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第1898話 ナナッシィ 投稿日: 04/06/14 23:58 ID:c7igPutw

『 Suica 』


 燦々と照りつける太陽。
 肌を撫でる爽やかな陽気。
 初夏の訪れを知らせる深緑の産声が、
 そこかしこであがるある日の出来事。


『 私のお家で取れた西瓜です。
  とっても甘くて美味しくできたので
  おすそ分けします。
  お早めに食べてくださいね(はぁと) 』

 可愛らしくもちょっぴり体育会系のかほり漂う少女の部屋にて、
 その主が、真っ白な便箋にしたためられた文面に
 何度も何度も目を通していました。

 主の名は、タイワン。

 やがて、タイワンちゃんは便箋をその薄い胸に押し付けると、
 フゥと甘い溜息をつきました。
 嬉しそうな、それでいて困ったかのようなその表情に、
 ほんのりと朱に染まった頬が悩ましげなアクセントを付け加えています。

「……だめだよ、ニホンちゃん……あたしたち…………なん……だから……」

 社交辞令の並んだ文面のどこら辺をどう勘違いしたのか、
 言葉とは裏腹に恍惚とした色が滲む瞳。
 タイワンちゃんはゆっくりと視線を上げました。
 そこには、クール○急便で届いた丸く緑に黒の縞々の物体Xが、
 ガラステーブルの上ででんと鎮座しています。

 これがでかい。
 異常にでかい。
 ゆうにタイワンちゃんの体並の大きさがあります。
 言うなれば通常の3倍の性能はありそうな西瓜です。

「……でも……こんなに、あたしのこと、思ってくれていたなんて……」

 これまた非常に都合がいい方に解釈するタイワンちゃん。
 暫しウットリと、恋する少女の潤んだ瞳で西瓜を眺めていましたが、ふと、

「……あ……早く食べてって……書いてあったっけ……」

 夢遊病者の足取りで台所へ向かうと、
 ふらふら危なっかしい手付きで包丁を持って戻ってきました。

 テーブルの前で横座りになり、もたれかかるように西瓜を抱え込むと、

「……うん……あたし食べるよ、ニホンちゃん……いいよね……いいんだよね……」

 止め処なく桃色系の倒錯した世界に埋没しつつあるタイワンちゃんの理性。
 つつつと、包丁の切っ先で西瓜の表面をなぞりながら、大きく2度3度深呼吸。
 そして、包丁の柄をぎゅっと握り締めて、西瓜の頂上から一気に、

「……いくよっ、ニホンちゃん……!」

 ……ザシュッ!


            『 ア イ ゴ ー ! 』

「え!?」

 聞きなれた不快な悲鳴が耳元で響いたような気がして、
 弾かれたように西瓜から飛び退きます。
 と、その足元に転がっていた何かに足をとられ、どすん!と尻餅をついてしまいました。

「いったた……」

 しかし、その何かを確かめる間もなく、包丁で出来た西瓜の割れ目から、

 ……ぶしゅっ!

 赤い液体を撒き散らしながら、
 紅く染まった一本の人間の手が突き出てきました。

「…………キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!」

 甘酸っぱい桃色夢気分からB級スプラッタ映画の
 舞台に模様替えされた部屋の中、
 喉も割れんばかりの悲鳴を上げたタイワンちゃんの眼前で
 高く力強く産声をあげる熱いひとつのいのち。
 更に西瓜の皮をこじ開けようと、液体を滴らせながら、
 穴に両手の指を掛けました。

 ……バリ……バリ……バリ……

 少しずつ、少しずつ、
 緑と黒の表面の亀裂が縦に広がっていきます。
 さながら気分はエイ○アン誕生シーン。

「………やだぁ……お願い……もう、やめてよぉ……」

 自分の理解を遥かに超えた現象を目の前にして、
 もはやパニック状態のタイワンちゃん。
 さすがの彼女も小娘的には強すぎる刺激に、
 見開いた瞳から大粒の涙がポロポロ零れてゆきます。
 どうにか逃げようとしても、
 腰が抜けたのか後ろへじりじりといざることしか出来ません。
 その手に、こつん、と何かが当たりました。
 無意識のうちに首を捻って手の辺りを見てみると、
 そこには足の踏み場も無いほど床一面に広がる小黄瓜。
 先程足を掬ったものはこの一つでしょう。
 そして、視線を上げていくと、
 タイワンちゃんの背丈よりも大きな南瓜が部屋のドアの前に立ちふさがっていました。

「……なにこれ……」

 と、呆然とそれを見上げるタイワンちゃんの目の前で、
 南瓜の表面に横一文字に筋が入り、
 そこから上下にパカッと真っ二つに開くと、

『 ウ リ ナ ラ マ ン セ ー ! 』

 お馴染みの掛け声とともに現れたのは、
 何とと言うか予想通りというかやっぱりカンコ君。
 ブリーフ一枚の腰をリズミカルに左右に振りながら、
 南瓜の上半分を両手で支えています。
 更に追い討ちをかけるかのように、その足元でも、
 無数の小黄瓜がパカパカ音を立てて割れ始め、
 その中から小さな人形の物体が次から次へと飛び出て、
 タイワンちゃんに向かって近づいてきます。

『ウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリ
 ウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリ
 ウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリ……』

 そう、それは101人カンコ君大行進。ああ、これぞ生命の神秘。
 躍動する生命の奇跡のど迫力に、茫然自失状態のタイワンちゃん。
 その両の肩を火鉢のように熱く、血のように赤い手がしっかと握り締めました。
 恐怖に全身を小刻みに震えさせながら、正面を向いたタイワンちゃんの視界に入ったのは……

『 ウリのウリになにするウリリィィィィ!!! 』

「 い や あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!」
 

「(……ああ、なんてひどい夢……瓜からカンコがでてくるわ、あたしは○ズになってるわ………)」
 明けぬ夜がないように、醒めぬ夢がないように、誰にでも訪れる朝。
 そのいつもの通学路で。

「タイワンちゃーん! おはよー!」
「…………おはよ…………」
「あれれ? タイワンちゃん、なんか元気ないね?」
「……うん、大丈夫……ちょっと夏バテ気味なだけだから……」
「ふぅん……?」
 全身の精気を吸い取られたかのようなげっそりとした表情のタイワンちゃん。
 それを見て、ニホンちゃんちょっと心配そうに小首を傾げてから、
 『ポン』
「そーだ! タイワンちゃんが元気になるようにいいものあげる!」
 胸の前で軽く手の平を合わせたニホンちゃんは、ごそごそと手提げ袋をまさぐり始めました。
「……へぇ……何をくれ――」
 とまで言ってタイワンちゃん、猛烈に嫌な予感。
 ニンマリと笑みを浮かべたニホンちゃんが、袋から取り出したのは――

「じゃーん。これぞ夏の風物詩――」
「 い や あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!」


 おしまい。

解説 ナナッシィ 投稿日: 04/06/15 00:19 ID:60dqfce7

前スレに投下された、「台湾では西瓜使って告白しまつ」というソースから。

ふむ、50まであと少しか。
あと、たのんまつ。

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