戻る <<戻る | 進む>>
第16話 あさぎり ◆aKOSQONw 投稿日: 2004/08/21(土) 11:16
『およげ マラボくん』

「え?なんで?なんで出れんのですか?」
「正直スマン、エントリー用紙に名前書き忘れちゃった、はっはっはっ。いやぁ、パパの
しっぱいだなぁ。」
 ギニア・マラボ君、パパの言葉に呆然としています。運動会の競技参加は保護者が責任もって
体育委員に届け出るのが学校の慣わし。マラボ君はパパがてっきり応募してくれると思い込み、
連日夏休み返上で練習していたのでした。しかしパパはうっかり記入漏れをして、参加無効をつい
さっき体育委員から言い渡されたところでした。
「しっぱいもちっとひどすぎだよぅパパ。おらいがいっしょけんめ練習してたのパパ知ってる
はずだぁ。」
「うん。ごめんなあ、すまんなあ、また来年頑張ろうなあ…」
「はぁ…おらいを去年応援してくれたしとに頑張ったところ見せたかったよぅ。お礼したかった
よぅ。」
 息子のあまりの落胆振りにパパはちょっとぎょっとします。
「そっかあ、一生懸命やってたんだなあ。」
「ヒミツの特訓をせんせいにさせてもらってたよぅ、去年の半分の時間で泳げるようになって
たんだよぅ…もうビート板ともおさらばしたんだよぅ・・・」
「そっかあ、頑張ったんだなあ。」
 パパ、ちょっと後ろめたい気分のようです。
「仕方ないよぅ。来年頑張るよぅ。」
「そっかあ、そうしようなぁ。」
 息子の落ち込み加減がちょっとやるせない気分にさせますが、パパも息子に恥をかかせない為に
良かれと思ってしてしまったことでした。
 ビート板無しで10メートルも泳げない息子が本気で泳げるように努力しているなんて考えても
いなかったのです。
 親にとっては去年の運動会は悪夢でした。保護者が沢山見守るプールで、たった一人で溺れながら
泳ぐ息子の姿。最初は保護者の爆笑が、そして途中から拍手と賛美の声がありました。
 参加することに意義がある。確かにそうですが、笑いものにされる息子なんて親としては見たく
なかったのです。親としては、頑張った息子を他の保護者から褒められても、どことなく馬鹿に
されている気がしないでもなかったですし…
 しかし、陰ながら努力していた息子の姿を見逃していた上、体面を気にしていた自分をパパは
ちょっぴり恥ずかしく思いました。
『いや、ほんとにうっかり書き忘れたんだけどなぁ…どうしようか悩んでて書き忘れたんだなぁ……』
 そういうことは息子にちゃんと言おうねパパ。

おしまい

解説 あさぎり ◆aKOSQONw 投稿日: 2004/08/21(土) 11:17
■解説・水際・演者交錯
※やあしょくん、いちにち6じかんはねたほうがけんこうにいいぞ!←あいさつ
※ 今回はシドニーの競泳のアイドル、男子100m自由形の選手、エリック・ムサンバニ
をネタにしてみますた。
ある意味伝説になり、世界最遅という嬉しいんだか嬉しくないんだかの異名をもらった
赤道ギニアの競泳選手です。当方リアルで見てませんが、見てたら画面に向かって拍手
してたでしょうねえ。オリンピックで『参加することに意義がある』というのを体現した
意味では、彼は最高の選手ではないかと思います。
※ 五輪委員会の『写真が見つからなかった』というのは言い訳臭いですが、どこかで
彼を五輪に出させたくなかった人間がいるのかもしれませんねえ。話中のその辺の表現も
創作なんで悪しからず。

■水っぽいソース
「応援してくれた人たちを抱きしめて、キスしてあげたい」
エリック・ムサンバニ(Eric Moussambani)
2000年 シドニー大会
【競泳・男子自由形100m】 予選
ttp://athens.yahoo.co.jp/feature/words/at00001796.html
アテネ五輪:
競泳 赤道ギニア代表・ムサンバニ、五輪委が申請せず出られない!?
ttp://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/afro-ocea/news/20040810dde035050031000c.html
WIKIの記事:赤道ギニア共和国
あーあー・・・独裁国家ですかそうですか……
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E9%81%93%E3%82%AE%E3%83%8B%E3%82%A2

この作品の評価を投票この作品の評価   結果   その他の結果 Petit Poll SE ダウンロード
  コメント: