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第2005話 九鬼唯 ◇mtv8oPQI 投稿日: 04/10/06 02:02:16 ID:mtv8oPQI
 気付けば夏も終わり、肌寒い日々が続きます。
 紅葉の秋ですね。
 ニホンちゃんたちは、学校の遠足でもみじ狩りに来ていました。
「遠足……って、学校の裏山じゃねえか」
 そんなことは気にしてはいけないのです、アメリーくん。
「第一なあ、ここ、すっかり伐採されてハゲヤマじゃねえか。もみじ狩りなんかできんのかよ?」
「頂上にはまだ木が残ってるらしいよ。あそこ、重機が入れないから」
「頂上まで行くのかよ……」
 にこやかにそう言うニホンちゃんに、アメリーくんはげんなりとうなだれます。
「がんばろ、せいぜい10キロじゃない」
 アメリーくんの口からは重苦しい溜息しか出ません。
「それにしても、頂上にしか木がないなんて、まるでウリナラの寺院みたいニダね」
 カンコくんの言葉に、一同がはははと笑いました。
 が。突然カンコくんは神妙な顔になって腕を組み、
「待てニダ、そもそもなんでウリナラの寺院はへんぴな場所にしかないニカ? そうニダ、ニホンが燃やしたニダ! そうに決まってるニダ!!」
 ぶつぶつ独り言を漏らしていたかと思うと、急にきっとニホンちゃんを睨みつけ、
「謝罪と賠償を要求するニダ!」
「そっ……そんなぁ。あたし、知らないよお」
 いつもの喜劇を演じるふたりに、アメリーくんはぼそり「うるせー」と呟きました。
 そんなこともあって、山の中腹に差し掛かったところでお昼になりました。
「弁当が日の丸に見えるニダ!」
「だってえ……日の丸に見えなきゃ日の丸弁当じゃないじゃない」
「ほんとうね! 軍靴の足音が聞こえるわ! こんな軍国主義的な弁当……こうしてやるわ!」
 横から割って入ったアサヒちゃんが、さっとごはんのまんなかの梅干をつまんで口に入れました。
「あああああアサヒちゃん、ひどいよう」
「まあ! かわいそうなニホンちゃん。ささ、こんなやつらほっといて、こっちであたしと食べましょ」
 なりゆきを見計らっていたかのようにタイワンちゃん登場。
(ったく、あいつらはメシの時くらい静かにできんのか)
 特に騒がしい一ヶ所を横目に、アメリーくんは弁当のバーベキューにかぶりつきました。
 その時。
「……!?」
 不意に、異常な臭いが鼻をつきました。
「おいこらカンコお! 弁当にキムチなんぞ食うな、臭うぞ!」
 その、かいだ者の神経を麻痺させ、いちじるしく食欲をも減退させる臭いに、アメリーくんは言い争っているカンコくんに罵声を飛ばしました。
「アイゴー! ウリじゃないニダ! きっとニホンの弁当が腐ってるニダ!」
「ほほほ、それともその臭いはあなたの体臭かしら? あはっ、おフロにも入ってないなんて、とんだ不潔ね!」
「ふええ、そんなひどいよお」
「ちょっと、いくらなんでもそれはひどすぎない!? ニホンちゃんは女の子なのよ!」
 極東トリオは無視して、これは確かにキムチの臭いでもない、とアメリーくんは冷静になって考え直しました。
 かといって弁当が腐った臭いでもありません。そんななまやしいものではなく、もっと強烈な……
(なんだ……?)
「まふゆのシュールストレミングだあああーっ!」
 ロシアノビッチくんが血相を変えながら猛スピードでその横を通り過ぎていきました。
 すぐ後を追いかけてきたのは、手に異様に膨張したカンヅメを持ったアイスランドちゃんでした。
 それが臭いの大本であることは、一目でわかります。
「おい! そんなもん捨てちまえ! さすがにたまらん!!!」
「……あら、失礼ね。たしかに臭いはキツいけど、意外とおいしいものなのよ。アメリーくんも食べる?」
「いらん! 食うならとっとと食っちまえ!」
「……そう」
 すこし残念そうに言うと、アイスランドちゃんはシュールストレミングを一気にドサ……と口に放り込みました。
 そのあまりに豪快な――豪快を通り越して英雄的な、英雄を通り越してネ申的な食べっぷりに、一同目が点になります。
「……ごちそうさま」
 紅茶を啜ってのみくだすと、何事もなかったかのような無表情でアイスランドちゃんは合掌しました。
 さて、そんな事件もあって、一同はようやく頂上まで辿り着きました。
「はぁ……よーやく着いたぜ」
「おつかれさま」
 ほんと、おつかれさま、ニホンちゃん。
 ハゲおやじの最後の砦のごとく頂上に生い茂る木々。
 見上げれば、これまでの疲れを忘れさせてくれるようなうつくしい紅葉が……
「って、おいこらちょっとマテ。あれは……」
 木々の枝に拡がっているものは、一見すると紅葉のようにも見えました。しかし、
 よーく目を凝らしてみると……
「あれは……キムチだ!!」
 そう。それは紅葉などではなく、枝の上に乗せられた大量のキムチでした。
 茫然自失とする一同を尻目に、カンコくんは誇らしげに胸を張り、
「実は、ウリもしばらく前にアポジといっしょにここへ来たニダ。その時、まだじぇんじぇん緑の葉っぱだったから、これではみんなががっかりすると思ってキムチを乗せておいたニダ。ウリは友達思いな人間ニダね。ウェーハッハ!」
 一瞬、みんなの刺すような視線がカンコくんに集まりました。
「ニカあ? みんなどうしたニダ? あ、アメリーくん、なぜ赤ん坊の頭大の石を持ち上げてるニカ? ロシアノビッチくんも、酒瓶半分割ったりしたら危ないニダ。んー? こらウヨ! なに目を光らせながら刀砥いでるニダ!」
 ただならぬ様子のみんなに、ニホンちゃんはおろおろ。
 10秒後。
 カンコくん打撲大会の幕が切って落とされたのだった。

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