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第2073話
黄 色 い リ ボ ン ◆JBaU1YC3sE
投稿日: 04/12/14 01:36:17 ID:WSMvfU5x
「 大艦隊 軍縮という戦争 その1」
昔、1度目の町内大喧嘩が終わった後のこと、ユーロ町の人たちは破産同然になってしまいました。
「負けた人たちは早く払うもの払って!払ってもらうまでラインラントの間を離れませんわよ!」
「無茶言わないでくれ、そんなの無理だってわかるだろう」
「でも後1年続いていたら、私たちが負けていたかも・・・」
そんな中、家の中に喧嘩が及ばなかった家がありました。アメリー家と日之本家です。
しかし、この2つの家はお向かいである上、アジア町の縄張り争いで対立していたのです。
「ユーロ町がああなった今、ウチが全町内を仕切るチャンスだぜ!問題はニッテイの奴だ・・・
それに喧嘩の備えも、うちの連中から要らないから金も減らすって言われそうだし、
これだけのチャンスにボスにならない手はなのにな・・・・・そうだ!」
アメリー家は町内に触れ回りました。
「みなさん、喧嘩はもうコリゴリです。今回のことも、ビクトリアさんにゲルマン家が
戦舟の買い物競争で挑戦したことが大きな原因。
そこで、戦舟を持つ量を決め、軍拡を止めようではありませんか。我が家のワシントンの間で話し合いましょう。」
得意満面で訴えるアメリー一家。しかし周囲はちゃんと本心を見透かしています。
「我がビクトリア家を差し置いてよくも!でもあそこには随分借金をしてしまいましたわ。
ふっふふふ、落ちたわね、我が家も・・」
ビクトリアさん弱者の悲哀と言うものを初めて味わいました。
一方日之本家ではニッテイさんが部下と相談です。
「うちも船代が嵩んでいた所で結構な話ですが、東郷さん、どう思いますか?」
「もちろん腹に一物でしょう。部下の加藤と山梨を送ります。」
加藤さんは東郷さんの長年の部下で、ロシアノビッチ家の艦隊を全滅させたときの腹心です。
その後、加藤さんが日本の戦舟計画を立てて次々と舟を買い込んだのですが、
やはり日ノ本家がアメリー家に張り合うのはかなりの出費です。
しかしユーロ町が喧嘩不能になると、途端にアメリー家にとって日ノ本家がライバルとして引き立つ存在になります。
「 大艦隊 軍縮という戦争 その2 」
加藤さんと山梨さんがアメリー家に出発する日が来ました。東郷さんがお見送りに来ています。
「加藤、アメリー家は何を言ってくるか判らんが、ウチの台所も火の車だ。よろしく頼むぞ。」
「はい元帥。私の計画では全部で16隻の新鋭艦をそろえる予定ですが、やはりアメリー家相手では苦しい。
ウチに少しでも有利な形で仕切られるよう頑張って来ます。」
2人は戦闘に出撃するときのように真剣なまなざしで敬礼を交わしました。
ワシントンの間に各代表が集まると、メリケンさんが出迎えました。
「いい気分だなあ〜、我が家に格式高い家の人達が来るなんて。この指とーまれっ!なんてねw」
これには全員がムッとなりました。そんなメリケンさんに部下のネイビーさんが言いました。
「親分頼みますよ、ニッテイの大きい戦舟はうちの半分にして下さい。
でないとウチもロシアノビッチ家の二の舞ですからね」
それは内緒話とはいえない声の大きさでした。当然加藤さんにも聞こえました。
(聞こえてるぞ、おい。だがウチの戦舟の量からして7割でスタートだろう。できれば7割で決めたい。
ただ会議を決裂したらウチの家計が持たない。万一譲って6割までは止むを得ん。
その代わり小舟にお金を回して、なんとか残り3、4割分もカバーして・・・)
しかし、メリケンさんの言葉は加藤さんの予想を裏切りました。
「聞いてください皆さん。早速ですが、もう各家の比率の草案は私の方で考えてあります。
アメリー、ビクトリア、ニッテイで、10・10・6の比率で行きたいと思いまーす。」
