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第1772話 熱血君 ◆O4x3A1GrPw 投稿日: 04/02/27 23:32 ID:/bSu9RfZ
                      「虫歯」
 子供はお菓子が好き、まあ皆好きですが子供は特に好きですね。しかし甘いものは
後で歯をよく磨かないと虫歯になってしまいます今回はそれが元で起こった悲劇、
いや喜劇であります。
「おはよう……」 
 タイワンちゃんが登校してきました。いつも元気な彼女がえらく不機嫌です。
「タイワンちゃん、どうしたの?」
 ニホンちゃんが尋ねます。
「虫歯になっちゃって……」
 見れば右の頬がはれています。まるでお多福です。ゴマ団子の食べ過ぎだとか。
「皆様、お早う」
 エリザベスちゃんも何処か不機嫌。彼女は左の頬です。
「クッキーの食べ過ぎのせいで……」
「おいおい、美人がそれじゃあ台無しだぜ」
 誰かが言いました。見ればロシアノビッチ君です。
「大体歯を磨かねえからそうなるんだよ。油断大敵だぜ」
「う〜〜……」
 二人共黙っています。というより歯が痛くて話せないのです。
「まあなっちまったもんはしょうがねえ。ここは俺がなおしてやるか」
「あれっ、ロシノビッチ君って歯科技術持ってるの?」
 ニホンちゃんが尋ねます。
「何言ってんだよ、俺は最新式の歯科技術を身に着けているんだぜ。まあ安心して
見ていろよ」
 ロシアノビッチ君自信満々です。それを聞いた二人は安心しました。
「最新式か」
「それでしたら問題ありませんわ」
「よし、じゃあ虫歯のある奴は皆出てくれ。俺が片っ端から治してやるぜ」
 かくして虫歯持ちが皆出て来ました。
「よし、じゃあ早速始めるか」
 ロシアノビッチ君袖をまくって大張り切りです。
「・・・・・・それはいいんだけどさ」
 タイワンちゃんが言いました。
「何故椅子にくくりつけられていますの?」
 エリザベスちゃんの質問。見れば皆椅子にロープでくくりつけられています。
「何言ってんだ、そうじゃないと危ないだろ」
「危ない?」
「麻酔は?器具は?」
 皆尋ねます。それに対するロシアノビッチ君の返答。
「麻酔はすぐすむからいらねえ。器具は・・・・・・これだ」
 取り出したるは一つのペンチ。
「まさか・・・・・・」
 椅子に座る皆の顔がさっと蒼くなります。
「さあ皆口を開けな。すぐすむからよ」
 かくしてクラスは地獄絵図と化しました。
 数分後ーーー。
「あ、あががががっが……」
 床には血塗れの無数の歯が転がっていました。そして馬鹿力で歯を抜かれた人達が椅子に
縛られながらも痛みにのたうちまわっています。
「どうだ、これでもう虫歯に悩まされる事はねえぜ」
 ロシアノビッチ君がペンチを手に会心の笑顔で言いました。
「金はいらねえからな。本当の天才ってやつは金には無頓着なんだ。まあ酒でいいからよ」
 きっちり報酬まで要求しています。
「この学校にも虫歯で苦しんでいる奴はまだまだいるな。よし、そいつ等を助けに行って
やるか。いい事をするのって気持ちがいいな」
「おい……」
 皆止めようとします。しかし彼はそれよりも早くクラスを出て行ってしまいました。
 それ以後学校から阿鼻叫喚の叫び声が途絶える事はありませんでした。床には歯が転がり
彼の怪力により歯を無理矢理引っこ抜かれ逆に歯茎を脹れさせている人達で溢れました。
 それはすぐに町全体にひろがりました。彼は人だけでなく犬や猫の虫歯まで抜いた為
町から恐ろしい叫びが絶える事はありませんでした。
 そんな彼を何とかする為クラス会が開かれる事になりました。場所は公民館、勿論彼には
内緒です。
「さて、どうやってあの馬鹿を止めるか……」
 議題はそれしかありません。しかしどうやって。
 彼はクラス一の怪力です。まともにぶつかってはアメリー君やチューゴ君でも
無傷では済みません。しかも酒を飲んでいるので力の加減も知らないでしょう。
「説得……」
 誰かが言いました。無理です。彼はいい事をしていると確信しているのです。
それが例えどの様な惨事を引き起こしていようとも。
「けれどそれが一番だよなあ……」
 他には腕ずく位しかないですし。
「しかし誰が……」
 残念なことにこのクラスに彼を説得出来そうな人はいません。前述の二人は
実は彼とはあまり仲がよくありません。エリザベスちゃんは口がまだ脹れています。
「わ、わたくひのびほうか……」
 タイワンちゃんも同じ。フランソワーズちゃんだと話が余計悪くなります。
 ニホンちゃんだとウヨ君が出て来かねないのでバツ。アーリアちゃんも角が立つ、
ゲルマッハ君も同じ。人選は滞ってしまいました。
「誰かいるの?」
 ちなみにイン堂君が盛んに手を挙げているのは皆見なかったことにしています。
彼は交渉を滅茶苦茶にする達人ですから。
「先生に頼んでみる?」
 また誰かが言いました。
「どの先生?」
 そこで意外な人の名が出て来ました。
 
