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第1752話
ナナッシィ
投稿日: 04/01/27 21:55 ID:CHgyhSDR
『心に花を 心に棘を』
ひらり。ひらり。
一枚、また一枚、枯葉が虚空に舞い、乾いた景色を哀しく彩る。
既に裸同然の古木に、無情なる季節(とき)の理は運命(さだめ)を冷たく吹きつける。
螺旋を描きながらアスファルトに降りた枯葉が、再び空へと舞い上がった。
力なく、意志も無く、ただ風に弄ばれながら。
その儚き風景を、白い病室の窓から眺める少女が一人。
震える唇でポツリと吐き出すように呟いた。
「あの木に残る葉が全部落ちた時、きっと……私も……」
また、ひらり。
ぽろり。頬を伝い、床に落ちる一粒の雫。
佳人薄命……春を待たずに舞い散る華……其の名は……
「……ペルシャちゃん……一体なにを……?」
「え? ……いやー、一度やってみたかっただけです、はい」
花瓶を抱えたまま立ち尽くすニホンちゃんを振り返りながら、
ペルシャちゃんはちょっとばつが悪そうな照れ笑いをして、頭の後ろをぽりぽり掻きました。
昨年の暮れ、ペルシャちゃんのお家で、大きな陥没事故が発生しました。
運悪くそれに巻き込まれたペルシャちゃんは、足の骨を折る大怪我を負ってしまったのです。
地球総合病院に入院した彼女にクラスメイト達が入れ替わり立ち替わりお見舞いに訪れていました。
今日はニホンちゃんが姿を見せています。
「もう……怪我した人は安静にしてなきゃだめなんだよ?」
「ほーい」
サイドテーブルに花を生けた花瓶を置くと、ニホンちゃんは慣れない松葉杖に悪戦苦闘する
ペルシャちゃんの体を優しく支えながら、窓際からベッドの上へと導きました。
そして、ペルシャちゃんのお腹に毛布をかけてあげ、ベッド横の丸椅子に座ると、
自分で持参したお見舞いの中から林檎を一つ手に取り、果物ナイフでその皮を剥き始めました。
ニホンちゃんの手の中で林檎がくるくる回り、切れ端がその膝上に置かれたお皿に伸びてゆきます。
しゃり、しゃり、しゃり、しゃり……
「そういえばさー……」
「んー?」
「さっきニホンちゃんがいない間にカンコが来てたんだけど……」
「へぇ、そうなの?」
「うん。でもさぁ、あいつそこに置いてあった、ニホンちゃんが持ってきたお花を見たら
『あいごー、うりがもってきたのよりたかいやつにだー、にほんのくせになまいきにだー、
もっとたかいのかってくるにだー、ふぁびょーん』とか言って泣きながら帰っちゃったんだよ」
「……ふーん……」
「何しに来たんだろねぇ?」
「何しに来たのかなぁ?」
しゃり、しゃり、しゃり、しゃり……
「ところでさー……」
「んー?」
「この前、エジプトの奴が来たんだけど……」
「へぇ、そうなの?」
「うん。それでさあ、そろそろ正式に仲直りしようってさ。アタシが退院した頃、お父さん連れて
家に来るらしいんだ。アタシ達は別にいいんだけどさ、やっぱ親同士はいろいろあるみたい」
「……ふーん……」
「大人は大変だね」
「大変だね……」
しゃり、しゃり、しゃり、しゃり……
「親って言えばさー……」
「んー?」
「家で家族会議してた時の事なんだけど……」
「へぇ、そうなの?」
「……ねぇ、ニホンちゃん……」
「……ふーん……え?」
「人の話ちゃんと聞いてる?」
「あ……ごめん、ちょっと、考え事してて……それで?」
「……でね、パパ達ったら『子供は意見しなくていい』とか言って、アタシを摘み出そうとしたんだ。
だからアタシも意地になってパパの悪口言いながら机にしがみ付いてたんだけどさ、そしたら……」
「そしたら?」
「お尻ひっぱたかれてしまいますた」
「あははっ、相変わらず厳しいお父さんだね」
「もう笑い事じゃないよ〜、パパったら頭固すぎ〜」
「うん……そうだね……」
しゃり、しゃり、しゃり、しゃり……
「……ニホンちゃんさー……」
「んー?」
「……今度イラクんちに行くんだって?」
ぽとり。
ニホンちゃんの手が止まると同時に、それまでするすると伸びていた林檎の皮が途中で切れ、
膝上のお皿に微かな音を立てて落ちました。
ニホンちゃんは、ペルシャちゃんが注意していなければ聞き取れないほどの小さな声、
見逃すほどの僅かな頷きで返事をしましたが、すぐに黙りこくってしまいます。
何事か思いつめた様子で、半ばまで裸になった林檎をじっと見つめていますが、
その視線が、林檎に向けられたのではない事は、その緊張に強張った表情から明らかでした。
イラク君ちでは、彼の小父さんが飼っていた番犬が野犬化した上、他の家からも凶暴な野良犬を
集めてしまい、彼の家に来る人だけでなく、彼や彼の家族にも見境なく襲い掛かっているのです。
先日様子見に行っていたニホンちゃんも服を噛み千切られ、泣きながら逃げ帰った事がありました。
なんとなく気まずい雰囲気が漂い始めた所、ペルシャちゃんが
「てやっ」
「あ」
不意にニホンちゃんの手から林檎を抜き取ると、呆気に取られるニホンちゃんの目の前で齧りつき、
咀嚼し、それをごくりと飲み込むと、にいっと底抜けに明るい笑顔を見せました。
「でゃいじょーび! なんとかなるっちゅーの」
「え……でも……家の人も危ないからって……」
「そんなの無視! 自分で考えて自分で決めて、それで自分で責任取るのなら、
誰に文句言われても堂々と胸張ってりゃいいの! ほらほら、こーんな感じこーんな感じ」
と言って、ペルシャちゃんは大きく体を反らすと、年齢のわりには大きな、ニホンちゃんと比べると
大分豊満な胸を左手でパンパンと叩きました。
「ぷっ……そ、そうかな?」
その少し芝居がかった仕草に、暗かったニホンちゃんの表情にも笑顔の灯火がちらりと灯ります。
「そっ。身を守る準備もしてるんでしょ? オランダも警護を買って出てくれたらしいじゃん?
