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第1715話
無銘仁 ◆uXEheIeILY
投稿日: 03/11/25 18:37 ID:1LnM3Lmy
「果てしなき闘争 第一章」
地球町に、夏がおとずれた。
校庭には陽炎が立ち、木々にセミが歌う夏がやってきたんだ。
オレたちにとっては噴きだす汗と挌闘しながら、夏休みを待ちわびる毎日だ。
夏休み一週間前の日曜日、オレは町の南にある大きな池のほとりに来た。
この一帯は夏でも気温が全然上がんなくて、町民に不気味がられてる。
その日も肌寒いくらいだったよ。ユーロ地区の子が集まってて、輪の中心で
アメリー君とエリザベスちゃんが手製の地図を掲げて、こう言った。
「これを見てくれ。俺は池の中心に島があるのを見つけた。涼しいから
遊び場にもなるし、探検すれば夏休みの自由研究にもなるだろ」
「先に見つけたのはわたくしです。成金風情が偉そうな口を利くのはその辺に
した方がよろしいのではありませんこと」
少々険悪な空気が漂っている。ふたりの痴話喧嘩にもあきれたもんだ。
「なんだよ、そんな言いかたがあるか。もうやめだ、俺は俺で勝手にやらせて
もらうぜ。お前も好きにしろよ」
アメリー君はそう吐き捨てると地図をほうりだし、場が静まりかえった。
するとエリザベスちゃんもむくれたまま返した。
「もう知りませんわ。あの島は大きな魚がたくさんいて食べ物にも困らないし、
みんなで使おうと思っていましたのに」
オレはとりあえずふたりをなだめた。それより気になったのは島のほうだ。
濃い霧がかかってて何にも見えやしない。その日は、それでお開きになった。
夏休みが始まり十日ほど過ぎた。オレは犬を連れてあの時の池に来ていた。
防寒着の中で頬が上気しているのが、自分でもわかる。血が騒いでるらしい。
オレの先祖は町内でも名の知れた船乗りだ。あちこちの海を荒らし回ったって
いうから、海の男ってよりガラの悪い海賊のようなもんだけどな。
今日はみんなと約束して、あの霧の島を目指す競争をすることになってる。
父さんが職を見つけて家計に余裕が出来たから、準備もばっちりだ。
オレは勝ちたかった。
実は何日前だったかに、町の北にある似たような池で予行演習をしたんだ。
けど、そこでちょいとばかしやらかしちまってね。
アメリー君が最初の丘に登れなくて、オレはそこを上手く越えた。
そこで油断したのかもしれない。立ち往生している間に抜かれて、結局
アメリー君に一番乗りを取られてしまった。オレは地団駄踏んで悔しがった。
このためだけに、何日も準備してきたからさ。
もっとも、しもやけを作ってきたネーデル君や峰から滑落してひざをすりむいた
スウェーデン君に比べれば、オレはまだましな方だったけど。
そんなことがあって、今度は絶対に勝つという決意を固めてきていたんだ。
オレは背中の鞄から地図を出そうとした。
「おはよう、すごい格好だね。――あれ、その犬はどうしたの」
のんびりした声に、張りつめた気が緩む。ベルギー君だった。
後ろにはアメリー君やフランソワーズちゃんもいる。厚着なのは氷点下に
備えるためで、この犬は父さんのだ、とオレは言った。寒さにも強く、冒険には
うってつけの犬だと。すると、そろって慌てたような顔をされた。
そういやあみんなかなり軽装だ。もしかして、それであの島へ行くつもりかな。
「やあ諸君、遅れてすまなかった。家庭内不和に巻き込まれてしまってね」
前回は来なかったゲルマッハ君が、声を張りあげた。他のみんなが迎える。
このところ両親が仲たがいしてたみたいだけど、ようやく落ち着いたんだろうか。
「ところでベスはどうしましたの。自分から言いだしておきながら遅れて来る
なんて、あたくしをおちょくってるのかしら」
「待った。あそこにいるのがそうじゃないのか」
アメリー君が指さしたのは池の少し奥まったところ、島に向かって氷の道が
のびてる場所だ。馬に乗った女の子が、島の方をうかがってる。(つづく)
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