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第2109話
ab-pro
投稿日: 05/01/10 22:22:44 ID:StTolx7Y
ジュネーブ君の家の家業は、由緒正しい貸倉庫屋さんです。そんじょそこらの
貸倉庫と違うところは、二百年以上に渡って、お客様のお荷物の管理を完璧に行
ったり、お客様の秘密を絶対に漏らさないところです。
ですから、地球町のお金持ちの間では、スイス家の貸倉庫を利用することがス
テータスの証になっているほどなのです。
そんなスイス家の門を、一人の少女がくぐりました。
「すいません。これを確認してほしいのだけど」
「ああ紫苑・・・ではなかった。いらっしゃいませ、紫苑様。拝見させていた
だきます」
たまたまお手伝いで店番をしていたジュネーブ君が、学校での一匹狼的な態度
から、素早く営業スマイルに切り替えて、紫苑が差し出した紙を受け取りました。
それは、ボロボロになった、昔のスイス家の貸倉庫の預かり証に見えます。
「祖父の遺品を整理していたら、見つかって。ここの預かり証だと思うのだけ
ど、これがどういう物か調べて貰えるかしら?」
紫苑ちゃんの方も、しおらしく上品に尋ねます。
「ボロボロですが、確かに、ここ百年以内に、当方が発行した預かり証のよう
ですね」
「・・・それで、その証書はまだ有効なのかしら?」
「もちろんです。我が家の誇りは二百年以上の伝統でございます。この証書が
ある限り、どれだけ時がたっても品物は確かに我が家でお預かりしていると言う
ことでしょう」
そう胸を張って答えるジュネーブ君。
「それでは、規則ですので、一様この預かり証の名義人と、紫苑様の間に相続
関係があるか確認できるものをご呈示願えますか?」
その問いに、紫苑ちゃんは紫苑家の家系図を示します。
「結構です。それでは多少時間がかかるかもしれませんが、しばらくお待ちく
ださい」
そういって倉庫に向かうジュネーブ君の後ろ姿を、紫苑ちゃんは祈るようなま
なざしで見送ったのでした。
紫苑ちゃんの預かり証を持って倉庫にやってきたジュネーブ君は、倉庫を整
理していた父親に証書を渡します。
「父さん。古い預かり証だけど、荷物を引き取りたいって」
「ああ、ちょっと見せてみろ。・・・・二回目の地球町大喧嘩の時の預かり証
だな。純金製の七支の燭台。・・・ja」
ボロボロの預かり証と入庫一覧表を見比べる父親は、そこで表情が凍り付きま
した。
「ジュネーブ。残念だがこの預かり証の品は無いみたいだ。大喧嘩の混乱で記
録が無くなっているみたいだな。これを持ってきたお客様には、そう言って鄭重
にお帰りいただきなさい」
「え?大喧嘩って、うちは直接被害はなかったんだろ? それに倉庫の中も調
べもしないで・・・」
「無い物は無いんだ!いいからジュネーブ、行ってこい」
有無を言わせぬ父親に、何がなんだか分からないまま従うジュネーブ君。窓口
に戻って紫苑ちゃんに結果を伝えます。
「・・・申し訳ありません。なにぶん大喧嘩当時の昔の物で、こちらに資料が
残っていないようです。残念ですが・・・・」
本当に残念そうに頭を下げるジュネーブ君に、紫苑ちゃんは仮面のように表情
を消して、預かり証を受け取ります。
「二百年前の記録は残っていて、大喧嘩の時の記録が残っていないなんて。変
な話ね。
分かったは。でも、私、諦めた訳じゃないから・・・」
それだけ言い残して去っていく紫苑ちゃん。
彼女の最後の言葉の意味が分からず、ただ、彼女の悲しげな瞳に、ジュネーブ君
は何も言うことができずに彼女を見送るしかありませんでした。
それからです。
学校で、クラスのみんなジュネーブ君に対する態度がよそよそしくなり始めまし
た。紫苑ちゃんが話しかけたクラスメイトが、皆。
クラスでは孤高を気取るジュネーブ君ですが、さすがに何が起こっているのか気
になり始めたとき、アメリー君がジュネーブ君の前にやってきました。
「なあ、ジュネーブ。いい加減、紫苑の家の人間から奪い取った品物を返してや
れよ」
このアメリー君の暴言に、ジュネーブ君は一気にいきり立ちます。
「何を出鱈目言ってやがる!
家は信用第一、そんなふざけたことは絶対にない!!」
ジュネーブ君の純粋な怒りに、しかしアメリー君は可哀想な眼差しを向けるだけ
です。
「おまえ、本当に何も知らないのか?
