戻る
<<戻る
|
進む>>
第1313話
黒瓶 ◆L3dPScc3M2
投稿日: 02/12/02 19:19 ID:Omza57ML
まんぎょん便
「にゃーにゃー」
ある日の午後のこと。ニホンちゃんは庭で遊ぶ猫たちを優しく見守っています。
その猫は、この間キッチョム君家から連れて帰ってきた猫たちです。
最初は、久しぶりの我が家に少しおどおどしていたものの、今ではすっかり
元通りに元気に遊んでいます。
ここ数日、キッチョム君は
『この猫たちはまた家に戻す約束だったニダ!日本は約束を守るニダっ!!』
などとわめいていますが
(約束ぅ?・・・どの口がそんなこと言えるのよ)
とニホンちゃんは無視しています。
サヨックおじさんやシャミンちゃん、アサヒちゃんなんかも、キッチョム君の
主張そのままに小言をいってきますが、こちらに関しても完全無視です。
そんな毅然としたニホンちゃんの態度に、日之本家はじめ、他人事ではない
カンコ君やアメリー君たちも驚いているようです。
それほど、ニホンちゃんにとってショックな出来事だったのでしょう。
と、ニホンちゃんの気持ちを察したのか、一匹の猫がニホンちゃんの足に
すりよってきます。ニホンちゃんを励ましているかのようです。
「・・・・・・」
胸がつまるニホンちゃん。
この猫たちには、キッチョム君家に残された家族がいるのです。
最近では、サヨックおじさんの差し金か、その家族の鳴き声を録音して、
ニホンちゃん家にいる猫たちに聞かせるという嫌がらせがありました。
そんなことがあっても猫たちは何の変わりもなく、穏やかに過ごしています。
「・・・あなたたちだってがんばってるんだもんね・・・」
ニホンちゃんが猫にそっと手を差しのべると、ふわりと膝の上に飛び乗り、
安心しきった様子で丸まって目をつぶります。
ちょっと前までは、抱き上げても体を硬直させて、震えていた猫たち・・・・・・
あっちで何があったんだろう・・・どんな気持ちで過ごしたんだろう・・・
ニホンちゃんは、キッチョム君家で飼われている猫たちを思い浮かべました。
あれ以来、ニホンちゃんはキッチョム君が飼っている他の猫が気になって、
自分で調べているのです。
キッチョム君家を訪れたことのある、ゲルマッハ君家の獣医さんからも話を
聞いたりしました。
その状況は、驚くほど悲惨なものでした。
がりがりにやせ細った子猫たち。病気やケガをしても治療できない環境。
だけど、ニホンちゃんが一番許せないと思ったこと。
それは、キッチョム君のお気に入りの、何匹かの猫たちだけは物凄く贅沢に
飼われていることでした。
ニホンちゃんは、今まで感じたことのない怒りを覚えていました。
その感情の激しさに自分でも驚いたほどです・・・
ふと、車のエンジン音が聞こえてきました。
その車はニホンちゃんの家の前に停まったようです。
すると、それまでのどかに遊んでいた猫たちが一斉に音の方向を見ます。
膝の上の猫も飛び降りて「ふーーっ!」と車の方に威嚇します。
(???・・・・・・・・・もしかしてっ・・・)
ニホンちゃんは立ち上がると、車の音がする裏門の方へ走っていきます。
裏門の前には、宅急便と思われる車が停まっていました。
「・・・やっぱり」
車体には、”まんぎょん便”と書かれていました。
日之本家とキッチョム君家は、表向き交流はないことになっています。
しかし唯一、このまんぎょん便が両家を往復して、猫や食べ物などいろいろな
ものを運んでいるのです。
実は、ニホンちゃんもこの宅急便のことはつい最近まで知らなかったのです。
荷台からはキッチョム君家から帰ってきた猫たちが降ろされていました。
わけあって何匹かキッチョム君の猫を日之本家で飼っているのですが、
その猫たちがときどきキッチョム君家に里帰りしているのです。
降りてくる猫たちはふっくらとしていて、毛並みもつややかです。
子猫たちもにゃあにゃあと元気にはしゃいでいます。
思わず写真で見たやせ細った猫たちを思い浮かべるニホンちゃん。
そのギャップに何とも言えないやり切れなさを覚えます。
つづいて日之本家からたくさんの食べ物が運びこまれます。
このほとんどがあのやせ細った猫たちの口に届かないなんてことは、さすがに
ニホンちゃんでも予想できます。
