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第11話 黒いブラック 投稿日: 2007/06/23(土) 14:45:12 ID:VdKTWXQE
「遠くで眺めてこそ・・・」

日本家の人々はそれぞれが伝統の舞踊や芝居を習っています。
日本家の子供であるニホンちゃん達も例外では有りません。
ニホンちゃんは「日本舞踊」、ウヨくんは「歌舞伎」を先生に就いて教わっています。
今日は、その練習の日です。
「ウヨくん、そこはもっと振りを大きくして良いんだよ。」
「はい、先生」
先生からの指導を受け、真剣に芝居を練習しています。
日本の伝統芸能である歌舞伎は、男性しか参加できません。
役に女性が有る時も男性が「女形」として踊ります。
そして「女形」ゆえに、華奢な体とソプラノボイスが要求され
特に少年に、この役が回ってきます。
今日のウヨくんの練習も、「女形」の練習です。

「ウヨくん、舞台では少しオーバーアクションで良いんだよ。
 ただし、女性なのだから繊細さと柔らかさを忘れないでね。」
「はい、判りました。でもオーバーアクションと繊細って矛盾してる要素を
 両立するのは難しいですね。」
「日々、練習。それと観察です。身近にニホンちゃんという良いお手本が居るでしょう。
 日常全てが修行です。」
「はい、精進します。」
「では、最後に頭から通して終わりにしましょう。」
優雅に演じているように見えても練習は厳しい物で、今日もかなりハードだったみたいです。

「はあ、疲れた。けっこう汗もかいたよ、シャワーでも浴びるか・・・」
そう思って廊下を歩いていると、一足先に練習を終え、シャワーを浴びて涼んでいる
ニホンちゃんに遭いました。
「涼しそうだね姉さん、もうシャワーは終わったの?」
「うん、私は使い終わったから、武士も早く汗を流してきたら?風が気持ちいいよ。」
「そうするよ。姉さん、気持ちいいのは判るけど、風に当りすぎて風邪ひかない様にしなよ。」
「大丈夫よ、武士は心配性だね。」
そう言って、ニホンちゃんはおやつのアイスを食べ始めました。

続く
ニホンちゃん、伏線の通りに風邪を引いてしまいました。
「ついてないね、明日は休日なのに風邪だなんて・・・」
「ゴホゴホ、武士の言う事を聞いておけば良かった。」
「まあ、学校も無いんだからゆっくり休めば良いよ。じゃあお大事に」
そういって部屋から立ち去ろうとしたウヨくんをニホンちゃんが呼び止めます。
「待って武士、お願いがあるの・・・」
「ん?何、改まって・・・」
「実は・・・」
ニホンちゃん、明日の休日に漫画家のサイン会に行く予定をしていたのでした。
仲良しの女の子達といっしょに参加する計画だったのです。
「なんだ、そんな事?どうせ行くのはタイワンさん達でしょう。僕が頼んでおいてあげるよ。」
「だめなの、参加の券、1人1枚でサインも1枚なの、券が2枚あってもサインは
 2枚もらえないの・・・」
「なんだ、じゃあ僕がいって来てあげるよ、明日は特に予定も無いから」
「ほんとに? 武士ありがとう。 あと、もうひとつお願いが有るんだけど・・・」
「一度引き受けたんだから、何でも言ってよ。」
「実は、そのイベント、女の子限定なの・・・だから、お願い!もう一度だけ女装して!!」
「・・・・姉さん、わざとなのか?・・・ そんな条件、先に言ってよ。」
ウヨくん、一転して参加を拒否しだしました。
「武士がそんなに薄情だったなんて・・・ゴホゴホ 病気の姉のたった一つの願を
 踏みにじるなんて・・・ゴホゴホ」
「姉さんずるい!さっきはそんなに咳なんて出てなかったのに・・・」
気のやさしいウヨくん、ニホンちゃんの泣き落としにかかり、しぶしぶ参加を承諾する事になりました。