( な、何だとぉーっ )
「 大艦隊 軍縮という戦争 その3 」
沈着な加藤さんですが、とんでもないことになったと思いました。
見ればメリケンさんの目がこちらに向けられています。
彼はおどけた口調で話し、口元は笑っていますが、目は笑っていません。
いよいよメリケンと対決のときが来たと思いました。メリケンさんも日之本家を第一の敵と考え、
この会議で有利な形に仕切り、不戦勝で太平池の、地球町のボスとなるつもりです。
( ・・・わかったよ、そういうことかい・・・ )
若い頃、シナ艦隊に砲撃を加え、ロシアノビッチ戦で先頭に立った頃の闘志の炎が彼の目に宿りました。
「大臣閣下、あの・・・」
加藤さんが振り向くと、そこには心配そうな顔をした山梨さんがいました。
「ど、どうなさいますか、閣下。6割では今作ってる新しい戦舟も建造中止と言うことに・・・」
「山梨、ちょっと日ノ本家に電話してくる。」
「どうするので?」
「後で話す。待っていろ」
「 大艦隊 軍縮という戦争 その4 」
加藤さんはニッテイさんに電話しました。
「悪い知らせですか。加藤さん」
「・・・メリケンから対米6割にしろと言ってきました。」
「!!・・・」
「長くなりますが、よろしいですか?」
「どうぞ」
「家の守りは軍人の占有物ではありません。家全体を豊かにし、各国と関係を深め、
喧嘩が起きないようにすることが真の防衛かと思います。」
「つまり6割の要求を飲めと・・・」
「はい。今度喧嘩するとしても、軍資金は借金しないと貯金だけでは賄えないでしょう。
今よそに大金を貸せるのはメリケンだけなのです。
もしこの会議そのものを決裂させ、わが八八艦隊をあと5年で完成させても、メリケンは黙っていないでしょう。
メリケンの計画はあと3年で完成します。その後も競争し続けるとなると・・・
今は相手の頭を10:6で抑えたと考えるべきかと思います。」
加藤さんの目に涙が浮かんでいました。ここまで艦隊を作って来たのは加藤さんなのです。
「軍人でありながら見事な見識。そのまままとめて下さい。」
「はい。あの、東郷さんはおられますか。」
「替わった。わしだよ。話は聞かせてもらった。」
「・・・東郷さん、わ、私はこうするしかないと思うのですが・・・」
「うむ、6割止むを得ず」
「はい頑張ってきます。」
会議はその後10・10・6で纏められました。フランソワ家の代表が加藤さんに近づき言いました。
「あなたのような方が船乗りから出た事は家を超えて誇りに思います。」
加藤さんはにこやかに握手しました。
各家の代表が帰った後、アメリー家では祝杯があがりました。
「日ノ本家の電話を盗聴していてよかったでしょ。会議がなかったら、
身内から喧嘩の買い物は止めろっていわれるとこだったんですよ。私のような日陰者にもお褒めの言葉がないと・・・」
「おいヤードレイ、そんなこと表立っていえるわけないだろ。金は払ったんだ、静かにしていろ」
「・・・・」
この後、ヤードレイは全てを本に書いて発表してしまったということです。
そして加藤さんの死後、日ノ本家は話し合いよりも力を信じるようになってしまいました。 おしまい
解説
黄 色 い リ ボ ン ◆JBaU1YC3sE
投稿日: 04/12/15 00:48:54 ID:6MyIrRJu
>>153
さん、途中で止めた事も悪いのですが、事実そのままなことはお詫びします。
ネタはワシントン軍縮会議と加藤友三郎海軍大臣でした。この経緯は
山梨勝之進著「歴史と名将」にあります。古本です。
加藤さんの電話の内容は実際の加藤大臣の長い電文の要約で、日本軍人の残した文章の中でも出色の物です。
伊藤正徳の著作もこの辺は詳しく載っています。
盗聴が出版によって日本に知られたのも事実で、
リチャード・ディーコン著「日本の情報機関」にあります。古本屋か図書館でどうぞ。
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