だけどただ見守ることしかできません。どうしていいのかわからないのです。
ウヨ君なら即座に止めに入るでしょうが・・・
次に里帰りする猫たちが積みこまれます。ニホンちゃんが世話をしているので
みんな元気な猫ばかりです。
ニホンちゃんはその猫たちが嬉しそうに鳴いてるのを不思議に思います。
あっちはあんなにやせ細るほど食べ物がないはずなのに。
燃料だって重い油がなくて、暖房をつけられないはずなのに。
苦しんでいる他の猫たちを見てあの子たちはどう思ってるのだろう・・・・・・
全てを積み終えた車は、何事もなかったように去っていきました・・・
「ちょっと待ったあああっ!!」
と、ニホンちゃんを横を走り抜け、車を追いかけようとする人がいます。
「・・・・・・・・・く、・・・遅かったか・・・」
あきらめて、肩で息をしながら戻ってくるのは、シンタローおじさんです。
「シンタローおじさん・・・」
「ニホンちゃん、さっきの車の積み荷見てたかい?」
「え?あの、ぼーっとしてて、あまり・・・」
「そうか・・・・・・」
「・・・どうかしたんですか?」
「いや、家の非常用の米をみんなに無断であれにのっけた奴がいるんだよ」
「えっ!?」
「まったく援助っていえばなんでも許されると思ってんのかね・・・」
「そ、それってうちの人がしたんですか?」
「そおだよ。日之本家の人間としてあるまじき行為だね」
「まさか・・・サヨックおじさん・・・?」
「それはわからんけどね。まあ関わってるのは間違いないだろう」
「そ、そんな・・・・・・・・・」
「・・・ニホンちゃんもそろそろ知っといたほうがいいだろう。ちょっと前に
援助ってことでたくさんの米をあれでキッチョムに送ったことがあったろ?」
「・・・は、はい・・・」
「あの米をお金にかえて一部を自分の懐にいれた奴だっているんだ。もちろん
日之本家の人間さ」
「え?だってあれは猫たちへの・・・・・・」
「喰いもんよりお金が欲しいんだよ。キッチョムは。それだけじゃない。
うちにある本物のお金だって、あれに積んで秘密に運んでたんだから」
「そんな・・・どうして・・・」
「花火だよ」
「・・・・・・・・・」ニホンちゃん、動揺を押さえつけられません。
シンタローおじさんはニホンちゃんの肩を抱くと
「・・・ニホンちゃん、君がしっかりしないと。なっ!」
そう言って、足早に去っていきました。
「ちょっ!・・・ったく、せわしないなあ・・・まあ最近忙しいのはわかるけど・・・」
ウヨ君です。シンタローおじさんと一緒に駆けつけいたのですが、さすがに会話に
入りそびれていたようです。
「武士・・・・・・武士は、知ってたの?」
「さっきの話?・・・ああ、まあ大体はね」
「私、知らなかった・・・ううん、知ってても、きっと止められなかった・・・・・・」
「・・・まんぎょん便のこと?」
「・・・うん」
「・・・・・・・・・姉さんは止められないよ。姉さんはそれでいいと思う」
「え・・・どうして?」
「え?・・・いや、それは・・・・・・何かあったら、おれが姉さんを守るから」
「・・・・・・・・・」
きょとんとするニホンちゃん。・・・そしてくすっと笑って
「・・・答えになってないじゃない」
「そ、そうかな・・・」思わず顔を赤くするウヨ君。
「にゃーーっ」
と、振り返ると、そこには猫たちがニホンちゃんを物欲しげに見上げています。
「ああっ!そうだ。ごはんの時間だね。おいで、今用意するから」
パタパタと走り去るニホンちゃん。その後をわらわらとついていく猫たち。
それを後ろから見守るウヨ君。
(・・・・・・・・・きっと、守ってみせる・・・・・・・・・)
決意を新たにするウヨ君でした。
糸冬
解説
黒瓶 ◆L3dPScc3M2
投稿日: 02/12/02 19:26 ID:Omza57ML
こないだの万景峰号入港一連です。
シンタローおじさんは神ですなあ・・・
拉致猫に関しては失礼かと思い、特に名前や個性はつけませんでした。
最後は、今回の報道で一般の人たちも多少国防に興味もったかな、と思いまして。
暗くてすいません・・・
わしも今度総督府でギャグかこーっと
この作品の評価
結果
その他の結果
選択して下さい
(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
コメント: