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第1322話 ab-pro 投稿日: 02/12/09 23:00 ID:/LKMkjLW
 アラブ町の緊張を余所に、一見平穏そうな雰囲気が漂う
アジア町。
 しかし、そんな平和の陰で、実は剣呑な事件は今日も起
こっているのです。
 ただし、今日のお話はチュウゴ君やキッチョム君は関係
ありません。
 本日の悪役は、そう、往年のキング・オブ・ヒールのお
話なのです。

 冬になるとどこの小学校でも行われる体育の授業が、持
久走です。今日も6時間目の授業で持久走が行われたこと
から、奴は犯罪を思いたったのです。
 「ウシシシ、持久走で汗をかいたニホンちゃんなら、間
違いなく家に帰ってすぐにお風呂に入るに違いない。
 盗撮にはうってつけのチャンスだな。
 ウッラー!!」
 学校が終わると、全速力で家に帰ったロシアノビッチ君。
威勢良く雄叫びをあげると、急いで犬小屋に向かいました。
 実は地球町でも公然の秘密なのですが、ロシアノビッチ
君は地球町でも1、2を争う盗撮の達人なのです!
 ロシアノビッチ家の家計が苦しくなってから、なかなか
新しい盗撮機材が買えないのが悩みの種ですが、以前から
取りそろえていた盗撮機材でも、十分に活用出来るのです。
 「さあ、クート号、出番だ!」
 邪な情熱に突き動かされるロシアノビッチ君が、彼の家
の犬小屋から引き出したのは、えらく歳のいった大型犬・
クートでした。
 もうかなりの高齢犬なのですが、年の功で、何と自分で
写真のシャッターを切ったり、録音機のスイッチを押せる
天才犬なのです。
 「クート、分かっているな!
 今日は絶対にニホンちゃんのムフフな写真を撮ってくる
んだぞ!」
 ギラギラしたご主人の眼差しに、クートは煩わしそうに
頭を垂れると、首輪に付けた小型・高性能カメラを一別し
て、ゆっくりと犬小屋を出て行くのでした。
 まさに、ニホンちゃんの貞操の最大の危機です!

 一方、ちょうどその時、ウヨ君の部屋の防犯装置がけた
たましく警報音を鳴らしていました。
 「賊か!何が起こった?」
 低学年ゆえ、早めに帰ってきていたウヨ君は、慌てて家
の防犯装置を確認します。
 アジア町随一の防犯グッズマニアのニホンパパの取りそ
ろえた防犯機器は、クート号がノシアノビッチ君の家を出
た時点で、早くもその存在を捕らえていたのです。
 ・・何と言ってもロシアノビッチ君の盗撮好きは地球町
の公然の秘密。当然日之本家もロシアノビッチ君の手口に
はうすうす気づいているのでした。
 「ロシアノビッチの野郎、先月と同じく姉さんを盗撮す
るきだな!」
 一瞬にしてクート号の目的を悟るウヨ君。彼の言葉にあ
るように、かなり以前からクール号を使って、何度も日之
本家の盗撮を試みている過去があるだけに、ロシアノビッ
チ君の目的はあっさりと推察出来ます。
 「・・しかし、毎度ながら厄介だな。相手が犬だし・・」
 そう言って、ちょっと考え込むウヨ君。
 盗撮は立派な犯罪なのですが、しかし、ロシアノビッチ
家の飼い犬が日之本家の前の道を彷徨いていたからといっ
て、その犬をどうこうする事は出来ません。
 何と言っても、道は天下の公道なのですから。
 「姉さんはついさっき帰ってきてお風呂に入ったばっか
りだし、ここはいつも通りイーグル号の働きに期待するか」
 そうです。日之本家の番犬、イーグル号は地球町でも1
・2を争う最高の番犬なのです。
 早速、日之本家の犬小屋に駆け込んだウヨ君は、イーグ
ルの頭を優しくなでながら、イーグルの首輪を解き放ちま
す。
 「頼むぞ、イーグル。先月と同じようにクートを風呂場
の近くに近づけるんじゃないぞ!」
 ウヨ君の声に、イーグルは元気よく一吠えすると、持ち
前の俊足で犬小屋から駆けだしていきました。
 結局、のそのそと道を歩いて来たクートが、ご主人の意
に添えるように、何度も立ち寄った絶好の盗撮ポイントに
さしかかると、すでにそこにはイーグルが鋭い威嚇の唸り
をあげながら待ちかまえていたのです。
 それでも老練なクートは、暫く何気なくそこらをウロウ
ロしながらイーグルの隙を見つけようとするのですが、イ
ーグルは懸命に自分の体をクートの前に回り込ませて、な
かなかシャッターチャンスを掴ませません。
 そんな静かな攻防が続いた後、お腹でもすいたのかクー
トは「バウ」と一鳴きすると、ゆっくりとロシアノビッチ
家の方へ帰り始めたのです。
 今日もイーグル号は自分の使命を果たしたのです。

 そして、
 「・・まあ、まだまだこれからもチャンスもあるさ!」
 今日も盗撮には失敗したものの、別に怒る風もなくロシ
アノビッチ君はクート号の頭の一撫ですると、大皿に餌を
盛ってクートの前に差し出すのです。
 ロシアノビッチ君、全く懲りた様子はありませんね。
 ・・クートは、そのロシアノビッチ君を軽く一瞥をくれ
ると、クートは「バウ」と一鳴きして、与えられた餌をが
っつくのでした。





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