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第1986話 ab-pro 投稿日: 04/09/19 13:05:45 ID:fEbUCXTy
          「ナニワ 前編」
 日ノ本家の皆は、アメリー君の家の別荘であるハワイの間での
バカンスが大好きです。というわけで、今年の夏休みも日ノ本家
の一行は、ハワイの間に遊びに行っていたのでした。

 今にもスキップでもしてしまいそうな勢いで、ハワイの海岸を
歩くニホンちゃん。ワンピースの水着から伸びるしなやかな肢体
は、かぶっている麦藁帽子ごと目の前のマリンブルーの海に飛び
込んでしまいそうなほどのパワーがみなぎっています。
 そんなニホンちゃんのおみ足の下に、ころころとボールが転が
ってきます。
 何かしら、とボールを拾うニホンちゃんの元に、今度は元気い
っぱいの男の子が駆け込んできました。浅黒い肌の着古しのTシャ
ツ姿の男の子は、きっとハワイの間の従業員の子供なのでしょう。
 はにかみながらボールを見つめる男の子。
 ニホンちゃんはニッコリとうなづいて、拾い上げたボールを本
来の持ち主に差し出します。
 今度は元気一杯の笑顔になった男の子は、ボールを受け取ると、
 「ナニワ!!」
 と言う謎の言葉を残して走り去っていきました。

 「ナニワというのは、ありがとう、という意味なんだよ、サク
ラ」
 今のいきさつを後ろから見ていたのでしょう。首をひねってい
たニホンちゃんに、パパが優しく語りかけます。
 「そうなんだ。私てっきり難波のことかと思っちゃった・笑」
 舌をチョロッと出しておどけるニホンちゃんに、しかしパパは
謎々の様な答えを返したのでした。
 「そうなんだよサクラ。ナニワは難波の事なんだ」
 昔、暗黒の時代があった。

 場面は、時を大きく遡り、ニッテイ君が尋常小学校を卒業した
ばかりのころです。
 メリケン君の家の戦船(いくさぶね)が押しかけてきたによって、
今まで限られた他家としかお付き合いのなかった日ノ本家も、今
では多くの家の人々が来訪してくるようになりました。
 そんな日ノ本家に、浅黒い肌をした、天真爛漫な瞳の輝きを持
った少女が遊びにやってきました。
 少女は元気良く、リフォームを繰り返してより良い家に生まれ
変わろうとしている日ノ本家の様子を、隅々まで見て回りました。
 活気に溢れる日ノ本家の様子に、その瞳の光をさらに輝かせた
少女は、すぐに何かを決心したようで、その日の晩うちにニッテ
イ君の部屋に押しかけたのです。

