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第1199話 JY55 投稿日: 02/09/02 00:20 ID:W1kbZxr/
「メロディ(仮)」

とある国の、とある高台のある街に、ある少年とある少女が産まれました。
このふたりの家は、お隣どうしでした。
とてもとても近いところでふたりは育ちます。
そして多くの場合、おとなり同士は仲が悪いものです。
やはり困ったことに、大人達はつまらない意地を張り合い、いさかいが絶えませんでした。
(原因はいろいろとあるのですが・・・。)
そのせいでしょう、この幼なじみの少女に、いじわるに当たることもままありました。
でもそれは、この少年の幼さから来るものなのかも知れません。
おおよそ少年というものは、古今東西、たいがいバカなものだと決まっているのですから。
そして例に漏れず、この負けず嫌いの子も、自分の心に素直になれないのです。


そして一方の少女は温和な子でした。
長い黒髪のおとなしい少女です。
いつも愛くるしくお利巧でかしこく、
それでいて、すこしドジだけど、そんなところも魅力な女の子です。
そしてこの子は、少年の幼さを理解してあげる事のできる大事なやさしさを持っていました。
でもときどき、不思議なことをいって、まわりの人をドキリとさせることがあります。
やっぱり、この子も女の子なのでした。
この年頃の女の子というものは、どこかで宇宙とつながっているのかも、
そんなことを誰かが言っていました。

ふたりは成長していき、同じ街にある学校に通う事になります。

夕暮れ終わり、秋の薄闇香る学校の帰り道。
その途切れがちでどことなく退屈な、男の子の一方的な話のふとした隙をついて
女の子は唐突に話しを始めました。


「ねぇ、私が死んでいなくなっちゃったらどうする?」
 「・・・・・・」
いつもは強気の男の子も驚いてしまいました。
あ然とした口を閉め忘れながら、まじまじと女の子の目の中をのぞきこみました。
彼女の目は宝石のような、いつもの艶やかで綺麗な光をたたえています。

「えっとね、そのうちいつか、この世界は消えて無くなっちゃうんだって。
お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、
先生も学校も家も犬も猫も消えちゃうの。
もちろんわたしも。
それでね、2度と合えなくなっちゃうんだって。
今日ね、理科の先生がいってたよ。 
本当かなぁ?

あっけらかんとした彼女の無邪気な質問は、彼の頭と心を打ちました。
「そ・・・そんなことを言う先生は馬鹿ニダ・・・。」
彼は精一杯、ショックの中で、そうつぶやきました。


「えっ?なに?声が小さくて聞き取れないよぅ。」
「そ、そんなことを、教えるヤツは、馬鹿ニダっ!・・・」
今度は、吐き捨てるようにつぶやきました。

「ふーん。そうかなぁ。先生って馬鹿なのかなぁ?」
少女はすこしだけ首をひねって、
そしてもう一度、愛くるしく、
「ふーん。そうかなぁ。」
といいました。
そしてすぐ、くるりと向きを変え、いたずらっぽいウインクをして
「あったまいいんだねっ!
 じゃあ、また明日学校でね!」
男の子が気がつくと、ふたりはもう家の前に着いていたのです。
彼女は、彼とは逆の向きにむけてテクテクと歩みを進めます。
まるでどこかに行ってしまうかのように。

そんな、すこし短めのスカートをはいた彼女の後姿に向けて
男の子は小さなこぶしを握ったまま、ぽつりと言いました。

「・・・キミがいなくなると・・・・・・僕は・・・、
僕は・・・・・・悲しいよ・・・。」

ぽつんと1つ、街灯のため息の下、
女の子の後姿にむかって男の子は、そう小さな声で告げました。

コオロギが同じくらい小さな声で秋の訪れを告げていました。
街には、秋風とともに小さなメロディが聞こえています。
FIN

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