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第1646話 有閑工房1 投稿日: 03/09/08 21:27 ID:g3Bryfxd
『釣りに行こう!前編』

「こんど皆で釣りに行くアル!そんでもってアジア班の親睦を深めるアル!」
いつになく営業口調でチュウゴ君が言い放ちました。ここのところ半島兄弟
のごたごたで(いつものことではありますが)ギクシャクしているアジア班。
リーダーの自覚あふれるチュウゴ君はこれではいけないと一念発起し、皆で
釣りを通じて親睦を深めることを思いつきました。
 勿論誰も利益の無い気苦労な提案をするチュウゴ君を、言葉どおりの善意
の人と受け止めはしません。しかし、誰にも万事都合がいいのでそのまんま
任せることにしました。
汗まみれになって敷地内の池の手入れや道具の準備をし、参加呼びかけに精
力的に動き回るチュウゴ君。どうやら幹事役が結構好きなようです。
キッチョム君、カンコ君には体を張ったコミュニケーションで参加を取りつ
け――とはいえキッチョム君は、後先考えずにわがまま放題言い散らかしま
したが。――、渋るアメリー君にも頭を下げて参加を約束させました。ロシ
アノビッチ君は、
「えー?オレ関係ねえジャンか。」
 などと酔いたんぼうの赤ら顔で嫌がられましたが、『お隣さんアルから。』
ということでこれまた参加に成功しました。
『まあこんだけやってやればあのヒッキーも大人しく話を聞くアルな。…途
中で席立ったら、お仕置きどころの話じゃ済まさないアルしな…フフフ。』
疲れはしましたが、思い通りに事が運んだ充実感と共にチュウゴ君は家に帰
りました。しかし…
「あ、お帰りなさーい。」
家の中に居る筈のない声を聞いてチュウゴ君呆気にとられます。
「ニホン、ここで何してるアル?」
「え?何って遊びに来たんだよ。」
「もう夕方アルぞ!時間を考えないなんて失礼アル!大体約束もしないで来
ること自体がおかしいアルぞ!」
「えー?今日学校でちゃんとチュウゴ君にお願いしたよ?」
しれっと答えるニホンちゃん。いつもの叱られた子犬のような態度とは違っ
ています。おまけに白装束に鉢巻姿では、遊びに来た訳がありません。しか
も鉢巻には『ヨリコ 跳ぶ!』なんて事が書かれています。
学校での事を思い返すチュウゴ君。確かにニホンちゃんとそういう約束はし
たかもしれませんが、ハッキリ言って覚えていません。何せ数日後になった
釣大会のことで頭が一杯でしたから。
疲れていた上面倒くさくなったチュウゴ君、単刀直入に切り出します。
「で、何の用アルか?どうせ遊びに来た訳じゃないアルな?」
「うん、実はね……」
待ってましたとばかりに説明を始めるニホンちゃん。それからチュウゴ君は
2時間8分に渡ってニホンちゃんから今度の釣大会に参加したい参加したい
参加したいと延々言われ続け、燃え尽きて真っ白になったところで遂に折れ
てしまいました。実はチュウゴ君、キッチョム君がニホンちゃんの参加は絶
対嫌だと言い張った為に『ニホンは参加させないアル。』と約束していたの
でした。
「判ったアル判ったアル…ニホンの席も用意するあるから今日はもう帰って
欲しいアル…」
ごねるキッチョム君を思うと暗澹たる気分のチュウゴ君、珍しく本気の懇願
です。
「ありがとー!やっぱりチュウゴ君はアジア班の頼れるリーダーだねっ!」
「お世辞はいいアルから早く……」
「それでねっ!釣のときにキッチョム君ちにいるうちの子猫ちゃんたちのお
話していい?いい?ねえいい?」
「それは今回と関係ないアル。その話はまた明日にでも…」
ニホンちゃん止まりません。更にそれから1時間以上もの間、チュウゴ君は
1.5秒に1回の割合で『ネコ』か『子猫』の単語を聞かされ、もうどうでも良
くなってニホンちゃんの言うがままになってしまいました。
『おかしいアル、幹事ってこんなに大変だったアルか?太平洋池の親睦会の
ときはこんなこと無かった筈アル……大体ネコなんてペットじゃなくて食べ
物アル、なんであんなにこだわるかわからんアル…』
哀れチュウゴ君。合掌…

「それでねえ、チュウゴ君!」
「アイヤァァーーーー!もう勘弁してくれアル!」
ニホンにはしのごの言わずしばらく大人しくしよう。そう心に誓うチュウゴ
君でした。
     *
さて、当日。肌の色艶の良いニホンちゃんと、土気色の肌の肥満児キッチョ
ム君。そして『ネコ』と聞いただけで黙り込んでしまうほど憔悴しきった4人
とで楽しい釣大会が始まりました。
アメリー君持参の釣道具をおもむろに取り出し、解り易く用意してあったチ
ュウゴ君謹製の釣道具には目もくれません。ロシアノビッチ君は一度池に投
げ込むと、さっさと竿を固定してしまい、ウォッカを煽って昼寝を始めます。
どうやら何も期待していない様子。
我等が半島電波兄弟はと言いますと、これまた竿には目もくれず底引き網の
設置を始めるカンコ君と、釣そっちのけでアメリー君相手に友達になろうと
必死こいて叫んでいるキッチョム君…アメリー君は無視を決め込んでいます。
あ、耳栓してますね。
そうでなくても今日に至るまで脳内補完てんこもりの毒電波を参加者に対し
てばら撒いていたキッチョム君。返ってくる返事は、
「煩いなあ…それより猫返してっ!」
「昼寝の邪魔だ!黙ってろ。」
「YES!YES!……Oh!No! Jesus Crist!」(←全然聞いてないと思われます。)
といったものでした…。
『くっ…予想していたとは言え何アルかこの纏まりの無さは…アメリーはさ
りげに人の好意を無視するし、ロシアノビッチはフテ寝してるし、カンコは
勘違いしているし、キッチョムは相変わらずだし…ニホンには今関わりあい
たくないし…。ああもうっ!あの勘違い野郎をとっちめて憂さを晴らすアル!』
言うが早いか、チュウゴ君、カンコ君に忍び寄ります。
「カーーーンーーーコーーー!!!」
「ア…アイゴーーーーー!!!!!な、なんだか判らないニダがごめんなさ
いニダーーーー!!」
 さてさて、この後どうなることやら…
『釣りに行こう!後編』

 さて、カンコ君が無意味に東風爆裂拳を食らってしまうアクシデントがありま
したが、会も中盤、昼のお食事会になりました。チュウゴくん心血を注いだメニ
ューとみんなをリラックスさせようと選んだお部屋の調度品、全てが目的は別と
して真心の表れであります。
 しかし、集まった猛者はそんなことお構いなしです。カンコ君は歓談そっちの
けで料理を漁りまくり、あまつ窓辺の飾り物の間に料理を並べまくって食べてい
ます。どうも本題を半万年彼方に忘れてしまったようです。
『こいつの品性は小皇帝にも劣るアル…』
 校舎裏に呼ぶ気も失せて、他の参加者を眺めます。
 ロシアノビッチ君は出された青島ビールに飽き足らず、チュウゴ君がパパから
ディスプレイに借りてきたマオタイ酒に目をつけると、有無を言わせずラッパ飲
みをはじめます。チュウゴ君流石に一瞬青くなりましたが、もう止めても無駄だ
と悟りました。
 アメリー君は全てを無視しつつヘッドホンでCDを聞きながら陽気に部屋を闊歩
しています。その後から抜け目無く料理を食べつつ(しかも持ってきた袋に料理
を流し込みながら)キッチョム君がアメリー君に付き纏っています。
 更にその後から、猫耳のヘアバンドをつけたニホンちゃんが
「♪にゃにゃんにゃにゃにゃんにゃにゃにゃんにゃにゃにゃにゃ♪にゃにゃにゃ…♪」
 と歌いつつ、キッチョム君が隙を見せるたびに執拗に猫返せ猫返せと言ってい
ます。端から親睦なんてありえないとチュウゴ君は思っていましたが、流石にこ
れは想像を絶する様でした。本来聞き役に徹して貧乏くじを引いているニホンち
ゃんがこの状態なのは主催者にとって大誤算です。つまるところその貧乏くじを
引かされるのは…
「朕……アルか?」
はいご名答。
「でも幹事さんはそれなりに甘い汁があるものアル。」
チュウゴ君、それはこの濃ゆい面子をみて考えましょうね。
『あああああああああ、何か納得いかないアル。何で朕ばっかり苦労しているア
ルか?それもこれもニホ…はっ、いかんいかん、朕ともあろうものが我を失って
あの馬鹿と同じになるところだったアル。しかし、ニホンがあれでは落とし所が
難しいアルな…』
 好意を悉く仇で返されるチュウゴ君ですが、そこは東洋一の作り笑顔で無難に
ごまかし、みんなを釣り場に追い払いました。みんなが出て行った後の食事会の
会場を、チュウゴ君が寂しそうな目で眺めたのは秘密です。
   *
「チュウゴ様、ウリに池の魚を恵んでほしいニダ。実はアポジに池の魚を根こそ
ぎ持って帰るって約束したニダ。このとおりウリはチュウゴ様に一生仕えるニダ。
だからウリの願いを聞いてほしいニダ…」
 釣りが始まるなりカンコ君がチュウゴ君の足に取り縋り、言葉に出来ぬ哀れさ
で懇願します。しかし元々半島の二人に対しては虫の居所が悪いチュウゴ君、願
いを聞く訳はありません。
「泣き真似をして天国にいけるのは死人だけアル。カンコがその覚悟があれば願
いを聞いてやるアル。どうアルか?」
 顔はにこやかに、目はゴビ砂漠よりも苛烈にチュウゴ君は聞き返します。それ
で虚勢を張れるほど根性の据わっていないカンコ君はすごすごと引き下がりまし
た。
 チュウゴ君は釣り場を眺め渡しますが、やはりというか釣果は皆芳しくないよ
うです。というか、端から誰も釣れるなんて思ってはいませんし、取り敢えず花
火抱えているヒッキーを皆の前に引きずり出すのが目的みたいなものでしたから、
それはそれで成功と言えなくもない気がします。
『まあこのまま無事に終わってくれればそれでいいアル…』
 溜め息混じりにチュウゴ君は思いました。
 やがて夕方近くになって釣り大会は終わり、チュウゴ君は労いの言葉を皆にか
けて廻ります。
「まあ釣りはいいとしてだなあ、俺また来なきゃいかんのか?」
 飲んで昼寝していただけのロシアノビッチ君ですが、やはり面白くない様子。
「キッチョムに睨みが効くのはロシアノビッチだけアル。いるだけで大切アル。
次もぜひ来て欲しいアル!」
 そこまで言われて少し機嫌を直したロシアノビッチ君、ニホンちゃんを避けて
帰ります。
「……カンコ。」
「な……何ニダかチュウゴ様。」
「小魚はちゃんと池に返すアル。食べもしないのにもって帰るのは許さないアル。」
「わ……わかったニダ。必ずそうするニダ。」
小さくアイゴォと呟きながら、カンコ君は一目散に池にとって返します。
「ようチュウゴ、ごくろーさん。」
「アメリーも良く来てくれたアル。お疲れさんアル。」
「俺もう帰るぞ。あのヒッキーに付きまとわれてかなわん。」
「いいアルいいアル。また次もよろしく頼むアル。」
「えー、次もやるのかよ。」
「そういわずよろしく頼むアル。」
「ちっ、めんどくせえなあ。まあいいけどまたお前んちでやれよ。じゃあな!」
返事も聞かずアメリー君は帰ってしまいました。今、『またチュウゴが幹事やれ』
と言った気がしてチュウゴ君は頬が引きつっていますが、多分そう言いました。
「あ、キッチ…」
「キッチョム君お疲れー!」
キッチョム君にチュウゴ君が声をかけた瞬間、縮地法で近付いてきたニホンちゃ
んが割り込みました。ニホンちゃんさりげにキッチョム君の背中で右腕をねじり
上げています。
「イタタタ!な…何ニダか!今日のニホンはしつこするニダ!そんなんじゃまだ
まだ謝罪と賠(略)」
ニホンちゃん、朗らかに聞き流していますが、全然話を聞いていないのは丸分か
りです。
「それでネ、キッチョム君」
「二……ニダ?」
ずいっとキッチョム君にニホンちゃんは顔を寄せ、口元だけ笑ってキッチョム君
に言い寄ります。
「早く、子猫ちゃん、返して、欲しいんだけど?」
「か……考えておくニダ…」
流石のキッチョム君もあまりのしつこさにとうとう折れてしまいました。
チュウゴ君は話に割り込まれたのは不快でしたが、ちょっぴりキッチョム君に同
情もしています。今回のニホンちゃんはあまりに普段と違いすぎましたから…
キッチョム君からそれだけ聞き出すと日本ちゃんは満足そうに引き下がりました。
そして隣で固まっているチュウゴ君に優しくねぎらいの言葉をかけます。
「チュウゴ君お疲れ様。色々気遣いしてくれてありがとね!」
ニホンちゃんの苦労が一瞬消し飛ぶような微笑で、チュウゴ君はにへらーと笑っ
て手を振ります。―――何か全てを誤魔化されたような気もしましたが―――
『これで…これで良かったアルか?』
単に『終わった』以上の感慨が無いのは気のせいなんでしょうか?再びやってき
たカンコ君が足元にいますが、チュウゴ君は何も見えなかったように家に引き返
してしまいました…。取り残されたカンコ君、一体どうしていいかわかりません。
カンコ君、それじゃいつものよーに
「アイゴォォォーーーーーーーーーーー!!!」
ハイ良く出来ました。

それからお家に帰ったニホンちゃん。家では相変わらずアサヒちゃんやシャミン
ちゃんが電波を飛ばしまくりましたが、どうせ絵に書いた餅程度の価値しかない
ので黙殺する事にしました。子猫奪還大作戦はこれからが大変でしょうが、ニホ
ンちゃん頑張ってくださいね。

おしまい

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