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第2207話
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 2005/04/05(火) 01:13:47 ID:1jJOWy1w
「記者探偵アサヒ 巻の参 暗黒の犯罪帝国」
此処はトーキョー山の手の、お屋敷ばかりが建ち並ぶと或る一角。
何処からか流れ出たるワルツの調べ。その来し方はいずこやと眺むる先に
一際大きな鹿鳴館もかくやと言わんばかりの麗々たる洋館、チューゴ邸が
聳えたって居りました。
そのチューゴ邸では折しも舞踏会の真っ最中で在ります。
楽士の奏でる調べに乗せて広間で踊るは黒き夜会服に身を包みし貴公子と、
赤きドレスに髪を結い上げましたる麗婦人。その豊かなる胸元にきらりと
輝く銀色のペンダント一つ。並み居る貴婦人、貴公子達の嫉妬とも羨望とも
付かぬ視線を浴びて堂々と、舞うは典雅な夜会の舞。
今宵の宴の主役の艶姿を遠巻きに見つめる人々の中に、我らが婦人キャメ
ラマンニホンと記者見習ウヨの二人の姿も御座いました。
「姉さん、アサヒさんと踊っているのがこの屋敷の主ですか」
「そう、最近此処トーキョーで売出し中の実業家で私たちをご招待して下す
ったチューゴ氏その人よ。余りお若いので吃驚したでしょう」
今宵の宴は先日の四千面相事件の折り、秘伝の家宝、皇家の玉爾を護ったお
礼が為にと大活躍のアサヒ、ニホン、ウヨ、それに警部を招いてチューゴ氏
が開いたもので御座います。生憎と警部は仕事の都合で来られませんでした
が、是非にと云うお招きにアサヒは赤いドレスでいそいそと、ニホンは桜色
のドレスで渋々とお招きに預かったので御座います。
さて、ウヨはと言いますと、
「時にウヨさん、夜会に書生服はないでしょうに」
「姉さんお忘れですか。私は姉さんの忠実なる護衛で御座いますよ」
と、云った次第で普段通りの書生服に愛刀を腰に差しての参加であります。
さて、その頃警部はと言いますと、当のチューゴ邸を配下の警察官達と
密かに見張っておりました。その警官、百は下らなかろうという人数で
全員サーベルにライフル銃で武装しております。一体何を待って居ると云う
のか、その顔からは一切伺わせない非常な決意の警部であります。
「これほど美しき女性に新聞記者などさせておくのはもったいないアル」
「お生憎様。今時は職業婦人こそ時代の花形で御座いますのよ」
ひとしきり踊った後にも名残惜しげに語り合うアサヒと貴公子チューゴ。
まるで一時の逢瀬を楽しむ恋人同士かの如き二人の間に割り込むすべもなく
只呆然と彼方より見つめるだけのニホンとウヨであります。
しかし、その時突然広間に響き渡るは聞き覚えのある哄笑。
「わはははははは、久しぶりだな探偵諸君。前回はとんだ醜態を晒したが、
今日こそは天下の秘宝、皇家の玉爾は頂戴するぞ」
あれえ、助けてとばかりに逃げまどう貴婦人、紳士達の中、
「おのれ、四千面相め。性懲りもなく又現れたかっ」
叫ぶウヨが広場を見るや、今やその盗賊の本性を顕わにした楽士達が、
隠し持ったる武器を手にチューゴ氏とアサヒを取り囲まんとして居るでは
在りませんか。
「さぁ、その身に付けし伝家の秘宝、我が手に寄越せば非道はせんぞ」
いつの間にか現れたる黒マントに覆面の怪人がチューゴ氏に迫り来る。
危うし、我らが婦人記者アサヒ。
その瞬間に賊徒と二人の間に割って入るは、抜刀したウヨであります。
「今宵は手加減はせんぞ。我が愛刀の錆になりたくば掛かってこい」
斬りかかる凶刃を、がっきと受け止め、切り飛ばしたる銘刀関の孫六。
左から来るを受け払い、正面から来るを掠らせもせず切り伏せる、
八面六臂、鬼神もかくやの活躍のウヨであります。
「四千面相め。今日こそは観念して貰うぞ」
混乱の最中に屋敷に雪崩れ込んで来たのは警部と其の配下の警官達で
在ります。屋敷の各所に潜む四千面相の配下達を捕らえつつ、ついには
辿り着きたる舞踏会会場。
「アサヒ、ニホン、無事か」
大音声と共に駆け込んだ警部の目前に、あり得ぬ光景飛び込みました。
「おお警部。漸く我が招きに応じてくれたアルか」
不適に笑うは屋敷の当主、チューゴ氏であります。
片手にはアサヒを虜にし、もう片手には短き匕首をアサヒの首筋に