次の日の朝、ニホンちゃんからタイワンちゃん達に紹介されたウヨくんは、
イベントに参加するため、いっしょに会場へと向かいました。

続く
「ニホンちゃんも残念ね、こんな時に風邪だなんて・・・」
「ええ、本人もとても残念がっていました。」
「鷹羽さんって、この前学校の学芸会に出てましたよね?
 見てましたよ、とてもお綺麗でした。」
「ありがとうございます。あの時はご挨拶できなくてごめんなさい。」
「ウヨくんとも仲が良いニダか?」
「ええ、でも兄弟みたいな物ですから・・・」
「日本家の方はみなさん漫画がお好きなようだけど、貴方もですの?」
「私は、あんまり詳しくないので・・・」
「あら、残念ね。 でもニホンちゃんの関係者ですもの、なにか面白いものを
 お書きになったら、ぜひ私にも見せてくださいね。」
「はい、そのときは・・・」
タイワンちゃん、ラスカちゃん、ちょごりちゃん、フランソワーズと無難に質問を
うけ流しながら不自然に成らないように親睦を深めるウヨくんでした。
しかし、心の中では「これは女形の練習、これは女形の練習」と自分に言い聞かせながら
必死に平常心を保たせ演技を続けていました。
(一般の演技なら二時間程度なのに、今日一日このままか、これは厳しいかも・・・)
がんばれ、ウヨくん!これも修行だ。

そして一行は、目的の会場にたどり着きました。
けっこう広い会場ですが、多くの女の子が集まっていました。
開園までもうすこし時間が有るみたいなので、みんなで漫画の話をしていました。
「ねえ、鷹羽さんはどの作品が好きなの? 私はこれがすきなの」
(この作家、そんなに女の子に人気があるんだ?コミックを読んだけど、そんなに
面白いとは思はなかったな。)
「いや、やっぱりこれでしょう、この耽美な感じが良いじゃない。」
「なにを仰っているの?こちらの作品こそが代表作に相応しい作品ですわ。」
「私、あまり詳しくないので・・・えっと、どれですか?」
そう言ってウヨくんはみんなの漫画を覗き込みました。
(こ、これは、腐女子・・・まさかラスカちゃんやタイワンさんまで・・・)
そうです、商業誌では大人しい作家が、同人誌ではじける、このイベントのメインはそんな作家でした。
「み、みなさん、趣味が多様ですね。 私、こう言うの成れてなくって・・・」
「大丈夫、貴方もすぐに染まるわ、なんせニホンちゃんの知合いだもの。ふふふふ」

続く
そうこうしているうちに、開園時間になりました。
「走らないでください」のアナウンスもむなしく無視され
みんな全力疾走で会場内を駆け抜けていきます。
ウヨくんも着いて行こうとしましたが、迫力に負けてよろけてしまいました。
そして、周りを見ると結構転んでいる子も見受けられました。
(うわ、痛そう。姉さんも結構転ぶけど、あそこまで豪快には転ばないな・・・)
そんな女の子達も、すぐに復活し、傷を物ともせずに再度疾走していきます。
呆然と見つめるウヨくんに見知らぬ一人の女性が話し掛けてきました。
「貴方、余裕ね。でもここは戦場なのよ。か弱いポーズを見せる為の男は居ないのだから
 自分の意志を貫きなさい。後悔しないようにね。」
「あ、あなたは・・・」
「ちょっと昔の自分を後悔してる、ただのお節介よ。 じゃあね。」
そう言うと颯爽と走り去っていきました。
(なんなんだ・・・ポーズを見せるって、まさか、日頃の仕草は演技なのか?
まさか、そんなことは・・・)
ウヨくんは驚きを隠せません。
ですが、日頃の女性像と失踪する女の子達のギャップが完全なる否定を妨げています。
アクシデントで出遅れたウヨくんでしたが、タイワンちゃん達が順番を確保してくれていました。
なんとか、ニホンちゃんに頼まれたサインを手に入れたウヨくんでした。
戦い終わっての帰り道、ウヨくんはみんなに質問しました。
「あの、今日はありがとうございました。おかげでお姉さんに頼まれた物を確保できました。
みなさん、お強いですね。日頃からお強いのですか?」
「まさか、今日はリミッターをカットしてあっただけ、明日からはまたか弱い乙女よ。」
「あなたも、すぐに切り替えられる様になれましてよ。」
「男の人の目が有ると、自然にか弱く成れるわね。」
「ウヨくん達には見せられないニダ。」
「そんな物ですか?」
「そんな物よ。」
(僕は、修行が足りない・・・)
家に帰ったウヨくん、ニホンちゃんにサイン色紙と頼まれた漫画を渡し、自分の部屋へ
シャワーを浴びて着替えて、力なく布団に突っ込みます。
「今日は疲れた、女の子って毎日こんななのか? 彼女達はすごい・・・」
「今日は勉強になった。知りたくないことまで・・・・」
又一つ、理想という夢をなくし、大人になったウヨくんでした。

おわり

解説 黒いブラック 投稿日: 2007/06/23(土) 16:46:46 ID:VdKTWXQE
ソース無し!

めちゃめちゃ長くなった。
ストレス解消のお目汚しです。
ごめんなさい m( _ _ )m

今度は、もう少しコンセプトをまとめてから書くことにしよう。

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