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第57話 DD-151 投稿日: 2006/10/21 00:00:00
『(What's The ストーリー)もーにんぐ ぐろーりー?』

「アサガオの種?」
「そ、理科の観察の宿題でね、お庭に埋めなさいって先生が配ってたの。でね、今日ベトナちゃん早引きしたでしょ、だから先生に言われて持って来たの」
「ありがと」
「いえいえどいたしまして。で、どこに埋める?」
「んー」
 小首をかしげて庭を見回すベトナちゃん。その姿勢で考え込んでしまいました。

 で、あっという間に5分経過。
「え、えとベトナちゃん、どーするー?のかなぁ…はは…」
 ニホンちゃん、早く家に帰っておやつのフライケーキを確保しなければ武士に食べられてしまうと焦っていました。しかしそんな事情はベトナちゃんには関係もない話です。
「じゃ、もうこの辺適当に埋めちゃおうかなー、なんて。ね、ね、そうしよっか?」
「んー」
 そもそもなんで自分が種植えまでやってるのだろうとニホンちゃんふと思いましたが、時すでに遅し。ベトナちゃんの目がニホンちゃんにして貰うもんだと語っていました。
「でもね」
「な、何かな?」
 手近にあったスコップを構えて、ニホンちゃん今まさに掘り返さんとした時、ぼそっとベトナちゃん呟きました。
「そこ、ホー兄さんの花壇だから、兄さんにひとこと言わなきゃ…」
「あ、じゃあお兄さんに言ってくるまで待ってよう…かな……」
 その言葉にベトナちゃん頷くと、ホー兄さんを探して家の中をうろうろしはじめました。

 あっさり15分経過。
「あのー、ベトナちゃ」
「まだ帰ってないみたい。まってて」
 ニホンちゃんの気持ち何のその。そう言い置くと、ベトナちゃんはサンダルを引っ掛けて表に出て行ってしまいました。

 そして待ちくたびれて30分経過。
 何故か蜘蛛の巣や葉っぱがアオザイにこびりつき、どことなく煤けているベトナちゃんが帰ってくると、ニホンちゃんうんざりした目でその姿を認めました。
「ホー兄さん、いいって」
「はいそんじゃ掘り返しましょーか」
「あ、待って」
「今度はなんね…」
 ニホンちゃんの声が1オクターブ下がっていましたが、そんなことでベトナちゃんびびりません。
「あのね、そこにパパが球根植えてるって兄さんが言ってた」
「ああそぅ」
「でね、掘り返していいか、パパに聞いてくるから」
「ああそぅね」
 ニホンちゃん、フライケーキはもはや諦めていました。

 真っ白に燃え尽きて15分経過。
 ベトナちゃんパパの手を引っ張って、鉢植えを抱えて戻ってきました。パパさんは大事な球根を植えていたと見え、その掘り返しは根の一本まで切らない注意を払う慎重なものでした。
 それに真剣に付き合うベトナちゃん。それを嫌がらせでもされてるのだろうかと訝しげに眺めるニホンちゃん。帰りの遅い娘を心配して、ニホンママからは3回ほどメールが来ていました。
『(What's The ストーリー)もーにんぐ ぐろーりー?』その2

 メール返信しつつ40分経過。
「あらニホンちゃん、今日は珍しく遅くまでいるのねえ」
「はあ、まぁ色々ありまして…」
 晩支度の最中らしいベトナちゃんのママンが不思議そうにニホンちゃんに声をかけます。丁度そのときベトナちゃんのパパが存分にスコップを奮い終わって花壇から球根を移し終えました。
「これからもベトナと仲良くしてあげてね。この子トロイから役立たずだろうけど」
「あ、はぁい、もちろんですよー」
「マ…ママン、もう、やめてよ…」
 ニホンちゃんは抑揚無く答え、ベトナちゃんは赤面して抗議します。友人と自分の親との会話ってのは、なんかこう落ち着かないもののようです。作業に目星がついたところで、乾いた瞳で花壇を見つめながら、小声でドナドナを歌っていたニホンちゃんも腰を上げます。
「冗談冗談、ところで何してるの?」
 ベトナちゃんがママンに事の経緯を丁寧に説明します。5分くらいかけて。
『仲のいい家族っていい事だよね。うんいい事だよね、うんうんうんう説明まだ終わらないのかなあ?』
「なーんだ、そんなんなら別の場所に植えればよかったのに」
「あ……」
 ベトナちゃん物凄く今気付いた感じの顔をしました。
『なぜ今更それを…』
 ニホンちゃん、どっと疲れが体を襲います。
「ま、掘っちゃったんだからそこでいいのか。あ、そうそうベトナ、裏に行って昨日ごみ焼いた時の灰持ってきな」
「どうして?」
「灰を混ぜてあげるとね、植物さんたちは育ちやすくなるのよ」
「へー」
「ふーん……」
 ちょっとした豆知識に感心する二人。
「感心してるだけじゃなしに、とっとと動く!」
「は、はい!」
 そう言うが早いかベトナちゃんは脱兎の如く走り出し、家の裏に向かいました。
『つまりこれは、ベトナちゃんが帰ってくるまでは少なくとも帰れないのでは……』
 いやな予感は的中してしまい、タイミングを見失った結果……