「ハプスブルグ先生はどうかな?」
 誰かが言いました。
「えっ、あの先生!?」
 大人しくて優しいあの先生にガサツで有名なロシアノビッチ君の説得は。
「いや、先生の家とあいつの家って昔から関係深いじゃない。先生の家の
揉め事をあいつの家の協力で解決した事もあったし。あいつもどうも先生
の前だと大人しいし。いいんじゃない?」
「う〜〜〜ん……」
 皆考え込みました。しかし結局それしかありません。
「よし、それでいこう」
 かくして先生に頼んでみました。
「いいですよ」
 幸い先生も快諾してくれました。
「あっちです」
 何時の間にかペンチが両手で持つ巨大なものになっています。ロシアノビッチ君
はそれで罪無き虫歯の人達を苦しめているのです。
「わかりました。それでは」
 先生は優雅に微笑んで彼のところへ向かいました。
「大丈夫かなあ」
「もう賭けるしかないでしょ、先生に」
 皆電柱の陰からこっそり見守っています。
「ふう、今日も大勢の人達を虫歯から救ったぜ。いい事をするのって本当に
気持ちが良いな」
 ロシアノビッチ君満足な笑みで歩いています。そのペンチは血で塗れています。
「ロシアノビッチ君」
 彼を呼ぶ声がします。
「大丈夫かな、ホントに」
 皆不安そうです。しかし。
「あ、先生」
 何と彼が先生が前に来ただけで全身を硬直させてしまいました。
「えっ!?」
 流石に驚く皆。
「最近皆の歯を治してあげているそうだけれど」
「はい、僕は皆が虫歯で苦しむのを救ってあげたくてやっているんです」
 何と彼の目がキラキラとしています。それを見て皆顎が地に付かんばかりに
驚いています。
「その気持ちはわかるわ。けれどね、歯医者さんがちゃんといるしロシアノビッチ君
が特にやる必要は無いと思うわ。先生はロシアノビッチ君が出来る事で皆を助けて
あげればいいと思うの」
「僕に出来る事……」
 ロシアノビッチ君が考えています。普段は酒と棍棒外交しか考えていない彼が。
「これってカタルシスか……」
「そうみたい……」
 皆呆然としています。

 
 先生は言葉を続けます。
「先生はね、自分が出来る範囲で人を助けられればそれでいいと思うの。
ロシアノビッチ君にも出来る事がある筈。だからそれで人を助けてあげて」
「僕に出来る事……」
「そうよ、よく考えてみてね。先生との約束よ」
「はい!」
 こうしてロシアノビッチ君は歯医者を辞めました。これにより多くの人達
が救われたのです。
 しかし。
「よし、俺がやるべき事がわかったぞ!」
 ある日彼は登校するなり言いました。
「今度は何?」
 皆が尋ねます。
「俺は骨接ぎになる!」
「…………」
 かくして再び犠牲者が町に溢れ先生の出番がやって来る事となりました。

解説 熱血君 ◆O4x3A1GrPw 投稿日: 04/02/27 23:37 ID:/bSu9RfZ
 今回は歴史ネタです。ソースというか資料はこちらの人。
ttp://www.infoaomori.ne.jp/~yappi/w.history/600kindai/636zettaishugi6.html
 参考文献は新紀元社から出ている『帝王列記 西洋篇』です。あと『風雲児たち』。
 ロシアとオーストリアの関係はこちら。
ttp://www.go-banff.com/mame/sekaitaisen.htm
ttp://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams00/napoleon.2.html
ttp://www.tabiken.com/history/doc/R/R063R100.HTM
ttp://www.europe-z2.com/kindai/ad1849hu.html
 一次大戦前夜は激しい対立関係にありましたがかなり長い間盟友関係にありましたので。
 それにしてもYAHOOの騒動が今話題ですがあちらに僕の名を騙る
荒らしがいるんですよね。どうしたものか。

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