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第2209話
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 2005/04/10(日) 00:43:18 ID:heiJp8NV
「鷹の行方」
此処は休日のエリザベスちゃんの自宅です。
こんこんこん、と小さい子供が玄関のノッカーを鳴らしています。
「すみませーん、エリザベスさん居らっしゃいますか?」
どうやら礼儀正しい子のようです。
「ちょっと、誰か出て頂けませんこと?」
折角の休日に自室でくつろいで居た時間を邪魔されて、エリザベスちゃん
は少々不機嫌になりました。無視を決め込んでいたのですが、待てど暮ら
せど使用人達は訪問者に応える気配はありません。
そのうちにまた遠慮がちに、こんこんこん、とノッカーが鳴ります。
「もう、近頃の使用人達と来たら」
どすどすどす、と日頃の上品さもかなぐり捨てて玄関へ向かいます。
「はい、どなたですか」
ドアを開けると、一瞬で訪問者の美しい顔に目を奪われました。
「あら。一体どなたですの?取り敢ず中へお入りなさいな」
たちまち上機嫌になり、少々強引にその子の手を引いて直接自室まで
招き入れるエリザベスちゃんです。
自らソファを勧め、紅茶を煎れ、ケーキを出して、と
日頃の彼女からすれば珍しいくらいに訪問者のお世話をしています。
実は彼女、さっきまで「もし自分に妹が居たら」と云う空想に耽って
いたのです。
「きっと髪の色は黒で、私に似た気品と清潔感が溢れる美少女だったに
違いない。ああ、そうしたらこんな服がきっと似合うはずですわ。
もしそうだったら一緒にこんなお化粧をしてあんな事を話して・・」
空想はふくらむ一方でした。其処へ突然現れた”理想の妹”に
彼女はすっかり夢中になってしまいました。ちらちらと綺麗な横顔を
盗み見しながら、彼女の小さい時の服を着て貰えるようお願いしようか、
などと考えていました。
「そう言えば未だお名前もお伺いしておりませんでしたわ」
礼儀と気品をモットーとする淑女としては大きな失点です。
「申し遅れました。私、マルタと申します。
実は私、お願いしたい事があってお伺いしました」
美しい顔に凛とした涼やかな声。エリザベスちゃんは
”マルタ”という聞き慣れない名前の訪問者に夢中です。
「そうですか。お願い事なら聞いて差し上げなくても無くてよ。
でも、何もせずに聞いて差し上げるのも芸が御座いませんわねぇ」
美しい訪問者の切実な表情に、悪戯心が芽生えるエリザベスちゃんです。
「さぁ如何かしら、私が以前着ていたものですけれども」
鏡にエリザベスちゃんと共に映るのは、純白の踝まで丈のある
まるで小さな花嫁のようなドレス姿の訪問者の姿でした。
艶やかに輝く赤い靴に白い靴下。ピンクの口紅に極薄くさしたほお紅。
ごく控えめな髪飾りは艶やかな黒髪に誂えたように似合いました。
「こんなに似合うなんて思いませんでしたわ」
思わず呟きを漏らし、照れ隠しのように後ろから抱きすくめるエリザベス。
腕の中で小刻みに震える小さな子供により一層の愛着を禁じ得ません。
でも、暫くして漸く腕の中の”少女”の異変に気が付きました。
「ううっ、ひっく、ひっく。こ、この屈辱に耐えれば
お願いを聞いて頂けるのでしょうか?」
嗚咽を堪える”少女”に狼狽しているエリザベスちゃんに
突然声を掛ける者がありました。
「あらあら、また男の子を泣かしてしまいましたの?」
部屋の入口を振り返れば、フランソワーズちゃんが
いつものように少々皮肉な微笑みを浮かべて手を振っていました。
その昔、地球町ヨーロッパ地区が今よりもっとごちゃごちゃして
居た時のお話です。とっても勇敢で信仰心の深い人達が在るところで
平和の為に働いていたのです。余所から力任せにやってくる人達をくい止め
たり、争いで傷ついた人達を直してあげたり。そんな人達もフランソワーズ
家のご先祖に住むところを追われ、大事にしていた”マルタパンツ”まで取
り上げられてしまったのです。その人達はマカロニーノ家の敷地内に間借り
しながら、それでも人助けを続けたのだそうです。
「で、そのパンツはエリザベスさんのご先祖様が私の家から強引に
持ち去ったのでしたわねぇ」
結局、是が云いたかったフランソワーズちゃんでした。
当の”少年”マルタくんは漸く泣きやみました。
「さぁ、もう良いでしょう。あなたの取り戻したかった”マルタパンツ”
は私が野蛮人から取り戻しておきましてよ」
そっと、”マルタパンツ”を少年に差し出すフランソワーズちゃんです。
ぽっ、と灯が点ったように輝く少年の瞳。
「あ、ありがとう御座います!お二人にはなんとお礼を申し上げれば!」
少年は窓を開くと鋭く口笛を吹きました。すると、ぴーー、と云う
鳴き声と共に鷹が一羽舞い込んできて少年の腕に止まりました。
「古にしきたりに倣い、この鷹をお礼に差し上げましょう」
腕に止めたまま差し出される鷹に面食らいながら、丁重に固辞する
二人です。そう、鷹は大空を舞ってこそ鷹なのです。
少年を名残惜しそうに送り出してから、エリザベスちゃんには未だ
確認せねばならない事が残っていました。
「フランソワーズさん。何故貴女が私の家にいらっしゃって、
何故”マルタパンツ”をお持ちでしたのかしら?--まさか、
ま た この家で怪盗貴族ごっこなんかなさってませんわよねぇ?」
「おほほほほ、なんの事で御座いましょう?」
決して目を合わせようとしないフランソワーズちゃんでした。
解説
青風: ◆BlueWmNwYU
投稿日: 2005/04/10(日) 01:05:28 ID:heiJp8NV
後書き解説なんでもあり
ああ、以前七升さまが描いた”マルタ君”を
描いてみましたが如何でしょうか?
それにしてもリアルマルタ君も本当に数奇な
歴史の持ち主ですねぇ。
取り敢ずマルタ共和国内の砦にマルタ騎士団の
治外法権が認められて居るらしいので、
一息ついた、と云ったところでしょうか。
キャラとしては
「信仰心が厚い、勇猛果敢で忍耐強い美少年の騎士。
しかも治療魔法が使える。序でに、鷹を使役できる」
という極めてRPG主人公向きの
キャラになってしまうような感じですが。
ああ、そうだ、3年生キャラとして良いでしょうか>七升さま
これで3年生の「ウヨ君一極集中」状態からの
脱却がはかれる、かな?
因みに文中の出てきた”鷹”は
マルタ島に騎士団が拠点を構える際に
”年一羽の鷹をスペインに献上する”
ことを条件にされていた、と言う話に基づきます。
これは映画「マルタの鷹」のベースになった話
でもあるのです。
とは言え、御批評その他何でもお待ち致しております。
(いや、ホント、マジでおながいします)
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