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第1949話 シェロ 投稿日: 04/08/07 22:52 ID:KwiaAhx9
〜 Granpa's memories 3 〜
破裂音がして、家が揺れる。アンクルサム達が家を取り囲んで、爆竹や火炎瓶を投げ込んでいるのだ。
中央道での傷が癒えないカイグンやニッテイが奴らを追い払おうと奮戦しているが、いかんせん私たちと奴らでは、
持っている道具の数が違いすぎた。燃え広がった火をいくら消しても、次から次へと火炎瓶は投げ込まれる。
紙と木で出来ている私たちの家は簡単に燃え、漸く奴らが引き上げた時には、家はボロボロになっていた。

「くそっ・・・・・・ひでぇな」
ニッテイは苦々しく吐き捨てる。あちこちに見える傷痕が、先程までの乱戦を物語っていた。
「ヒロヒト義兄さん、大丈夫ですか?」
私の火傷に気付いて、撫子が薬箱を持ってきた。しかし彼女の右手にも、痛々しい傷痕が刻まれている。
見れば、息子も、その妻も、今ここにいる者誰一人として、無傷な者はいなかった。
「畜生・・・女子供にまで、怪我させやがって!」
カイグンが吠え、家を飛び出ていこうとする。私はとっさに彼の腕を掴んだ。
「待てカイ!お前その身体でどこへ行くつもりだ!」
「離せよヒロ!アイツともう一度やりに行くに決まってるじゃねぇか!撫子さんにまで怪我させやがって、
あの野郎絶対許さねぇ!行かせろ!!」
「落ち着け馬鹿野郎!この前の傷もお前まだ治ってないだろう!そんな身体で行ったらお前、どうなるか位わかるだろうが!」
私はカイグンを必死で止めた。もう誰が傷つく姿も見たくなかった。
今思えば、この時点で私は、この喧嘩にはもう勝てないことに気付いていたのだろうか。
しかしカイグンは私の手を引き剥がし、言った。
「んなこたわかってんだよ。でも今のまんまジリ貧でいたらもっと辛いだけだ。
俺らの拳は家の人間を守るためにあるんだから、今使わなかったらいつ使うんだよ。
それにまだ、俺にはアレがある。あの馬鹿でけぇ愛機のヤマトがな」
私の目を見据えて、続ける。
「行かせてくれ、ヒロ。俺はお前らを守りたいんだよ」
覚悟に満ちた目。私はこれ以上、彼を引き止めることなど出来なかった。

黒光りする巨大なバイクに跨って、カイグンは灯を入れた。重低音が周りを揺らす。
「ニッテイ、俺がいない間、家のこと頼むな。撫子さん怪我してるんだから、助けてやれよ」
カイグンは身体に、ありったけの道具を縛りつけて言った。
「大丈夫だよ、ヒロ。俺はちゃんと、帰ってくるからさ」
私にはそう話すが、いくらヤマトに乗っているとはいえ、たった独りでアンクルサム達を相手に闘って
無事に帰ってこれるはずもないことは、お互いわかっていた。
「・・・・・・気をつけろよ」
しかし私にはもうこれしか言えない。カイグンの必死の決意、それを汚すことなどもう出来なかった。
それには応えず、カイグンはスロットルを開ける。甲高く響くエンジン音。
鋼鉄の馬に跨って、カイグンは独り飛び出して行った。

あれが私と彼の最後の会話。カイグンが帰ってくることは、もう、なかった。
                                             (続)

解説 シェロ 投稿日: 04/08/07 23:14 ID:KwiaAhx9
ハルノート→真珠湾→ミッドウェー→インパール→空襲→大和特攻という
流れで書いています。後原爆→降服→東京裁判となって完結でしょうか。
長いの書くのは難しいニダ。短いのも(ry
>>無銘仁さん
うまいことマッチするもんですねぇ。完結を楽しみにしてますよ。
>>ab-proさん
人の痛みと自分の痛みを重ねられないカンコ君は、・・・こんなこと言っていいのかわかりませんが・・・
キムチなんです。とw
>>九鬼唯様
デビューおめです。テンポのいい文体でサクサク読めました。
影の薄い新キャラまふゆチャンの影を濃くするのは産みの親の使命ですよ(^^
次作も頑張ってください。俺もがんばりますので。

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