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第1239話 初心者 投稿日: 02/09/29 15:38 ID:NeywEQZ1
「緑の革命」

「ニホンちゃん…。」
アフリカ班のガーナちゃんがやってきて、ニホンちゃんに言いました。
「え、なに… 私、何か、ガーナちゃんに…」
横でアサヒちゃんとサヨ君が聞き耳を立てています。また、ニッテイ祖父さんの悪口を、
ガーナちゃんは吹き込まれてきたのでしょうか。カンコ君もこちらの様子を窺っています。
「ニホンちゃんの親戚のササガワおじちゃんにお礼を言って欲しいの。」
「え、ササガワおじちゃんって、あの?」
ニホンちゃんも見たことがあります。毎日のようにCMに出てきて、拍子木を叩いて
「とっじまりようじん、ひのようじん〜 いっちにち、ひっとつは、よいこっとを〜」と
子供たちと一緒に楽しそうに歌って町内を練り歩き、最後に得意満面で、
「世界は一家、人類はみな兄弟! いちにちいちぜーん!!」と、叫んでいたおじさんでした。
へんてこりんなおじさんだとは思っていましたが、ニホンちゃんはおじさんのことは大好きでした。
しかし、それにしても、お礼とは…

「昨日、お父さんに聞いたの。」 ガーナちゃんは話し始めました。
ササガワおじさんは、アフリカ班のお家の草木が毎年、力なく枯れていってしまい、
みな悲しい思いをしているのを聞きつけると、すぐにアフリカ班の人たちに、
救援物資をとどけるように手配をしたのでした。これだけですと、
単なる金持ちの道楽のようですが、ここからが、このおじさんは違っていました。
「魚を与えるよりも、魚を釣る方法を教えよ」
と言うとおじさんは、アメリー君のターカーさんをはじめ世界中から有志を集めて、ガーナちゃんのところに、
草木の育て方を教えてあげるために行ったのでした。このとき、おじさんはもう85歳でした。
この「緑の革命」と呼ばれる企画は大変な成功に終わり、ガーナちゃんの家の草木は
枯れることなどなくなりました。このうわさは瞬く間に、班の間にも知れ渡り、
ガーナちゃんちだけでなく、他のアフリカ班のお家にもこの革命は広まりました。
エチオピア君の家は、12年前には200万本もの草木が枯れてしまうようなところでしたが、
この革命を2年前からしてみたら、今では他の家の助けがなくても草木が枯れないようになったといいます。
「ミスター・ササガワ、メダーセ・アイ」
「え? 今、何て言ったの?」
「ササガワさん、ありがとうって言ったの。それにしても、『世界は一家、人類はみな兄弟』。いい言葉ね。
ニホンちゃんは立派なおじさんがいてうらやましいわ。」
ニホンちゃんは、ちょっと照れくさそうです。

横で聞いていたカンコ君は当然おもしろくありません。
「そんなことをしても駄目ニダ。そんなことよりもウリナラへの謝罪と賠償を(以下略)」
といつものように、わめき散らそうと思ったそのとき、
「ミスター、コウ、メダーセ・アイ」
ガーナちゃんが、カンコ君の方を向いてこう言いました。
「え?」 カンコ君は戸惑いました。
「カンコ君のおじさんにもお礼を言いたいの。コウおじさん、ありがとうって伝えてくれる。」
ガーナちゃんは、カンコ君に話し始めました。
この緑の革命では、カンコ君のうちのコウおじさんが、ガーナちゃんちでは中心になって働きました。
コウおじさんは、ガーナちゃんちの草木の一本一本に粘り強く肥料を与えて、水をあげて育ててくれました。
あるとき、コウおじさんはみんなの前でこう言いました。
「われわれはサンタクロースではない。皆さんに物を与えるためにやってきたのではない。
与えるだけの援助が、結果的に失敗した実例をこれまでわれわれはたくさん見てきている。
われわれがしようとしているのは、そんなことではない。
皆さんと一緒に働き、一緒に汗を流すこと。そしてやがて皆さんの力でこの国を自立させる。
その手助けをするこ とが、最大の援助・協力なのです。」
コウおじさんは、ササガワおじさんと同じ考え方をもって一生懸命してくれた。
コウおじさんがいなかったら、私は今ここにいないかもしれない。
「ミスター、コウ、メダーセ・アイ」 もう一度、ガーナちゃんは言いました。
カンコ君は、こんなこと今まで言われたことがなかったので、なんて言っていいのかわかりません。
「ケンチャナヨー、ケンチャナヨー! そんなこと気にすることないニダ。
ウリは世界で一番優秀な民族ニダ。 謝罪と賠償を、 じゃないニダ、お礼には及ばないニダ。
困ったときはお互い様ニダ。何でも困ったことがあったら言ってくれニダ。
なんでも力になれることがあったら、駆けつけるニダ。ウリナラマンセー!」
カンコ君の顔はいつものようにキムチ色に真っ赤になって早口で叫んでいました。
しかし、それはいつもニホンちゃんに向かってわめいているときのカンコ君ではありませんでした。

「『世界は一家、人類はみな兄弟』。いい言葉ね。」
ニホンちゃんは、つぶやきました。ニホンちゃんは、
「今日は晩御飯のときに、お父さんお母さんとこの話をしようっと。」
と決めたのでした。

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