ぴたりと当てております。ウヨはアサヒを人質に取られ防戦一方、一方的に
続の刃を受け流すばかりに御座います。一方ニホンはと申しますと、壁に飾
り付けた在ったと思しき異国の槍を、恰も長刀のごとく振り回し意外や意外
の大奮戦で御座います。しかし無念、朋友アサヒを人質に取られ思うままに
は動けぬ悔しさ、徐々にではありますが形勢不利になった参りました。
「警部も余り動かない方が良いアルぞ。動けば貴様の友の命が無いアル」
ぎりっ、と歯がみをし警官隊を制する警部。
進退窮まれりとは此の事に御座います。
さてその時に切なき声で
「さても心変わり致しましたか、我が愛しの君」
と、今や盗賊の本性を現したチューゴに声を掛けしはアサヒであります。
「その様な言葉で仏心を引き出そうなぞ、笑止千万アル」
「愛しき我が君に命を奪われしは切なき事成れど、最後に我が胸にかけし
懐中時計の示し時刻をお教え下さいましょうや。
後生と思い、せめて我が君の声でお伝え下さいまし」
見ると胸元に掛かりし銀の小さな懐中時計が切なき呼吸に合わせ、
ゆらゆらと揺れております。
「なに、その位はおやすい御用アル」
と、精緻なる銀細工の時計をのぞき込むチューゴの耳元に、
ぱちり、と指を鳴らしてみせるアサヒでありました。
途端に棒杭が倒れるがごとく昏倒する、怪人四千面相ことチューゴ。
呆然とせし盗賊共に向け警部が叫ぶ。
「引っ捕らえよ。只の独りも逃してはならぬ」
今や形勢逆転、あっけない幕切れとなりました捕り物劇であります。
此処はお堀に臨むカフェの一角。
いつものごとく一杯の紅茶と三杯の珈琲が並ぶ卓を前に、
顔を揃えしいつもの四人。
「やれやれ、いつ見てもアサヒの催眠術は剣呑な技だ」
警部の慨嘆に応ずるは当のアサヒであります。
「あの偽皇子、踊っている最中から私の胸元の銀時計を眺めて居たん
ですのよ。最後の時にはとっくに私の術中で御座いましたとも」
頬杖を突き乍らぼんやりとお堀に浮かぶ桜の花びらを眺めるその横顔に
浮かびしは、明日の事件か泡沫の恋物語か。
「処で、何故き奴が四千面相と判っていたのですか」
ウヨが真剣な面もちで問ふにニホンが答えて曰く、
「あの御璽よ」
「御璽ですか。あの盗まれ損なった」
「そうよ。あれ、実は真っ赤な贋作だったのよ。
本来ならあれは海の向かふに或る帝国の王の印なのよ。
で、あのチューゴは皇子を名乗っていたのよ、資格もないのにね。
だから無くなって貰わねば困る訳」
「序でに我が実家の保険事業を破綻させれば、密かに圧迫されていた
き奴の事業にも浮かぶ瀬も出てくると踏んだのだろう」
と、説明を繋げる警部であります。
「まぁ、例のカンコとキッチムの仲間割れで盗品の捌き先も無くなっていた
のだから、盗賊事業も遅かれ早かれ御陀仏だっただらふがね」
「へぇ、こいつは吃驚だ。処で本物の御璽の行方は何処なんです」
「さあね。でも或る女の子の手元にあるって噂も聞くわ。
どう、今度は私達で探してみない事」
突然元気になって口を挟むアサヒであります。
あはははは、と笑い声の響くカフェの外を春一番が吹いて参ります。
次に探すは秘宝の行方か恋の相手か。
是にて記者探偵アサヒの冒険物語はひとまずの終わりで御座います。
解説
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 2005/04/05(火) 01:24:06 ID:1jJOWy1w
後書きやら云い訳やらその他諸々
嗚呼やっと完結を見ました記者探偵アサヒで在ります。
一応もとネタはと言いますと
「中華の本来の正当性はチューゴではなくタイワンちゃんが持つ」
という、うっすいネタだけであります。
なんですと、
「インチキすんな、金返せ!」
ですと?
残念、私はお金は頂戴しておりませんから。
ああ、石を投げないで。
石の代りに御批評など頂けると有り難いです。
なんですと、
「それはオマエ前にもやったろうが!」
その通りですが、何か?
ああ、石を(以下暫くループ
まぁ、インチキ大正調が
何処まで成功したか、本当に心許ない限りですが、
取り敢ずNo93殿の絵から話を起こすという
実験でありました。
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