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第24走者
ナナッシィ
投稿日: 2004/07/25(日) 10:56
「夏のニホンちゃん祭り『となりのニホンちゃん』第24走者〜今何時?〜」
「……哀号……」
アメリー君に足蹴にされ、カンコ君は地べたを舐めてさせられていました。
朦朧とする意識の中、空腹に引き摺られるかのように、カンコ君は口内の物質を噛み締めました。
口の中に広がる濃厚なコクとヒリヒリするようなキレのじゃりじゃりとした感触がとっても不快。
「ペペペペペペペペ!」
砂粒をショットガンのように吐き出したカンコ君。
空腹は満たされませんでしたが、意識は辛うじて覚醒しました。
そして、熱を持ち始めた砂上に力強く両手をついて体を起き上がらせます。
「……こんなとこで、ウリは寝ているわけにはいかないニダ!」
そう、己が使命を果たすために! 走れ、カンコ!
……と、その矢先、
目の前に一つの大きな影が落ちました。
何かと思って視線を上げると、すっかり昇ってしまった太陽を背に立ちふさがる人影がありました。 濃い土色の肌、乱れきったぼさぼさの黒髪、痩せ気味な体躯、今も残る無数の傷跡を持った少年。
最近漸く学校に登校し始めたイラク君です。
……ですが、
「ヤァオハヨウカンコクンキミニハトテモカンシャシテイルヨコレカラモヨロシクタノムヨヒトツドモドモ」
「……前から思ってたニダガ……イラク……最近感じが変わったニダね?」
以前のイラク君はいつもムスッと眉間に皺を寄せて、何かにイライラしているような表情でした。
でも、目の前のイラク君は、作り物でもこうはいかないほどの不自然に爽やかな笑顔を振りまいてます。
口ではニッカニカ笑ってるのに、目が無機質なガラス球みたいに表情がないのが、ちょっぴり不気味。
「もしかして……中の人が変わったニカ?」
「ハッハッハナカノヒトナンテイナイヨナニヲイッテルンダイチミィジョウダンモホドホドニスベキドボクハカンガエルネ」
「あ……そ、そうニダね……ニダハハハハ……」
褐色の肌に、ハレーションを起こしそうな程真っ白な歯並びを浮かび上がらせて笑うイラク君。
やっぱり……変です。何て言うか……違和感というか……
「トイウワケナンデスヨハイボクモキョウカラミンナノヨウニヨイコニナレルヨウガンガリマスデスハイ」
「……?」
「ソレニシテモヨカッタヨアメリークンニマケテカレハボクニヘイワヲモタラスタイヨウダ」
「……?」
「ミンシュシュギバンザイセイギノシトアメリーサマバンザイジユウノメガミエリザベスサマバンザイ」
「……イ、イラク一体どうしたニダ!?」
「アパムカヴォロセスパメケ……いおあおv、えうえあヴgじゃmr%&#」
壊れたロボットのように抑揚のない声で言葉を連ねるイラク君。
やがて体を意味もなく左右に揺り動かしながら眼球がレム運動のように回転し始めました。
その口からは判別不能な声だか音だかを発しながら、頭を小刻みに振動させています。
カンコ君の半万年培われた生存本能が最大級の危険信号を発しました。
『キムーチキムーチキムーチ!』
と、唐突にイラク君の揺れが収まり、項垂れたままピクリとも動かなくなりました。
代わりに、ブツブツと口の中で呪詛のように何事かを繰り返しています。
「……オレハアヤツリニンギョウジャナイオレハアヤツリニンギョウジャナイオレハアヤツリニンギョウジャナイオレハアヤツリニンギョウジャナイ……」
(こ、これはマジでやばいニダ! ここは……逃げるが勝ちニダ!)
カンコ君はイラク君の様子に注意を払いながら、コッソリと逃げようとして……
『シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
両の眼より闇よりも暗く深い光を発し、イラク君はカンコ君に襲い掛かりました。
『 カプッ 』
(解説:喧嘩に敗れたイラクはアメリー・エリザベスの手によって精神操作を受けた!
だがそれは完璧な物ではなく、時にこのような発作症状を発してしまうのだった!
言わばこれは、アメリー達に対する拒絶反応なのである! 巻き添えになったら大変だ!)
「アイゴーーーーーー!!」
頭にしがみ付きガジガジ噛み付いてくるイラク君を両肩に抱えたまま、大粒の涙を流しながら
疾走するカンコ君。
……彼の去ったその後には、だれもいなくなったシルクロードがただ悠然と伸びているのでした。
(次の人へ続く)
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