俺も詳しくは知らないが、喧嘩が終わった後、メリケン爺さんがお前の家のエッ
ター爺さんに、横領した物を返すように迫ったことがあるって、ダディーから聞い
たことがあったな。
でも結局、そのすぐ後にロシアノビッチの家との睨み合いが始まって、うやむや
にせざる終えなかったらしい」
アメリーの表情に、嘘をついているような色は見られません。そういえば、あの
時の父親の態度が思い出されて、ジュネーブ君の頭の中に疑念の黒い靄がかかり始
めます。
「まあ、お前は本当に何も知らないみたいだな。でもな、紫苑の爺さんの形見ぐ
らいは探してやれよ。紫苑の家には、爺さんの形見になるような物は残らなかった
みたいだからな」
そう言って立ち去るアメリー君に、ジュネーブ君は何かを決意したように瞳を閉
じました。
「全部エッター爺さんが悪いのさ。全く、ナッチ会と裏で手を組んで世界町を支
配しようとしていたんだからな。おかげで後を継いだお父さんはえらい迷惑さ」
ジュネーブ君の真摯な問いかけに、父親はお酒を入れながら、ぽつぽつと話し始
めました。ひょっとしたら、父親も良心の呵責にさいなまれ続けてきたのかもしれ
ません。
当時、金持ちからお金を没収して、貧しい従業員達に分け与えると宣伝していた
マル教の方が、ナッチ会よりも恐れられていました。大喧嘩がユーロ町の中で行わ
れていた間は、メリケンさんの家からも、マル教と犬猿の仲のナッチ会に裏でお金
が渡されていたぐらいです。
そんな中、ユーロ町での目覚ましい連勝を続けるナッチ会に、スイス家の時の当
主であったエッターさんは魅入られてしまったのです。
「エッター爺さんは、最後までナッチ会を信じていたからな。喧嘩でナッチ会が
負け始めても、ナッチ会のために武器を作っていたからな。その代金に、最後の方
ではナッチ会は紫苑家の人からから取り上げたお金を使い始めたんだ。
そんなことがあれば、エッター爺さんも、死んでしまった紫苑家の人たちから預
かっていた品物を懐に入れてしまった。
お父さんが家業を継いだときには、もうすべてが終わった後だったよ。
・・くそ!」
ひとしきりの誡告を終えた父親は、思いっきりため息をつくと、一気に残りの酒
をあおりました。
「だっだら、父さん・・・」
「そうだな、ジュネーブ。・・・関係する資料は全部燃やしてしまえ。残ってい
る品物は全部粉々にして捨ててしまえ。
それで何もかもお仕舞いにしてしまおう!」
「でも、そんな!!」
「いいから、そうしろ。私たちは何も悪くない。悪くないんだ!!」
父親にどやされて、倉庫にやってきたジュネーブ君。
父親に教えられた、紫苑家を示す「ja」の区画。そこには色々な黄金・装飾品
がきちんと整理されてしまわれていました。
「父さん・・・」
その中に七本の枝に分かれた純金の燭台を見つけて、ジュネーブ君は知らず知ら
ずのうちにその場で泣き崩れました。
次の日の学校。
登校する紫苑ちゃんが校門を目の前にしたとき、そこに真っ赤に目を腫らしたジ
ュネーブ君がそこに待ちかまえていました。
冷たい視線を向ける紫苑ちゃんに、ジュネーブ君は黙って布きれに包まれた物を
差し出します。
「・・これは!」
何かを察した紫苑ちゃんがその包みを受け取ると、その中には黄金色に輝く七支
の燭台がありました。
「すまない。過ちは正さなければならない。ぼくは・・・」
目を伏せるジュネーブ君などまるで眼中にないように、紫苑ちゃんは大切そうに
燭台を抱きしめて、涙を流さないまま泣き崩れたのでした。
end
さて、火消しの登場です。作品は早々早く書けないのですから、火遊びはほどほどに。
ソースは前に見たNHKの海外ドキュメンタリー。ネット上では次の通り。
スイス銀行の着服
http://tanakanews.com/971205nazi.htm
当時のスイス(赤十字)
http://www.law.hiroshima-u.ac.jp/profhome/nishitan/doc/01998-redcross2.htm
スイス銀行
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Lynx/4808/himitu/bank.html
暗いお話ですが、まあ・・・・
ジュネーブ君のモデルは、破棄される内部資料を、道義的に持ち出して内部告発し
たスイス銀行の警備員です。
しかし、フィリップ・エッターで検索しても、資料が出てこないこと。ネットの限界ですかね。
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