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第2071話 熱血君 ◆O4x3A1GrPw 投稿日: 04/12/12 23:41:06 ID:9fN160MY
              「軟派男の意地 氷解」
 喧嘩からかなりの時間が経ちました。その結果の様な形で紫苑ちゃんは
念願のお家を手に入れることができました。けれどそれは彼女にとって新
たな苦労の日々のはじまりだったのです。
「御前はここから出て行け!」
「ここは俺達の土地だ!」
 アラブ組の皆と今日も喧嘩が繰り拡げられます。彼女はそれに対してよ
うやく手に入れたもう一つの欲しかったものである力で対抗します。
「おとといいらっしゃい」
 負けるわけにはいかないのです。負けたらまたあの流浪と迫害の日々で
す。その思い出は夢にまで出て来ます。決して忘れることのできない悪夢
の日々なのです。
 そして今は両手が血に濡れています。幾ら洗っても落ちるものではあり
ません。
 それだけではありません。身体の生傷も増えていく一方です。彼女の心
も身体も以前と同じように傷ばかりが増えていきます。
「それでもいいのよ」
 彼女はそう言って強がります。
「私はお家さえあれば。元々お金はあるのだし。そう、お金だけはあった
わね、昔から」
 けれどお金で幸せは買えないのです。現に今の彼女はいつも一人です。
そして荒んだ日々を送っていました。
 その心は完全に凍り付いてしまっていました。誰も彼女に声をかけたり
はしませんでした。そう、一人を除いて。
「ねえ紫苑」
 マカロニーノ君です。彼は誰にでも声をかけるのでちょっと例外なので
すがそれでも声をかけてはくれます。
「今度デートに行かない?よかったらさ」
「・・・・・・・・・」
 紫苑ちゃんは彼を見ます。硝子の様に感情のない瞳で。
(あの時のこと、何も言わないのね)
 身体を張って紫苑ちゃんを逃がしたあの時のことを。結局彼はレンゴウ
チームに鞍替えすることに成功しましたがそれまでにかなり苦労をしてい
るのです。そしてその時紫苑ちゃんは約束した彼との再会を果たしていな
かったのです。また会うことを。こうした状態ではなく本当に心から。
(忘れている筈がないのに)
 そう、忘れている筈がありませんでした。人はそう簡単に忘れるもので
はないことは彼女自身がよくわかっていることなのです。
「悪いけれど」
 彼女はその申し出を断りました。そしてそそくさとその場を立ち去って
しまいました。
「残念だなあ、折角ディナーのチケットを用意したのに。別の娘を誘うか」
 マカロニーノ君はそれを気にせず別の娘を誘いに行きます。内心はどう
思っているかわかりませんが外見上は全く平気です。そんな彼等を遠くから
見ている娘がいました。
「ねえ」
 部屋を出ようとする紫苑ちゃんにベトナちゃんが声をかけてきました。
「何か用?」
「ええ」
 ベトナちゃんは静かに頷いて答えました。
「マカロニーノ君のことだけれど」
「彼がどうかしたの?言っておくけれど私は彼とは・・・・・・」
「知っているわ」
 言葉を続けようとする紫苑ちゃんに対して一言だけそう言いました。
「貴女とマカロニーノ君のことは。だからわかるつもりよ」
「わかる!?一体何を」
 それを聞いた紫苑ちゃんの顔が急に歪みました。
「貴女に私の何がわかるっていうの!?言っておくけれど私は」
「見て」
 彼女はそう言いながら両手の包帯を解きました。
「うっ・・・・・・」
 その手の傷跡を見て思わず息を詰まらせました。
 ケロイドになった跡。それが何によってのものかもう言うまでもあ
りませんでした。
「貴方の傷は知っているわ。同じだから」
「同じ・・・・・・」
「そうよ。そしてこれは私達だけじゃないの」
 ベトナちゃんは静かな声で語りました。
「皆よ。皆同じなのよ。このクラスにいる皆は」
「皆・・・・・・」
「ええ。だからそんなに心を閉ざすことはないわ。皆同じだから。
だからわかることができるから」
 そして包帯を再び巻きました。
「私が言いたいのはそれだけ。それじゃ」
 その場を後にします。そしてニホンちゃんやタイワンちゃんの
ところに入って行きます。
「同じ、私も皆も」
 そこでニホンちゃんやタイワンちゃんの姿が目に入ります。確
かに彼女達も色々あります。けれどそれを表に出すことは決して
ありません。
「・・・・・・・・・」
 それを見た後で考え込みます。そこへマカロニーノ君がまた声
をかけてきました。
「紫苑、やっぱりデートに行かない?皆に断られちゃってさあ。
お願いだよお」
 あえて演技で彼女に頼み込みます。それを見た彼女はうっすらと
笑いました。
(彼も同じなのね。それじゃあ)
 そして彼に対して答えました。
「いいわよ」
 その微笑のまま答えました。こうして彼女はマカロニーノ君と
久し振りに二人になることになりました。

第五部です。次で終わる予定です。

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