 妙に滑る会話をしながら12分経過。そして…
「そうそ、よく混ぜながらね。あ、こら、搗き固めちゃ駄目じゃない」
 ママンの指導に従いながら、とっぷり日も暮れた花壇でベトナちゃん一家とニホンちゃんが『うまれくるあたらしいいのちにしゅくふくをおくる』かのように、丁寧にアサガオの種を埋めてゆきます。
 そのスローモーに見える優しい一挙手一投足に、ニホンちゃんは殺意に似たあったかい気持ちで満たされていきました。
「わたしたち、友達だよね?」
 別れ際、子犬の目線で顔を覗き込みながらそう呟くベトナちゃんに、ついいつもの癖で「うん」と答えてしまいましたが、今度からベトナちゃんへの届け物はネシアちゃんやタイワンちゃんに無理にでも押し付けようと固く心に誓うニホンちゃんでした。

   *

同じ日の放課後。
「アニョハセヨー、オージーいるニカ?」
「カンコダスか、いるダスよ」
「フラメンコ先生から宿題とお知らせプリント預かって来たニダ。まったく、理科の宿題は面倒ニダよ」
「助かるダスー。あー……、朝顔の観察ダスかー」
「ニダ。アサガオの種はこの辺にてけとーに蒔いといていいニカ?」
「あー、それでいいダス」
「それじゃあ早く風邪治すニダ」
「ありがとダスー」
 その間、5分。

おしまい

解説 DD-151 投稿日: 2006/10/21 00:09:00
□解説・開設・東奔西走
 ベトナムで新たに起業しようとした場合、手続きにかかる時間が大体50日。同じものをオーストラリアは2日でケリ付ける。
 そんなニュースを見てしまい、書いてしまいましたw
 実際ベトナムは法より治める人が幅を利かせやすい人治の国。似なくていい所が宗主様と同じとは困ったものです。
 たぶんフランス植民地時代の法令がいまだに生きていたり、省庁間の連携は全然無しで、似たような内容の書類を何度も作っては出す羽目になり、行き着くところ賄賂が全てって世界なんだろうなあ、……ハァ…

□ソース下拵え
[経済]国際金融公社:ベトナム依然起業手続きが複雑(2006/10/18 07:12 JST更新)
【(C)Viet Jo ベトナムニュース】
http://viet-jo.com/news/economy/061012094859.html

その記事の元ネタ報告書を作成している団体は、世界銀行グループの融資団体のようです。
IFC【International Finabce Corpration】国際金融公社
http://www.ifc.org/

ちなみにニホンちゃん所望の『福住のフライケーキ』は呉のソウルフード♪【写真引用(C)チェッ呉】
http://www.checkure.jp/kure/shop/fukuzumi/

解説 DD-151 投稿日: 2006/10/21 00:30:00
『(What's The ストーリー)もーにんぐ ぐろーりー?』
の補足

[経済]ベトナムのビジネス環境155カ国中99番目 税務手続きに課題【2005/09/16 07:28 JST更新(C)Viet-Jo】
http://viet-jo.com/news/economy/050915034647.html

 投資環境としちゃまだまだ未熟ですなあベトナム…
 幸か不幸か乱開発の足枷になってるのはただの結果なんでしょうね。手続き円滑だったら、宗主様の例に漏れず、破滅的な乱開発になっていた気もしないでもないです。
 日本や中国が直面した経済の急成長に伴う内部矛盾や社会の歪から逃れるよう、反面教師にしてもらいたいもんですが、多分無理なんだろーなー……
 にしても、久々にベトナ書いた気がするですw

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