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第1619話
匿名
投稿日: 03/08/14 17:35 ID:SCw2JGJ5
「決して分かり合えない街」 ※この話に特に時事的な元ネタはありません。
一人の旅人がいました。オートバイを運転して国から国、都市から都市へ旅を続けています。
ある時のことです。旅人は、ある国にあるある都市を訪れました。
そこは、一様が同じ環境でなく、砂地やジャングルや草原や山や湖や川など、すべての自然がある不思議な町でした。
旅の必需品を調達したあと、旅人は特にすることもなく、急ぐこともないのでしばらく観光がてらに都市の中をブラブラすることにしました。
「兄者!私の小遣い上げさせろ、小遣い!一つ屋根の下に住む同じ兄妹なのに、何で私のほうが低いんだ!不公平極まりないぞ!」
放牧地が広がる町で、金髪碧眼の女の子が声を張り上げていました。
「アーリア!ウチだってな!不況の影響で厳しい経済状況なんだよ!仕方ないだろ!」
「うっうっうっ・・・うわぁぁん!兄者のばかぁ!ストライキしてやるぅ!」
女の子が泣きながらその場を飛び出していってしまいました。
「お前が俺たちの家を乗っ取ったことはれっきとした略奪だ!神を冒とくする異教徒め!!」
「もともとこの家は私の先祖のものでしょ!その先祖の末裔である私がここに住んでどこが悪い!」
「二千年以上前の話だろ!こいつ!思い知らせてやる!アッラーは偉大なり!でや!!」
「きゃっ!やったわね!この!報復報復!」
砂地の町で男の子と女の子がけんかをしていました。
「なあ、ペルシャちゃん。イラクの奴は俺がもうコテンパンに叩きのめしたんだ。俺に逆らったらどうなるかわかっただろ?」
「ふん!!アメリーなんて大っ嫌い!大悪魔め!悪いことばかりしてると天罰が下るぞ!」
別の男の子と女の子もけんかをしていました。そこではたえず罵声が聞こえ、いつ何が起こってもおかしくない状態でした。
無駄な争いに巻き込まれる恐れがあったので、旅人はいそいそと別の町に向かいました。
「タイワン、おまえワタシのものアル。ワタシどんな手使ってでもおまえを中華アパートに連れてくアル!」
「いーだ!あんなとこ絶対嫌!こっちにはアメリー君がついてるんだからね!」
水田が広がる町で、またしても男の子と女の子がけんかをしていました。
この都市では、どこへ行っても誰かと誰かがけんかをしています。旅人は、この都市に居心地の悪さを感じずにはいられませんでした。
「あ、旅人さん、こんにちは。」
黒髪の優しそうな少女が明るい笑顔で旅人に挨拶してきました。
今まであった都市の住民はけんかばかりしていたので、旅人は都市の住民にとげとげしい印象を持っていました。
ですから、このような少女がこの都市にいることがとても意外でした。
「こんにちわ。」
「一体どこに向かってらっしゃるのですか?」
「いえ、特に。ただブラブラしているだけです。」
「そうですか。よかったら私の家でお茶でもいかがですか?」
「よろしいのですか?ではお言葉に甘えさせていただきます。」
旅人は少女に着いていきました。
「あ、ニホンアルか。釘をさすようだが、お前ん家の池の底に沈んでる棚ん中調べるんじゃないぞ。ワタシが調べてやるアル。」
さっきけんかをしていた少年が現れ、少女に話しかけました。
「う、うん。ジミンパパからもチューゴ君を刺激するからやめなさいって・・・」
「そうそう。それでいいアル。棚の中の宝物はワタシのものアル。」
少年は満足した様子で去っていきました。
「ニホン!ウリに宿題写させるニダ!」
目が細い少年が現れました。
「う、うん。私、まだ宿題終わってないから。終わるまでもう少し待って。」
「パリパリパリパリ(早く早く早く早く)!早くしる!まったくこれだからチョッパリは・・・」
目が細い少年はぶつくさ言って去っていきました。
「ニホン!早く小遣いよこすニダ!ウリを飢え死にさせる気か!?」
「ニホンちゃん、イラクの件だが、早く助けに来てよ。僕一人じゃもう限界だ。これは国際貢献だよ、わかる?国際貢献。」
その後も、少年たちとすれ違うたびに少女は理不尽な要求を突きつけられ、唯々諾々と従っていました。
もし少女がこの都市の典型的な住民なら、間違いなく大喧嘩になっていたでしょう。
ところが、少女は文句ひとつ言わないのです。旅人にはそれが不思議でなりませんでした。
しばらく歩いて、黒髪の少女の家に到着しました。少女とその家族たちは純粋に旅人を客人として歓迎してくれました。
旅人は旅の話をし、少女とその家族との談話を楽しみました。
そして、是非聞いてみたいことを尋ねてみました。
「この都市ではどこへ行っても必ずといっていいほど争いがありますね。どうしてなのでしょうか?」
すると、旅人の話を速記していたメガネの女の子が目を輝かせてしゃべり始めました。
「そうです。この都市の人間は嘆かわしいことに何百年も昔から醜い争いを続けていたのです。
なぜなら、みんなが家と家との間に境界線を引き、暴力の技術の向上に努めていたからです。
でも実はみんなは心の中でそれが悪いことだってわかっているのです。いつだって誰だって平和を望んでいるのです。
そこで、我が日之本家は世界に先駆けて、誰にも暴力を振るわず、武器をまったく持たない約束事を作ったのです!
