させるのです。虹のかけらのようなプリズム色がすべての人の目を射ました。
やがて光が消滅すると、白銀のコスチュームをまとった魔法少女が出現していました。
「魔法少女プリティラスカ! 愛の妖精ただいま参上、あなたのハートに逝ってよし!! ……ってひさし
ぶりに変身してみました!」
「おおーーっ」
「すごいすごい! 素晴らしいですラスカさん! 私も変身したいです」
「すごくきれいですわ〜。ラスカちゃんにこんな隠し芸があったなんて先生びっくりです」
みんなやんやの大喝采です。
「でもみんなおぼえてるかな? けっこう昔だよ?」
「おぼえてるおぼえてる。あれはどうしたんだ?」
「わからないの。作者のゼロさんも最近カキコしてないしね。せっかく仲間がふえたのにもったいないとお
もうな。このままじゃ秘密結社ソーレンが野放しになっちゃうよ〜」
困ったなあ、というふうにプリティラスカは表情を曇らせました。彼女は感情の量が豊富で、それを隠すこ
とをしらないのです。
「うーん、作者の復活待ちか」
「ねえねえラスカちゃん!」
プリティラスカのコスチュームの裾をひく手がありました。片手で抱ける程度のむくむくした白熊のぬいぐ
るみがなんと言葉をはなしています。
彼の名前はポーラ。
白熊ぬいぬいは世を忍ぶ仮の姿です。その正体は魔法王国から遣わされた雪の妖精であり、正義のために悪
とたたかうプリティラスカをサポートするのが使命なのです。
「うん? どうしちゃったのポーラちゃん。そんなにあわてちゃって」
「ダメだよラスカちゃん!! プリティラスカの正体はぜったい秘密のはずだよっ!! みんなのまえで変
身なんかしちゃっていいの!?」
ポーラの声は狼狽の極みにありました。
「うん? ……んーーふっふっふ」
プリティラスカは口の両端をつり上げて、チェシャ猫の笑いを笑いました。
「え?」
「のーぷろぶれむよ、ポーラちゃん!」
ぐっ! とプリティラスカは親指を立てました。。
「え、え?」
「これは番外編だもの。正体バラしちゃってもかまわないんだよーー♪ ねえ、みんなのーぷろぶれむだよ
ね?」
「ああ、のーぷろぶれむだ!」
「のーぷろぶれむです!」
「のーぷろぶれむですわ〜」
ウヨ君とヨハネ君も親指を立て、ハプスブルク先生はにこにこしていました。
「ほら、みんなもああいってるよ。さあポーラちゃんもいっしょに! のーぷろぶれむ!!」
「え、でもさ」
「のーぷろぶれむ!」
「番外編だからって……」
「のーぷろぶれむ!」
「魔法王国の女王様に知れたら……」
「のーぷろぶれむ!」
「の、のーぷろぶれむ」
プリティラスカの勢いにのまれて、ポーラはついに同調しました。
「わあ、わかってくれたんだねポーラちゃん! だから好きなんだ♪ チューしちゃお」
プリティラスカは、ひじょうに釈然としない表情のポーラを抱きあげて、キスの嵐を降らせました。
「うーんチュッチュッ。かわいいかわいい♪ このお鼻のあたりがとくにかわいいからチューしちゃお。お
でこはもっとかわいいから、もっともっとチューしちゃおーっと!」
「うっぷ、苦しいよラスカちゃん」
大騒ぎしているふたり。そこに真っ黒に陽焼けした少女がやってきました。
「中断した長編の話? ならアタシにもいいたいことがあるぞー。姉貴が映画をとる話はいったいどうした
のさ? なんの音沙汰もないじゃん。けっこう楽しみにまってるんだぞ、アタシは! 姉貴にきいてみても
、複雑な顔で『さあ、いつになるのかわかりませんわ』とかほざくし。自分で撮ってる映画だろーがっての
!」
コルシカちゃんは適当なイスにどっかと腰をおろすと、さきほどのふたりとおなじ調子で愚痴るのでした。
「名無しのゴンベ氏のHDが物理的にあぼーんしてしまったかららしいわ。みんなで国歌を歌うSSもそうだけ
ど、お姉さまが登場すると、かなりの確率で打切りになるようですわね」
アンニュイな仕草でほうとため息をついてみせたのはケベックちゃんです。
「さらに広告を貼りつけまくった業者のせいで、プロバイダーごと2ちゃんにアク禁をくらったとか。つい
てないわね」
「マンガ喫茶から投稿したらどうかな? フロッピーに保存してさ」
「FDやMDは持ち込み禁止のところも多いのよ。どんなウイルスがひそんでるかわからないもの。待つしかな
いのかしら……」
「ううーん」
コルシカちゃんとケベックちゃんは、同時にため息をつきました。こんなところまでさきほどの男子ふたり
とおなじなのでした。
「まあまあみなさん、そんなにがっかりしてはいけませんわ。可愛いお顔がだいなしです。先生が勝手にま
