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第4話 どぜう 投稿日: 2004/07/21(水) 03:33
その子は、幼稚園の頃から背が高く、
同い年の子の中に入ると随分目立つ割に、少しだけ内向的なのでした。
歳の離れたおしゃまな妹から逃げるように、
一人自分の部屋でテレビをよく見ている子でした。
そんな彼が子供の頃によく見ていたのは、日之本家製作の特撮映画です。
暴れ者のガッズィーラと違って、カメの怪獣、ガメラは子供が大好き。
そんなガメラが、その子は大好きでした。


『飛べよ大ガメ!』

「ハイハイ、みなさん、キリキリ掘るアルよー」
中華マンションの敷地で、アメリー君や、ニホンちゃんが、
コツコツと地面を掘っていました。
地球町は歴史が古い町です。その歴史、ざっと45億年。
あまりに古いので、昔にいた人(?)たちの骨が石になったりします、化石ですね。
みんなが集まって地面を掘っているのは、
その石になった骨を探していたからなのでした。
「なあチューゴよう、そろそろ休憩しようぜ」
この分野では一家言あるアメリー君ですが、朝から堀り続けてクタクタのご様子です。
「ふん、こんな作業、始皇帝陵に比べたらヌルいものアル。
化石になりたくなかったらみんなさっさと掘るアル」
現場監督のチューゴ君いい気なものです。
「し、始皇帝陵アルか…」
「見つからなかったら、僕らも埋められるアルか…」
なにやら物騒な事を呟きながら、
香ちゃんとマカオ君も悲壮な顔で地面を掘っています。一大事業です。

「…あ」
黙々と、あるいはブツブツ文句を言いながら化石を掘っていたみんなから、
少し離れた所で、控えめに声を上げた子がいます。
声の主はカナディアン君でした。
「お、なんだよカナディアン」
退屈そうに地面を掘っていたアメリー君が、
ここぞとばかりに目をつけました。
「何か出たよ」
生真面目な性格通り、彼はコツコツと地面を掘り続け、
ついに何かを探り当てたようでした。
「何が出たアルか?」
目ざとくチューゴ君が駆けてきます。
砂岩の中に、細かい骨が埋まっていました。
「ちょっと小さいなあ」アメリー君が呟きます。
実のところ、アメリー君の家もカナディアン君の家も、
大物の化石がよく出るのです。
「は、早く掘るアル!」せっつくチューゴ君。
「黙って!」いつになく厳しい表情のカナディアン君。
「化石が地表に出てきたら焦らずに丁寧に取り出さなきゃ駄目だよ!」
そう云って、カナディアン君はたがねを取り出しました。
『飛べよ大ガメ!』

ようやく、化石の上半身が現れました。
「おおぉ…」
みんな輪になってカナディアン君の仕事を見ています。
「カメだな、こりゃ」アメリー君が誰に云うともなく呟きました。
「か、カメアルか?!」チューゴ君が聞き返します。
「縁起ものアル…有り難いアル」
彼の家では亀は特別な存在なのです。
コツコツ、コツコツ。
たがねの音が辺りに響きます。

……
………
「…出たよ」
ふうっ、と息をついて、カナディアン君が笑いました。
そして、少しだけ誇らしげに取り出した化石をみんなに見せました。

「なんだあ、こりゃ?」
アメリー君がすっ頓狂な声を上げます。
「羽がついてるアル…」チューゴ君もびっくり。
「いにしえの霊獣アル。ありがたい化石アル」
しまいにはチューゴ君、ぶつぶつと化石を拝みはじめてしまいました。
しばらくの間、みんなカナディアン君が見つけたカメの化石を見ていました。
「で、どうするんだ?これ?」アメリー君がカナディアン君に尋ねました。
新種の化石を見つけた人は、その化石に学名をつけることが出来るのです。
「んー、そうだなあ…」
しばらく考えていたカナディアン君、苦笑しながら。
「もう、晩ご飯の時間だし、明日の朝までには考えてくるよ」
と云いました。
「た、頼んだアルぞ、かっこいい、壮健な名前をつけてくるアル。
この化石に相応しい名前をつけるアル!」
一人気を揉むチューゴ君。
「うん、じゃあ」
「じゃ、俺っちも帰るかなあ」
「私もー」
「香も帰るアル」
そうしてみんな三々五々、それぞれの家に帰っていきました。

「どうしようかなあ」
部屋のベッドでカナディアン君が悩んでいました。
「翼あるカメ、なんて名前にしよう」
食事が終わって、お風呂から出てきても、いいアイディアは出てきません。
「ダメだ、出てこないや」
気分転換にと、テレビをつけてチャンネルを回していると、
古い映画が画面に映りました。
「!!」
画面をしばらくの間見ていたカナディアン君。
何かひらめいたのか、ノートにスラスラと学名を書き記しました。
「よしっ、と」
『飛べよ大ガメ!』

次の日、始業前。
「で、これにしたってのか?」
半ば呆れ顔で、半ば感心した様子でアメリー君が、
カナディアン君に云いました。
「で、何になったの?カナディアン君?」
教室に入ってきたばかりのニホンちゃんも尋ねます。
「えぇと、これ――」
だだだだだだだーーーっ!
「み、見せ、見せるアル」
息せき切って駆け込んできたチューゴ君、
カナディアン君が見せようとしたノートを、ばっ!と奪うように受け取りました。

「…………」
しばらく学名を見ていたチューゴ君ですが、なにやら様子が変です。
「…よくよく考えたら朕はラテン語はあんまり得意じゃないアル、
カナディアン、朕に読んで欲しいアル」
「シネミス・ガメラってんだ」
「えええ?!」教室中に響く声二つ。
一人はニホンちゃん、もう一人は我らがチューゴ君です。
「ガメラって…、あの、ウチの映画の…?」
「うん、それから『シネミス』ってのは『シナの』って意味」
「でも、なんでガメラ?」
「だって空飛ぶカメって云えば、ガメラだよ、小さい頃よく見てたなあ…」
屈託なく笑うカナディアン君。
「そ、そうだったアルか。良かったな、ニホン」
ぷるぷる震えながらニホンちゃんの肩を叩いたチューゴ君。
「いい名前アル『シネミス・ガメラ』、いい名前アル…」
そう云っていたチューゴ君ですが、
『鳳凰とか玄武とか、もっと相応しくて壮麗な名前が、
我が家にはあるアルぞーーーーーー!!!!』
と思ったとか思わなかったとか。

解説 どぜう 投稿日: 2004/07/21(水) 03:46
元ネタ・ソースは以下の通り。
http://www.uha-mikakuto.com/saurus/18.html
ちなみにゴジラサウルス・クエイイという恐竜も実在するとか。

この作品ですが、しばらく前に作ったまま放置してあったものです。
今日仕事先で大映ガメラシリーズを手掛けた湯浅監督の訃報を聞き、
http://www.asahi.com/obituaries/update/0720/002.html
データの海から掘り起こしてほんの少し手直しをしてうpした次第。

偉大なる先達に、改めて敬意を表して。

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