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第1765話 不詳 投稿日: 04/02/20 15:53 ID:LkV4rVyr
『ある愛−1』

日ノ本家にある鳥取の間。そこにはヤサブロウとヒサコという名の
年老いた犬の夫婦がいます。その二匹はニホンちゃんやウヨ君が
生まれるずっと前、ニッテイさんの頃から飼われていました。
いえ、そういう表現には語弊があるかもしれません。
何故なら、ヤサブロウは永い間、遠く北の大地で暮らしていたのですから。

遠い昔、この二匹の犬は生まれたばかりの子犬と共に、
今で言う、キッチョム君の家の辺りで暮らしていました。
しかし、地球町内を巻き込んだ大騒動の末、三匹はその地からの
引き上げを余儀なくされてしまいます。そして、ニッテイさんのお迎えを
待っている時、突如現れたロシアノビッチ君のお爺さんにその仲を
引き裂かれてしまいました。
ロシアノビッチ家内に連行されたヤサブロウは極寒のシベリヤの間に
閉じ込められてしまいます。過酷な環境の中、健康を害しながらも、
ヤサブロウは生き抜きました。自害する事も考えました、しかし、日ノ本家で
待つ、妻と子の為、彼は懸命に耐えたのです。そんな彼の態度が認められて
十年と決められていた滞在期間が七年に短縮されました。しかし、
シベリヤの間から出る事は許されたものの、彼はロシアノビッチ邸内から
出る事を許されませんでした。
日ノ本家に帰る事も許されず、絶えず監視の目に晒され、自暴自棄に
なりかけていたその時、ヤサブロウは一匹のロシア犬と出会います。
クラウディアと名乗る彼女もまた、家族と離れ離れになり、
一時は野良犬として暮らす等の過酷な運命を背負わされていました。。
互いの生涯に通じるものがあった二匹は次第に心を通わせます。ヤサブロウは
元の家に帰れないのならば、ここで生き抜こうと決心しました。クロウディアは彼が
日ノ本家に帰る、その日まで彼を命に代えても守り抜こうと心に誓うのです。
二匹は正式に結ばれ、長い間助け合って暮らしていきました。
『ある愛―2』

やがて、時が経ち、ロシアノビッチ家の家風も変わり、日ノ本家とも
連絡が取れるようになりました。日ノ本家に戻った妻と子の情報も
入るようになりました。驚いた事にヒサコは違うオスとつがいになることもなく、
今なおヤサブロウの帰りを信じて待っているのでした。
ヤサブロウの心は激しく揺さ振られました。片時も忘れる事の無かった、妻と子供が
今も、日ノ本の家で自分の帰りを待っている。帰りたい。美しい緑に囲まれた、
懐かしい我が家に帰りたい。しかし、身体の弱い自分が今まで生き延びてこられたのも
クラウディアが支え続けてくれたからです。長年、献身的に尽くしてきてくれた彼女を
一人残して、日ノ本家に帰ることなど出来ない。
苦悩する彼にクラウディアは微笑みかけました。帰りなさい。あなたを待っている
人が日ノ本家にはいるのです。あなたと結ばれた時、わたしは誓いました。
わたしが共に暮らすのはあなたが元の家に帰るその日まで、と。
それに、わたしは他人の不幸の上に自分の幸せを築く事は絶対に出来ない。
彼女は愛する男の背中をそっと押しました。

日ノ本家にある鳥取の間。そこには二匹の年老いた犬の夫婦がいます。
元の飼い主だったニッテイさんはもういません。いるのはかしましい二人の
姉弟だけ。二匹はそんな二人と暮らしながら、来る日も来る日も、
遠い、遠い北の大地に目を向けるのです。



ソース
tp://www.sanin-chuo.co.jp/column/rashinban/2003/1207.html

初投稿です。この話は先週のアンビリで始めて知りました。
強い感動を覚えたので、書こう書こうと思いながらも、踏ん切りがつかない
まま一週間も経ってしまいした。このエピソードをなぞるには拙すぎるかも
しれませんが、どうぞ読んでください。

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