このすばらしい約束事のおかげで、わが日之本家は暴力に巻き込まれることなく、お金儲けだけに集中でき、とても豊かになったのです!」
「それは違うぞアサヒ。今までは都市で一番けんかが強いアメリーを用心棒にしていたからたまたま暴力に巻き込まれなかっただけだ。それに、自ら暴力を捨てる約束を作ったことも他の家にとって何の模範にもならなかったじゃないか。
おまけに、それがかえってお隣に弱みをつけ込ませる結果となった。キッチョムの件でもうわかりきっているだろう?
つまり百害あって一利なしの愚策に過ぎなかったんだ。なのに、そんな偽善をいつまで続ける気だ。」
黒い詰めえりを着た少年が口を挟みました。
「な、何ですってぇ!?軍国主義者!帝国主義者!歴史修正主義者!軍靴の音が聞こえるわ!
聞いていて虫唾がはしる!私を誰だと思っている!私の主張は天の声である人語なのよ!それに向かって貴様は!」
メガネの女の子は、さっきまで平和と非暴力の美しい理想を語っていたとは思えないほどひどい悪口を言い始めました。
詰めえりの少年も一歩も引かず、論戦を展開します。旅人は、日之本家の人間は他の住民と違ってまともで優しい人たちだと思っていましたが、結局は彼も彼女もこの都市の住民に過ぎなかったのです。
メガネの少女は結局詰めえりの少年の主張を論破できず、反論になっていない非論理的な反論をして話をうやむやのままどこかへ行ってしまいました。
「まったくアサヒには困ったものだ・・・」
詰めえりの少年が旅人に言いました。
「彼女のせいで僕の姉さんがどんなにいじめられるようになったことか・・・
姉さんがお人好しなのをいいことに、彼女が非暴力の約束を守らせ、散々奇麗事を吹き込んだんですよ。
悪いことをしたら誠意を持っていさぎよく謝罪し、賠償して清算すれば誰とでも心を通い合わせられると信じ込ませたんです。」
更に少年は続けます。
「でも、相手の方はというと、どんなことがあっても他人と心を通い合わせる気がなかったんです。
それどころか姉さんが奇麗事に汚染されているのをいいことに、それに付け込んでお小遣いをかつ上げしたり、勝手に宿題を写したり、イジメを行ったりとやりたい放題なんです。
アサヒは人間として、そのことについての責任を取るべきでしょう?しかし彼女は逃げ続けている。」
旅人は、さっき少女がろくな反論ひとつせず要求に従っていた理由がわかりました。少年はため息をつき、更に話を続けた。
「そんな姉さんを見て、僕は悟りました。
もともと他人を理解して友好に努めようなんていうことはこの都市では不可能だったんです。
人間関係のすべてが政治的な利害によって決まり、奇麗事が入り込む余地なんてない。
一般的な個人と個人の感覚でこの都市の人間と付き合うことはできないのです。
そう、まるで組織と組織、国と国がお互いを分かり合えないように、この都市の住民はお互いを分かり合うことが出来ない。
ここは決して分かり合えない街なのです。」
P.S.
カンコ君、双眼鏡でアサヒとウヨのけんかを監察。
カンコ 「ウェー、ハッハッハ!ニホン家のやつら、同じ屋根の下に住んでいる人間同士で争ってるニダ!
ニホン家はやっぱり野蛮だなぁ。
どれどれ、アボジと話でもして我がカンコ家がどれほどお互いを信用しあっているか確認し、自己満足にでも浸るとするか。」
ピッポッペッポッパ、プルルルル、プルルルルル
カンコパパ 「はい、カンコアボジニダ。」
カンコ 「あ、アボジ?ウリウリ、ウリニダウリ。」
カンコパパ 「はん!どこの輩だか知らんが、人の息子を勝手にかたるな!ウリウリ詐欺なんてうちは引っかからないからな!」
ガチャ、ツーツーツー
カンコ 「・・・」
カンコ 「アイゴー!」
解説
匿名
投稿日: 03/08/14 17:42 ID:SCw2JGJ5
(あとがき)
私は最近『キノの旅』という、オートバイに乗った旅人が一話ごとにさまざまな不思議な国(「他人の痛みがわかる国」、「嘘つきの国」とかそんな感じ)を旅する小説にはまっているんです。
その小説の世界にニホンちゃんの国(実際は国ではなく、地球市なので、便宜上都市に置き換えた)が出てきたらどうなるかと勝手に妄想。長くなったし、笑える話じゃなくなった。つまんなかったらごめんなさい。
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(*^ー゜)b Good Job!!
(^_^) 並
( -_-) がんばりましょう
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