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第63話 青風 投稿日: 2006/11/29 03:55:00
『想い出は美しさ故に残酷で』

 突然始めてしまった部屋の片付け中、ペルシャちゃんは物入れの底から、小さな箱を探し当てました。
「なんだっけ、これ?」
 古ぼけた、でもとても綺麗で、丁寧にしまってあったお菓子の箱。
 開けてはならないと言う予感めいたうずきと、開けてみたいと言う好奇心がしばらくせめぎ合い、ついに彼女はその箱を開けてしまいました。

 箱の中には、色とりどりの美術館の入場券や小さなブックレット。
 そして喫茶店の物らしい紙のコースターや、映画の入場券とそのチラシ。
 遊園地の乗り物券に、いつ無くしたも忘れていた古いノート。
 それに、とても行きたかったはずのコンサートの前売り券が何故か2枚。
 ――そして何枚もの写真。
 そこに写る、今では考えられないくらいに大人しく微笑む彼女自身と、彼女が寄り添う少年の姿が全ての想い出を蘇らせました。

 彼女はいつも、彼が望むままに服を選び、そして微笑んでいました。
 なにしろ、その少年の傲慢と呼べるくらい自信に溢れた態度や無神経なくらい陽気な仕草も、その時の彼女にはその全てが愛おしかったのです。
 だから、彼が彼女に隠れて大ッキライな“あの女”と付き合っている事を薄々知っていても、怒った顔のひとつもできませんでした。
 けれども、自分を偽り続けるなんてそうは続けられません。
 我慢を重ね続けたある日のこと、些細なことで彼女の中で何かが壊れ、ついに彼に向けて爆発してしまいました。
 彼は当惑し、なんでもないかのように肩をすくめ、去ってゆきました。

「無理してたんだよなァ」
 想い出の詰まった箱をぱたんと閉じて、彼女は自嘲気味に笑いました。
 彼と会わなくなってから、彼女は悪そうな友達と一緒にいることが多くなりました。
 当然、みんなの評判は悪くなりますが、それでも良いのです。
 無理をして微笑んでいたあの時は、どこか窮屈で仕方がなかったのですから。
 箱に詰まっていた想い出の替りに、今彼女の手元にあるのは、レターオープナーとしてはややごつすぎる三日月型のナイフ。
 すっかり手に馴染んでしまったナイフと綺麗な箱をしばらく見比べてから、彼女は想い出の詰まった箱に小さく「バイバイ」と言い、それから元通り物入れの底に丁寧に仕舞い込みました。

解説 青風 投稿日: 2006/11/29 04:05:00
解説など
 ネタは、ざっくりしたイランの戦後の動きです。

 ペルシャ=イランの極めておおざっぱな戦後史。

第二次大戦後、先にソ連、次にイギリスからの圧力をはね除ける課程で
イランの内政は首相と王室の間で混乱を極める。
1953年アメリカのバックアップでパーレビ国王が就任し、混乱も収束。
 以降、アメリカを背景とした国王独裁の元、近代化を進める。
 しかし、その強権は市民の不満を募らせる。
(ペルシャ、アメリーの蜜月期)

1978年ホメイニ師率いるイスラムシーア派によるイラン革命勃発。
 その課程でアメリカをはじめとする西側諸国の経済制裁を招く。
(ペルシャ、アメリーに切れる)

1980年 イランの混乱に乗じ,イラクから仕掛ける形で、
 イラン・イラク戦争勃発。(〜88年)
その後、アメリカとの関係に未練を残しつつもシリア、イラクと
連携を強め、ついでに地域安定化への貢献をアピールしつつ、
さらに北朝鮮とも関係を維持している訳です。
(ペルシャの悪い友達)

ちなみに、作中の「大ッキライな“あの女”」とは、もちろん紫苑ちゃん
(=イスラエル)の事です。


作話の動機は、あぷろだに上がっているNo93氏の「ニホンちゃんアラカルト」のペルシャちゃんにインスパイヤされたからです。

ええ、不純な動機ですが、何か?

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