それじゃあ、腹決めてがんがるしかないっしょ。それに、イラクだって守ってくれるって」
「うん……え? でも、イラク君、自分のことだけでも大変なのに……私のことまで……」
戸惑いと疑問を浮かべたニホンちゃんの表情に、ペルシャちゃんは一瞬ポカンとしましたが、
やがて意地悪そうな笑みを浮かべて、肘でニホンちゃんを小突くまねをしながら
「やだな〜センセェ〜、イラクの気持ち分かっててトボけてらっしゃるんですかぁ?」
「え? なに? なんのこと?」
本気で分かってない様子のニホンちゃんを見て、またもやポカーンとするペルシャちゃん。
キョトンとしてるニホンちゃんを暫く眺めた後、少々がっくりしながら言いました。
「……要するに、イラクもニホンちゃんが来るのを、首長くして待ってるっちゅ―事です」
「え? あ……そう……うん……そうだよね……」
少しずつ、その瞳に闘志が漲ってくるニホンちゃん。
何とか気を取り直したペルシャちゃんは、うんうんと頷きながらその肩に手を置きました。
「それにさ、ニホンちゃんも、皆が苦労しているのを指咥えて見てるの、もうイヤなんでしょ?
アタシも協力……ってこの怪我じゃ何が出来るか分からないけど、出来るだけ協力するからさ……」
ニホンちゃんの肩にぐっと励ますような熱く強い力が篭ります。
大きくゆっくりと頷き、ニホンちゃんも手に持っていた果物ナイフをぎゅっと握り締めました。
「うん……私……頑張る。イラク君ちが早く平和になるように……私、逃げないで頑張る!」
決意に満ちたニホンちゃんの表情に、ペルシャちゃんが満足げに微笑み、口を開いた時、
「Oh〜ニホンちゃん、とうとう本気でやる気になってくれたみたいだねぇ!」
突然の声に、ニホンちゃんとペルシャちゃんがそれが聞こえた方向を振り向くと、
病室の入り口にもたれかかりながら、よっ、と片手を挙げたアメリー君の姿がありました。
「……何しに来たのよ」
「いやなに……クラスの不良娘が、入院してしおらしくなった姿を期待して、はるばる見に来たのさ」
アメリー君は不敵な笑みを浮かべながらペルシャちゃんのベッドに近づいてきます。と……
「きゃ!」
耳元で何かが風を切るような音を響かせ、ニホンちゃんは思わず身を竦ませました。
恐る恐る瞼を上げてみると、アメリー君が自分の顔の直前で齧りかけの林檎を掴んでいました。
「うん。相変わらず元気そうで残念だYO」
にやりと口元を歪め手の林檎を齧りながら、アメリー君はニホンちゃんの隣に立ちます。
ギリギリという音が聞こえないのが不思議なくらい、ペルシャちゃんが強い歯軋りしているのを
アメリー君は苦笑いしながら見下ろしました。
「ヲイヲイ、そんな顔すんなって。折角の可愛いお顔が台無しだぜ?」
「……なんか、ちょーむかつくんですけど、コイツ……」
ペルシャちゃんは林檎のように真っ赤になりながら、アメリー君をこれでもかと睨みつけます。
一方、アメリー君はそんなプレッシャーも肩をすくませるだけで軽く受け流しました。
「そんな目すんなって。ほれ、お見舞いだYO」
と、アメリー君は何処からともなくピンクの薔薇の花束を取り出し、ペルシャちゃんに放りました。
ふわりとブーケのように手の中に収まってくるそれを、思わず受け取ってしまうペルシャちゃん。
ペルシャちゃんが呆然としている一方で、ニホンちゃんが飛び上がるよな歓声を上げました。
「うわぁー綺麗! それにこの薔薇……ん〜、すっごいいい香りだね! ねっペルシャちゃん!」
「え? ……あ……うん」
薔薇に見とれてしまっていたペルシャちゃんは、ようやく我に帰り、アメリー君を見上げました。
相変わらず腹立たしい皮肉なにやつきが張り付いた顔ですが、何故か少し胸が高鳴ってしまいます。
(と、とりあえず、お礼だけでも言わなきゃ……)
先程とは違う理由で頬を染めた彼女が、躊躇いがちに『ありがとう』という言葉を紡ごうとした時、
「まっ、入院している間にそいつが似合うような淑やかなオ・ン・ナ・ノ・コになってくれYO」
ピク。
「いつまでもツッパッてばかりじゃ咲く前に枯れちまうぜ? 不良なんて今時流行んないからさ」
ピクピク。
「まぁ、これも俺様の『偉大な思いやり』からくる忠告だ。素直に聞いとけYO」
ピクピクピク。
「そしたら、これまでの事は水に流すし、場合によってはステディな関係になってやってもいいぜ?」
ピクピクピクピクピク。
ペルシャちゃんのこめかみが、みるみる青筋だらけになっていきます。
それに気付いているのかいないのか、アメリー君は更に続けました。
「おっと忘れてた。もう一人お前のお見舞いをしたいって奴がいるんだ。おーい!」
