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第2130話 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 05/01/27 00:54:57 ID:n7bF6n9C
「空想特撮シリーズ ウルトラニホン 第2話 怪獣男爵の挑戦」

 窓の無いレストランだった。辺りがようやく見える程度の灯りの下、スー
ツ姿のニホン隊員と新入りのウヨ隊員は中央近くのテーブルに案内された。
他に客は無く、ただ静かなピアノの音が流れていた。二人が席に着いて暫く
手付かずのコーヒーも冷めかけた頃、漸く招待主が姿を現した。
「ようこそ、ニホンさん。それとそちらは弟さんですね。」
闇の中から忽然と、黒の3つ揃いとドレスシャツの男が現れた。若々しい、
端整な顔と云っても良いだろう。黒い仮面の下は推測でしかないが。

 ここ数週間、ニホン隊員宛に奇妙な通信が入り続けていた。一切の通信記
録を残さない其れは怪獣の出現日時と場所を予告し、同時にニホン隊員との
接触を要求していた。予告通りに出現し、何事も無く姿を消す怪獣。
この事態を重視した「コアリッション」は正体不明の相手の要求通りにニホ
ン隊員による接触を試みる事となった。

 「お待たせいたしました、先にお食事でもいかがです?」にこやかに笑い
ながら男は2人に話しかける。”争いに来たのでは無い”と語るかの様に。
「お食事より、お伺いしたい事が有ります」声に警戒感を隠せないニホン。
「やはりお食事が先です。でなければお答えしませんよ」屈託のない笑顔で
男が言う。背後には既に影の様に給仕が前菜の皿と共に控えていた。

 どこかで見た顔だな。他愛のない話題と共に食事が進む中、ニホンは既視
感に囚われていた。彼女の困惑にも気付かぬかの様に、終始友好的に振る舞
う男。「さて」と男が切り出す。「何か私にご質問が有った様ですが?」
「先ず、怪獣の出現の予告です。どうやって情報を?」「ああ、そんな事」
男が微笑む。「知ったのではなく、命令したのです。私のペットにね」
がた、とウヨが音を立てる。傍らの高周波振動刀”関の孫六”に手を掛けた
様だ。「人間に出来る訳が無い」ウヨを目で制しながら言い募るニホン。
「普通の人間では無いからですよ、貴女と同様にね」笑顔で語る男だった。
 前回の事件の時に”光の巨人”に付いては徹底的に調査が行われた。当然
ニホン自身も検査を受け、ニホンと巨人の間には何の関係もないとの結論が
出された。多くの目撃証言もニホン自身が幻視した”存在”も集団ヒステリ
ーと結論付けられた。尤も、周囲の何かを期待するような視線は決して消え
なかったが。

 「私は普通の人間です」ニホンはきっぱりと否定した。「其れが私を指名
した理由でしたら残念でしたね。」若干の寂寥感と共に語るニホン。
「間違いかどうかは試してみなければ判らない」言うなり男は立ち上がる。
「私が状況を用意して差し上げよう」背後の闇に消える男。
「待て、貴様何者だ!」愛刀を手に後を追うウヨ。遅れて駆け出すニホン。