 「こんばんは。ええと、君は誰?」
 夜遅くに突然押しかけてきた見慣れないエキゾチックな少女に、
普段は冷静沈着で知られるニッテイ君も狼狽気味です。
 「初めまして。私の名前はカラニ。一様これでもハワイ家の当
主なの。ところでニッテイ君。初めて会う人にこんなことを申し
込むのは何だけど・・・・」
 ここでいったん言葉を切った少女。何か思いつめた沈黙。しか
しすぐさま意を決した幼い少女の次の言葉は、ニッテイ君の冷静
沈着とかいうものを粉々に打ち砕く威力がありました。
 「ニッテイ君。わ、わ、私と結婚してください!」
 そこまで言い切ったものの、さすがに乙女の恥じらいか、頬を
真っ赤にして俯く小さな乙女を前に、幼いニッテイ君は一瞬にし
て凍り付いてしまったのでした。
 やっと気を取り直したニッテイ君に、カラニちゃんが事情を説
明し始めます。
 カラニちゃんの家に、白い肌の色をした、いわゆる列強といわ
れる欧州町やメリケン君の家の人々が訪れるようになって、ハワ
イ家は大きく変わってしまいました。
 カラニちゃんが幼くしてハワイ家の当主なったころには、ハワ
イ家の四分の三はメリケン君の家の人々によって買い取られ、お
店としてのハワイ家も、重役たちのほとんどがメリケン君の家の
人に占められてしまっていたのです。
 「私は、私の家を何とかしたくて、社会勉強のために地球町の
家々を旅してきたのだけど、日ノ本家に来て感激しちゃったの。
 だって日ノ本商店は日ノ本家の従業員だけで営業されていたん
だもの!!」
 身振りも交えて熱心にお話しするカラニちゃん。
 ニッテイ君も両親から地球町の出来事を良く聞かされています。
白い肌をした人々が、黄色い肌や黒い肌の人々の家を次々と乗っ
取り、その家の従業員たちを召使のようにこき使っていることを。
今、地球町を支配しているのは、列強に数えられる数少ない白い
肌をした人々の家々であるのです。
 「だから私とニッテイ君が結婚して、二つの家が一つになれれ
ばっ、て。そして二人で協力して両家を私たちの力で盛り立てて
いけたら、本当に素晴らしい事じゃないかなぁと思ったら、いて
もたってもいられなくなっちゃって」
 そこまで言って、はにかみながらもニッテイ君のお返事を待つ
カラニちゃんに、ニッテイ君は顔を真っ赤にして、答えに困って
しまいます。
 結婚なんてまだまだ現実問題として考えた事もない少年の前に、
突然見知らぬ少女が現れて、結婚してくださいなどといわれれば
当然の困惑です。
 しかし、ニッテイ君の困惑はそれだけではなかったのです。
 「・・・ごめん。やっぱり結婚なんて早すぎるよ。
 ・・・・それに、日ノ本家はメリケン君のお家との仲を大切に
しなければならないんだ」
 そうなのです。日ノ本家が未だに列強の家々の傘下になること
もなく、独立した家としてやっているのは奇跡に近いことなので
す。ニッテイ君も、両親が本当に寝る間も惜しんで働いて日ノ本
家を支えている後姿を、今までずっと見て育ちました。
 そこまで努力しても、まだまだ日ノ本家は列強の家々の機嫌を
損なわないように絶えず気を使わなければ、いつ日ノ本家も乗っ
取りにあってしまうかわからないのです。
 特に、カラニちゃんには悪いのですが、すでにそのほとんどを
メリケン君の家に乗っ取られているハワイ家に手を出して、メリ
ケン君の家と喧嘩をする力は、今の日ノ本家には到底ないのでし
た。
 「・・・・・やっぱり駄目ですよね。
 そうですよね。初めて会った人といきなり結婚なんて、よく考
えたらぜんぜん変な話ですよね。
 ・・・アハハハハハ」
 ニッテイ君の拒絶にも、何とか笑顔を作ろうとするカラニちゃ
んですが、その瞳には涙が溢れそうになっています。自分でも唐
突すぎるとおもうニッテイ君への結婚申し込みとはいえ、やっぱ
り少女にとっての初めての失恋は相当なショックだったようです。
 そんな乙女の涙を前に、胸を締め付けられるニッテイ君。結婚
はともかくとして、彼女の自分の家を思う気持ちには心を揺り動
かされましたし、こんな純真な女の子を泣かせてしまった事に、
良心がズキズキと痛みを訴えます。
 「・・ほら、僕たちはまだ子供だし、結婚はまだ早いというこ
とだよ。それに僕たちは今日初めて会ったばかりじゃないか。
 結婚は無理だけど、僕たち、良い友達にはなれると思うよ」
 どこかぎこちなくはありましたが、心から慰めるニッテイ君に、
カラニちゃんは涙をしゃくり上げながら
 「・・そうだね、まずはお友達からだよね」
 と頷いたのでした。

 数日後、カラニちゃんは慌しくハワイ家に帰っていきました。
 遠くに去っていくボートを見送りながら、ニッテイ君はカラニ
ちゃんにまた会えるといいな、と思うのでした。
                       後半に続く

解説 ab-pro 投稿日: 04/09/19 13:12:36 ID:fEbUCXTy
 長期出張中にノートパソコンのハードディスクがクラッシュし、
しばらくネットができなかったab-proです・泣
 やっと昨日、修理に出してきました。正式復帰はとりあえずも
う少し先ですが、ひとまずこの三連休はパソコンを借りてこの作
品を仕上げるつもりです。
 なにわともあれ、23クールが存在していて良かった・笑

 題材が題材なだけに、長くなってしまって今回は後編に続きま
す。ので、題名もつけました・苦笑
 ソース等は明日の後編に付けるということで。では

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