アメリー君が振り返って病室のドアの方に声をかけると、一人の少女がドアの影から姿を現します。
『げっ』
ニホンちゃんとペルシャちゃんは同時に声をあげました。
果物を入れた籠を抱えて入ってきたのは……なんと紫苑ちゃんだったのです。
「……この度は……えーと……ご愁傷さまでした……だっけ?」
ぶちん。
その場にいた全員が、ペルシャちゃんの頭の中で何かが切れる音を耳にしました――
「あーもう、サイテー!」
紫苑ちゃんが病院のロビーの長椅子で、膨れっ面で乱れた髪を櫛で梳いています。
その横では巻き添えを食ったアメリー君がげんなりした表情で立っていました。
「怪我人相手に何やってんだ、お前さんは? これじゃいつまで経っても仲直りなんかできねーYO」
「私が悪いって言うの!? 私は下手に出てたのに、噛み付いてきたのはあっちからじゃない!
私のこと『性格ブス』とか『成金』とか『クラスメイトとして認めてない』とか
『アンタからだけは、死んでも施しは受けない!』とか言ってたじゃない! 冗談じゃないわ!」
「でもなー、お前のせいで俺までいっしょに追い出されちゃったじゃないか……。
ち〜っとは、俺のリーダーとしての立場も考えて行動してくれないものかねぇ?」
「ふんっ! そんなの私の知ったこっちゃないわよ! 私もう帰る!」
「ちょちょちょっと待てYO! これからリビアんちとシリアんちに行くんだから……!」
やおら立ち上がり、肩をいからせながら足早に病院の出口に向かう紫苑ちゃんを、
小声で「やれやれ」と一言呟いたアメリー君が小走りで追いかけてゆきました。
「ニホンちゃん……」
「はい、なんでしょうか?」
「……イラクの家行くの考え直さない?」
「はっ、なぜでしょうか?」
「アタシがアメリーの事嫌いだから」
「……ムチャクチャであります、ペルシャさん……」
おしまい。
(おまけ)
ニホン「ねー武士ー、これどう思うこれ?」
ウヨ 「え? 何だい姉さ……ブッ!!」
ニホン「イラク君ちで親しみを覚えてもらうために、これ付けてみたんだけど……似合うかなぁ?」
ウヨ 「あ……あ、そ、そうなんだ……うん……よく……ぅ? 似合って……ぇ? いる……かなぁ?」
ニホン「え!そう!? ……よーし、じゃあ行ってきまぁーす!!」(バタン!)
ウヨ 「あ!! ちょ、ちょっと! 待ってよぉ〜〜〜姉さぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
え? 何をつけたかって? それはニホンちゃんの可愛いお鼻の下を見れば分かる次第ですw。
イラク「……今日のお前……なんかいろんな意味で、すげえイカしてるゼ……」
ニホン「え、そうかな〜? えへへ〜」
ウヨ (……ああ……姉さん……姉さぁ〜〜〜〜ん!!)
解説
ナナッシィ
投稿日: 04/01/27 22:07 ID:CHgyhSDR
ども、本スレは2ヶ月ぶりとなったナナッシィです。いよいよ自衛隊本隊が派遣される模様ですね。
派遣された、そして今後派遣される自衛隊員の皆様の無事の帰還を切に願う今日この頃です。
政府、対イラン追加支援を検討
ttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2003/12/29/20031229000049.html
イランとエジプト、25年ぶり国交回復で合意
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040106-00000113-yom-int
イラン中部で改革派の集会を保守派が襲撃、5人以上が負傷
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040123-00000994-reu-int
イスラエルからの支援は拒否―イラン大地震で
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イラン、米代表団を拒否 「救援外交」に慎重
ttp://news.www.infoseek.co.jp/topics/world/iran.html?d=03kyodo2004010301000196&cat=38
自衛隊活動は国連の枠内で 協力表明の一方で注文も
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040106-00000270-kyodo-pol
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