とめさせてもらえば、面白くしようとすると、どうしても文章は長く、投稿の間隔も開きがちです。しかし
、だからといって長期間投げ出しにしてはいけないと先生思うのです。
完結しない作品はまだ存在していないのとおなじですわ。どうしてもみなさんに復活していただきたいの
です。このとおり、私たちもつづきを熱望しております。……そういえば、三毛さんが復活なさるとか」
「左様です。stillが再開するのです」
ヨハネ君が重々しくうなづきました。
「ウヨ君主演の三角関係の行きつくさきはいずこか興味の尽きぬところです。というかそもそも、ウヨ君貴
方はだれがお好きなのですか。貴方がはっきりしないからいつまでも決着がつかないのです」
「え"っ?」
「そーだそーだ。ここではっきりさせちゃえ〜」
かすかに赤面したウヨ君をみて、コルシカちゃんも悪乗りしました。じつに悪戯な笑顔を満面にうかべて、
じりじりと迫るのでした。
「オ……」
「うん?」
「オレは……」
「ふんふん、オレは?」
「オレはまだ、誰も好きじゃないぞっ!」
「え〜〜〜〜〜っ?」
「つまんなーーい!!」
ウヨ君は叩き斬るように叫び、期待にわくわくしていたコルシカちゃんとケベックちゃんは失望して抗議の
声をあげました。
「ウヨのうそつき〜〜」
「うるさいケベック、だいたい今のオレはstillに登場していない。そういうことは5年後のオレに聞け」
「あ、うまく逃げたわ。じゃあラスカちゃん、ラスカちゃんはウヨのことどうおもってるの?」
「えっ! わたし?」
「そうそう。本当はラブラブだったりするんでしょ」
「え〜〜〜とね、わたしはね……」
ラスカちゃんは傍目にも明らかに狼狽していました。みるまにトマトのように赤面して、その声は聞こえな
いほど小さくなりました。適当にごまかすという発想がないのです。ラスカちゃんはその場にもじもじした
まま、棒杭のように立ちつくしました。
「え〜〜とね、わたしは、わたしは……。ん?」
(……わたし?)
ラスカちゃんの胸中にひらめくものがありました。
「うんうん、それから?」
興味津々たるケベックちゃん。
「あはっ、あははははははは!」
ラスカちゃんは急にうわずった声で笑いだしました。
「ラスカちゃんのこと聞かれてもわからないや。だっていまのわたしはプリティラスカだもんねー!! ホ
ントごめん! あっ、カラータイマーが点滅してる! プリティラスカは3分間しか地上にいられないんだよ
〜〜! じゃーね、ジュワッ!!」
「なんだいカラータイマーって?」
怪訝な顔のポーラをひきずって、プリティラスカ――というかラスカちゃん――は、教室を飛びだしていき
ました。
「あーあ、行っちゃった。……私も燃えるような恋愛したいな」
ケベックちゃんは羨ましそうに嘆息しました。恋に恋する年頃なのです。
「だいじょうぶ。ケベックさんは可愛いから、これからいくらでも素敵な恋ができますわ。自信をもってい
いのですよ。先生が保証してあげます」
「えー、そうかな?」
「そうですとも。本当に目に見えるようです。美しく成長したケベックさんが、素敵な男性に囲まれている
姿が。ケベックさんは自分らしくしていればいいのです。他人をうらやむ必要なんかないのですよ」
「うーー……」
ケベックちゃんはうつむいて顔を赤くしていました。なんとなく、フランソワーズちゃんを真似ることを遠
回しにたしなめられたような気がしたのです。
「ね、ウヨ君もそう思うでしょう?」
「ああ、お前は美人になる。自信をもっていいぞ」
きわめて真顔でウヨ君は請けあいました。かれにお世辞はなく、ほんとうにそう思っているからそう話すだ
けなのでした。
「いやだ、みんなして……」
ケベックちゃんは顔をあげていられないほど照れまくり、教室から逃げだしてしまいました。
「なんだ? 変なやつだ」
(むう。天然サオ師!)
心中でコルシカちゃんは驚愕の目をみはっていました。
「まあ、そのなんだ。恋愛ものは三毛さんにまかせようじゃないか。どうだろう、このあたりで三毛さんに
エールを送って、しめくくりにしようじゃないか」
「そうですわね。先生賛成です」
「私もご一緒いたします」
「あ、じゃアタシも……」
ウヨ君の提案に、のこった3人とも賛成しました。
「それじゃ、オレが音頭をとらせてもらうぞ。せーの……」
三毛さんがんばれ、という声援があわさって、夏の空に消えていったのです。
おわり
この作品の評価
結果
その他の結果
選択して下さい
(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
コメント: