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第7話 無銘仁 ◆EheIeILY 投稿日: 2003/09/14(日) 00:46 ID:95mxmD26
 「外伝・ニホンちゃんとコヴァ」

コヴァ「うおぉぽぽぽおおぉぉ! こんな偏向教科書使えるか!!」
荒れる授業。肩を落とす担任。もはや処置なしといった様子である。
元来が責任感の強い男であるから逃亡など考えも及ばない。
しかたがないので、担任は思索にふけることにした。……数分後。
担任「なあみんな、今日は課外授業にしないか?」
コヴァ「課外授業といえば靖国神社で英霊の授業ですにょー!!」
生徒A「なんでそうなるんだよ。でも先生、許可は取ってあるんですか?」
担任「いや、取ってはないがそのぅ、ごにょごにょ」
生徒B「なんでもいいじゃん。たまには外へ出るのも面白いだろ?」
担任「(見捨てられたクラスに許可なんぞ要らんのだよな……)
ま、まあうちは生徒の自主性を重んじるから、多数決で決めよう。な」
コヴァ「自主性? 多数決?? うおおお、馬脚を現したな日教組!!」
担任「……。さ、決めるか。行きたい人手を挙げて……あれ?」
四十人学級のはずが、五人しか生徒がいない。
生徒C「あ、先生、他の生徒は全員突然の頭痛で保健室に行きました」
担任「(……俺も猛烈に行きたい)とにかく出かけるぞ」

半開きになった車のトランクから縄で縛った両足がはみ出ている。
コヴァ「なぜオレを監禁するんだ! まままさかアメリカの陰謀か!!」
担任「……お前をここで出すと何をやらかすか分からんからな。まずは
周辺地帯の安全を確認してから出してやるよ」
生徒A「先生、またなんだって小学校に来たりしたんですか?」
担任「いいかお前ら。人間は成長するに従って高度な知識と思考を
得る。だが、時にはそれがじゃまになることだってある。特に木場には
童心にかえって、心の広さ、素直さを取り戻してほしい」
コヴァ「先生、そんなにもボクのことを…… や ら(ry」
担任「うわあぁぁやめろそんな趣(ry」
生徒D「確かに、はつらつとした小学生を見てると和みますね」
昼休みだからだろうか、校庭で遊んでいる子供が多い。
担任「付近に木場を刺激するものもなさそうだ。もう出してもいいな」
担任はトランクからコヴァを引きずり出した。
ニホンちゃんたちが校庭でドッヂボールに興じています。
「うえぇぇぇん。痛いよう」
あらあら。ボールをぶつけられて、ニホンちゃんが泣いています。
「あ、ご、ごめんニダ。つい力を入れすぎてしまったニダ」
「ちょっと、あんたボール投げた人?女の子相手に無茶しないでよ」
「む。なぜよ。あたし的には男女平等精神で問題ないわ」
「ああそうか、アサヒちゃんはフェミニストなんだ。じゃあ君に
ぶつけても問題ないわけだ」
「な、なにを……暴力反対! これは女性の人権抑圧だわ」
怒涛の変節漢ぶりに、周りのお友達も呆れ返っています。
その時、校門の前に白いセダンがとまりました。バタン。車から次々と
人が降りてきます。高校生風が四人と、もう一人は若い男です。
「この学校に客なんて珍しいな。おいみんな、見に行こうぜ」
「アメリー、君は本当に好奇心の塊だな。もう少し節度と言うものを……」
「いつまでも講釈ぶってると置いてくぞ」
子供たちはボールを放り出し、校門の方へ駆けていきました。

校門にたどり着くと、集団は車のトランクからなにやらひきずりだして
いました。アメリー君が真っ先に声を掛けました。
「ハロー、ああ、ええと、職員室をお探しですか」
「あ、こんにちは。別に職員室へは行かないよ。心遣いありがとう」
そう答えた若い男は教師でしょうか。それにしても高校生が何の用事で
来たんだろう、とニホンちゃんは疑問を抱きました。
「いやに外人の子が多い学校ですね」
「まあ、地域の事情ってものがあるんだろう。幼い頃から国際性を習得
出来る、という点では悪くないよな」
なんだか難しい話をしているみたいです。その時集団の後ろから何かが
躍り出て、狂ったように咆哮しました。
「うおおおお!! 外人は御国を汚す犯罪者!! 強制送還しろ!!」
「や、やめろ木場! すまん、このお兄さんはちょっとあれなんだ。
みんな分かってくれるね」
女の子たちは怯えつつ頷きました。一方男子諸君は戦闘態勢です。
コヴァ「べべ米帝の陰謀により子供達を純粋まっすぐ、ポチに育てようと
しているんだ!! ア、アングロサクソンと同じ学校に通うなど断じて
認めん!! 奴らは日本人を抹殺しようとしたんだぞ!!」
小学生にまで牙を剥くコヴァに担任も生徒達も手を焼いている。
四人がかりで力いっぱい押さえつけると何とかおさまった。
担任「ハァハァ。やっとしずまったか……」
生徒C「(小声で)先生、あれ見てくださいよ。やばくないですか」
そういうと、日本人の女の子二人のうちのめがねっ娘を指差した。
担任「な、なんだあの凄まじい妖気……いや電波は!!」
その子は旭日に「朝」のロゴが入った服を着ていた。そしてまるで後光が
差すかのようにゆんゆんと閃光を飛ばしながら立ちすくんでいた。
生徒A「あれはもしかして、朝日新聞の社旗?」
コヴァ「うぽおおぽぽぽ!! 先祖を貶める売国朝日は氏ねぇ!!!」
担任「ああ、始まった……」
コヴァは嘆息する担任を振り切り、砂塵を巻き上げ突進した。

担任「全て終わった……俺の教師生命もな……」
見下ろした先にはコヴァが昏倒していた。小学生とはいえ多種多様な
特技を持つ子供達に囲まれてはさすがのコヴァも勝てなかった。
そのかわり、むこうにも軽傷を負った子が何人もいる。当然その責任は
引率者が負うことになる。
生徒D「いや、まだ間に合いますよ。今からでも謝れば」
担任「いいんだ。俺の力が及ばずすまなかった。短い間だったが……」
生徒B「校舎から誰か出てきたけど、誰なんだろ?」
我に返って昇降口に目をやると、白人の若い女性がいた。
女性「ちょっと、何があったの? アメリー君、どういうことか説明なさい」
口調から教師であることが知れた。ALTだろうか。きついようでどこか
ラテン系じみた軽快さを持った女性に見える。アメリーと呼ばれた白人の
男の子が今あった事件を説明している。担任はとにかく謝ることにした。
担任「この度はうちの木場がご迷惑をおかけしすみません。この子達の
担任の先生はどこにいらっしゃるかご存じありませんか。今後のことを
お話ししたいのですが」
女性「ああ、あなたが引率者ですね。私が担任のフラメンコです」
担任「え? (担任教諭は地方公務員だろ……布羅免子?)」
木陰に並んで鉄棒にもたれ、二人は愛する生徒達を眺めています。
「しっかしドッヂなんて何年ぶりだろな。懐かしいよ」
「うおおぉぉ!! 優れた国民的遊戯は民族の誇りだにょ!!!」
「お兄ちゃん、ちゃんと前見てないと危ないよっ」
ニホンちゃんたちと生徒A〜D、そして木場君も一緒になってドッヂを
楽しんでいます。陽光も暖かな昼下がりです。
「いえいえ、ご両親もみんな理解のある方ばかりで。『自衛のための
負傷は家の名誉だ』なんて言って終わりですよ」
「はぁ。そんなもんですか(助かった……)」
「元気な生徒さんでいいですね。若さあふれるというか」
「なんというかあいつは……こうと決めると絶対止まらないやつでして。
その方向がおかしいから、いつも僕が苦労するんですけどね」
担任の先生は肩をすくめてみせました。すこし顔が緩んでいます。
フラメンコ先生は穏やかに微笑んで話を聞いています。
「手のかかる子の方が可愛いなんてよく言いますけどね。僕も木場を
見捨てる気にはなれんのですよ。根が素直だから、曲がったことが
許せないから、だからああいう極端な言動に出てしまうんです」

担任の先生は木場君の問題行動、木場君の家族、木場君の教祖など
のことを話しました。ひと段落したところでフラメンコ先生が言いました。
「先生のお気持ちはよく分かります。……児童たちを見ててくださいな」
担任の先生は、歓声をあげている子供たちをじぃっと見つめました。
「おいキッチョム、かくし玉なんて卑怯なまねはよせや」
「だめだよ、何言っても。首領のいうことだけが正義なんだからさぁ〜」
「アメリー君、相手チームにまで指示するの、やめて下さらないかしら」
「何でもすぐ自分が一番と思い込むのは悪い癖アル」
「カンコ君、当てられたからって私を軍国主義者だなんてひどいよ」
「気にすることないよ。いつものことだから」
何だかあちらこちらで揉め事が生じています。そして木場君は……
「ぬぐう、なぜオレたち高校生が劣勢なんだ。特攻精神で玉砕だ!!
うぽぽぽおお奥義、憂国球ポチ斬轟ぉぉぉぉ!!!!」
小学生相手にムキになっていましたとさ。
担任は驚きを隠せなかった。特定人物への盲信、いびつな優越感、
過剰なレッテル貼り。コヴァと過ごした苦難の日々を思い出すような
性格ばかりだ。こんな児童らを担任して、穏やかでいられるとは。
担任は布羅免子先生に敬服の念を抱き始めた。
担任「ず、ずいぶんと大人びた子たちですね」
免子「ええ。どの子も修羅場をくぐって来ていますから」
担任「修羅場……」
免子「なんというか……家庭に複雑な事情のある子ばかりで」
やはりこの人は相当なやり手だ。翻ってコヴァ一人でうちひしがれて
いた俺はどうだ。こんな学級を持ったら発狂するに違いない。
免子「投げ出そうとしたこともあるんです。見ての通り喧嘩してばかり
なんですけど、でも、いつかはこの子たちが何のしがらみもなく……
なんて、そんな妄想で気を紛らしたり」
笑顔で言ったが、目は笑っていなかった。担任は目を伏せた。
コヴァの将来を考えてみた。日本の将来像も考えてみた。

少女「せんせぇ、早くしないと授業始まっちゃう!」
いつの間にか昼休みが終わっていたようだ。
担任「ああすみません長話しちゃって。もう帰ります。おい、いくぞ」
免子「いえ、すっかり遊んでもらって。生徒さんにお礼を言わなくちゃ」
担任たちは何故だか名残惜しさを覚えつつ、校門前へ戻った。
生徒A「先生、コヴァがどっかいったまま帰って来ません」
担任「なにぃ、またか! くっそぉ無事終わったと思っていたのに」
そのころコヴァは……ウヨ君を捕まえて暴走していた。
コヴァ「うおおおぉぉ君はなんて物分りがいいんだ!! ブサヨクども
とは大違いだ!!! ニッポンの未来は明るいぞ!!!」
武士「はあ、それはどうも(愛する者を……オレの場合姉さんを守る
ため身をなげうつのは当然だと言っただけなんだけど)」
担任「こら、いつまで暴れてるんだ! もう帰るぞ」
コヴァ「暴れてませんにょ。ボクはただ憂国少年と語り合って……」
武士「語り合ってません」
その後発作を起こしたコヴァを連れ帰った担任は生傷だらけになった。
学園に戻った木場君たちは授業を……と思いましたが授業時間が
終わったので雑談にふけりました。
「なあ、あのめがねっ娘可愛くなかったか?」
「お前どういう趣味してるんだよ、俺的には断然もう一人のほうだな」
「うるせえな、俺は正義感あふれるめがねっ娘萌えなんだよ」
「っていうかお前らいくらなんでも小学生に欲情するなよ。ロリコンか」
「うおおぽぽおおぉぉ!! ロリコンといえばロリータ! ロリータと
いえば露助の小説だからロリコンはアカ!! ブブ、ブサヨク!!
お前らロリコンはまとめて氏ねぇ!!」
発作が再発したようです……しかし冷静な文学少年もいました。
「いやちょっと待て、『ロリータ』の作者ナボコフはロシア革命にともない
亡命し、英語で作品を書いている。すなわち反共の作家だ!」
「そういうことならアカではないにょ。あれ? でも英語……うおおぉぉぉ
英語の小説を読む輩は米帝の文化侵略に屈するポチ!! ロリコンは
プードル!! うおおぽぽおおぉぉ!!」
木場君は止まりません。担任の先生のつぶやきがむなしく響きました。
「ああ今日も平和だ……」

放課後の五年地球組でも話に花が咲いていました。
「変な人たちだったねぇ。『うぽおぽぽお!!』なんちゃって」
「あははは、ニホンちゃん、そっくりぃ」
「さすが模倣では町内一の日ノ本家の血を継ぐだけのことはあるね」
「ウ、ウリだって模倣は得……」
「あんたのは朴李」
「アイゴー! い、いつかウリジナルで見返してやるニダ!」
頑張れカンコ君。オリジナルで勝負するなら大歓迎ですよ。
一方、ゲルマン兄妹は早々と帰途についていました。
「どうした。気分が悪いのか。早く帰りたがるなんて珍しいな」
「いや気遣うほどのことはない。……兄上、今日来たあの男の主張、
以前に聞いた事があると思わないか」
「む。そういえば他国に屈せず自立が云々とか、軍事力を抑えられて
いるが増強云々とか言っていたな」
「……もうあんなことは二度とあってほしくない」
ゲルマッハ君は優しく肩に手をかけ、思いを新たにするのでした。

解説 無銘仁 ◆EheIeILY 投稿日: 2003/09/14(日) 00:50 ID:95mxmD26
この話はフィクションです。いちいち挙げませんが微妙に諷刺も
とりいれました。自慰にならないように無難な描写を心がけた
つもりではありますが、不適切な箇所にはご指摘賜りたく思います。

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