 ビルの屋上にウヨが駆け込む。「一体何処へ行ったんだ、あいつ」辺りを
見回すウヨの頭上から声がする。「私をお捜しかね?」「お、お前!」
見上げるウヨの目に映ったのは、いつの間にか現れた巨木。いや互いに絡合
い100mにも伸びた巨大なツタと枝の様に伸びた蔓の上に立つあの男だった。
違う!一瞬でウヨは自分の間違いに気が付いた。これは植物じゃない、植物
型の”怪獣”だ!「本部、応答願います!本部!」必死の呼びかけに雑音で
応える左腕の無線機。「無駄だよ、少年。暫く前から此処は結界の中だ。」
びゅるん ものすごい速度で巨大な蔓がウヨを襲う。しゅっと抜いた刀で切
り払う。同時に木の幹が脈動を始める。ずおん 脈動の頂点で突然地震が起
こる。「それそれ、私を倒さねば是は地震でこのエリアを廃墟にするぞ」
地下深くに張られた怪獣の根が地核を揺らしているのだ。給水塔の上から男
の枝に飛び移るウヨ。愛刀で一気に男に斬りつける。ぎぃん 片手のにステ
ッキで受け流す男。4、5合打会うも軽く流される。ひゅん 男のステッキ
がうなり、びしっとウヨの手元に入る。剣を落とし掛けるウヨ。
ぎゅおん レールキャノンが”怪獣”の幹に命中する。ニホンが操縦する特
殊車両レオパルド3からの射撃だった。「来たね」ふふ、と男が笑うと巨大
な蔓がウヨの足下を攫う。地上へ向けて落下するウヨ。
 ただ光だけがあった。圧倒的な光。その直後に現れた40mの輝く巨人。
その手のひらに受け止められて、ウヨは”彼女”のギリシャ彫刻の様な顔を
見上げた。「姉さん」血を分けた姉弟の直感が確信させる。彼女はそっと彼
を安全な場所におろすと、地震怪獣ギガクエイクに向き直った。
ずずずず 地面の各所が割れ、そこら中から無数の蔓が飛び出し彼女に巻き
付く。たちまち数十本のツタに縛られる巨人。一瞬の発光と共にずたずたに
切られるツタ。彼女は既に両手に光の剣を持っている。舞う様に滑空し、木
の天辺に滞空すると両手の剣で木を切り刻む。刻まれる度に脈動し、地震を
起こす怪獣。両手の剣を消し、さらに上空へ高度を上げる彼女。左手の平か
ら光の槍を引き出し、怪獣へ一気に投げつける。槍の命中と共に光の粒子と
化し、次の瞬間消滅する怪獣。
 ぱちぱちぱち、と拍手の音が彼女の右手から聞こえる。彼女がそちらを向
くと宙に立つ白馬と其れを駆るあの男が居た。「その姿になるには条件が必
要そうですね。」男の声にあくまで敵意はない。「如何でしょう、普通の人
間成らざる者同士、お友達になりませんか?」彼女は応えない。やれやれ、
と肩をすくめる男。「私は気が長いのです。何時までも待ちますよ。そう、
私を呼ぶのに名前がないとご不便でしょう。どうぞ男爵とお呼び下さい。」
言うなり宙を駈け去る男。彼女もそのまま天空へ飛び去った。

 「結構被害があったみたいね」本部施設の休憩コーナーで、ウヨにぽつり
ぽつりと語るニホンにあまり生彩は無い。公式には怪獣の存在は伏せられ、
地震による被害のみが公表されている。「弾丸特急が脱線。こっちは被害者
が無かったけど」「姉さんはよくやったよ、本当に」精一杯の言葉を掛ける
ウヨ。「放って置いたらもっと被害が出たかも知れないし、」
でもね、とニホン。「私が居無かったら男爵だって」「姉さん」言葉を強く
するウヨ。「僕を助けてくれた。是は嬉しい事に入らないの?」
はっとするニホン。そうだったね、と呟く声には少し明るさが戻っていた。
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 ニホンちゃんは光の洪水の中に浮かんでいました。
おや、どこからか声がします。
悲しまないで、貴女は立派にやっています。声はそう告げています。
私は人間じゃなくなったの?ニホンちゃんは声に訊ねます。
貴女は人間です。ご免なさい、私が役目を押しつけたばかりに。
役目って・・・そう聞きかけた時に声は遠くなりました。
そのまま、ニホンちゃんは意識を失いました。

「姉さん、起きてくれないかなあ」ウヨ君がニホンちゃんを揺さぶります。
「う、うーん」と伸びをすると、やっとニホンちゃんは目を覚まします。
「姉さん、人の部屋で寝込むの止めてくれる?」
どうやらニホンちゃんはウヨ君のコレクションを観ながら
眠ってしまったようです。
「でも、ウヨ君無事で良かった」
「はぁ?」当惑するウヨ君でした。

解説 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 05/01/27 01:06:19 ID:n7bF6n9C
あとがきです。
の前に >881 さま、被ってしまった。許されよ。
謝意は示しますが賠償は御免被ります。

さて、前投稿した「ウルトラニホン」の第2話を
書いてしまいました。
元ネタは昨年末の新潟の震災です。
リアルニホン家のインフラでもあの規模では
被害ゼロとは行きませんでしたねぇ。

あと、男爵のモデルは「西男爵」です。
(戦前のロサンゼルス・オリンピック馬術で活躍)
イメージ違い等のご指摘ございましたらお願いします。

また、各種毀誉褒貶、叱咤激励等、
クレーム、ご要望その他諸々
真摯に受け止めますので宜しくお願いいたします。

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